とよたま愛読会103回天祥地瑞 午の巻 第79巻19章〜第23章
                 記:望月幹巳 メール:motomi@moon.nifty.jp


日 時  平成17年4月24(日) 午後1時から午後4時30分まで
場 所  愛善苑 豊玉分苑 (京王線下高井戸駅下車 徒歩8分 川崎方)
      連絡先 03-3321-3896、  03-3321-8644
物 語  
天祥地瑞 午の巻 第79巻19章「 大井の淵」(2000)〜
第23章「二名の島」(2004)

★ 報告
新緑の候、皆様にはお変わりなくお過ごしのことと思います。

 さて、物語の筋はクライマックスへと続いていきます。艶男は、竜の島根から燕子花(かきつばた)を連れて逃げ出し、故郷の水上山に帰ってきました。両親や重臣たちに迎えられ、水上山はしばらく平穏で豊かな日々が続きます。

 しかし、燕子花はなぜか水辺を好み、浮かない様子で大井川を見つめるようになりました。そして、艶男に頼んで、大井川に大きな淵を作らせます。燕子花は、夜になると、その淵で元の竜の体に戻って水浴をしていたのでした。艶男の言霊によって人間の体になったかのように見えた燕子花でしたが、それは完全ではなかったようです。

 やがて月満ちて、燕子花は艶男との子供を産みます。出産の夜、艶男の父・山神彦は、七日七夜の間、産婦に近づいてはならない、と厳命しますが、艶男は妻と子供を一目見たさに、産屋をのぞいてしまいます。
すると、燕子花は竜神の体に戻ってしまっていました。艶男は思わず驚きの声を上げてしまいます。夫に竜神の体を見られてしまった燕子花は、恥じらいのあまり、大井川の淵に身を投げ、完全に元の竜体に還元してしまい、人語を失ってしまいました。後に残された御子は、竜彦と名づけられました。

妻を失った艶男は激しく歎き悲しみ、以後は大井の淵に舟を浮かべて遊ぶのを、唯一の慰めとして暮らします。ある黄昏時、大井の淵に舟を浮かべた艶男に、竜の島根から艶男を追ってきた3人の竜女神、白萩・白菊・女郎花が、恨みの歌を歌いかけます。すると、淵の底から竜女神と化した燕子花が現れ、3竜女神と艶男を巡って争いをはじめ、暴風雨吹き荒れ、雷鳴とどろき、地震が水上山を襲います。この天変地妖で艶男は命を失い、また水上山の国津神も命を失うもの、家を失うものが多数出て、大災害をもたらします。国司の山神彦・川神姫、重臣の岩ヶ根、水音、瀬音は、生まれたばかりの竜彦を連れて、ようやく山頂に逃れます。そして、この災厄が一刻も早く収まることを、神殿に祈願します。すると、天より降臨したのは、葭原の国の御樋代神・朝霧比女の神でした。朝霧比女の神は、この災厄は、国司が代々犯してきたおごりの罪によって起こったことを明かします。

本来、天津神が生み拓いて治めるべき国を、我が物のように思ってしまった罪を諭します。山神彦と川神姫は心から悔い改めの歌を歌うと、その誠を感じた朝霧比女の神は、言霊によって暴風・地震をたちまちに鎮めます。そして、山神彦と川神姫の一統に、水上山の国司として留まることを許したのでした。

朝霧比女の神とその侍神たちは、竜の島根の竜神たちは未だ完全な存在ではなく、朝霧比女の神によって完成するであろうこと、竜彦は成人するまで、御樋代神の侍神・子心比女の神によって育てられるべきこと、山神彦と川神姫はまつりごとから引退し、重臣の岩ヶ根が引き継ぐこと、岩ヶ根は竜彦が成人したら、まつりごとを竜彦に返却すること、を定めます。そして、高光山方面に去っていくと、高光山の東に御舎を構えて葭原の国を経綸することとなったのでした。

★ 拝読箇所で気のついたこと
伊吹の山颪>
第十九章 大井の淵(2000)

  • 水上山は艶男が帰ってきてからは生活が豊かになり、国津神たちは泰平の世を謳歌した。

  • 艶男と燕子花は、朝夕に庭園に出て仲むつまじく逍遥していたが、燕子花はなぜか水辺を好み、大井川の清流をじっと見つめて浮かない顔をしていた。

  • 艶男は燕子花にそのわけを尋ねた。すると、燕子花は、竜神の性が体に残っており、川で水浴したいという思いが、流れる水への慕わしさをかきたてるのだ、と答えた。

  • そして、ひとりで思うまま水浴することができるよう、大井川をせきとめて、淀を作ってくれるよう、艶男に頼み込んだ。

  • 艶男はさっそく国津神たちを集めて堰をつくった。この堰は大井の堰と名づけられ、あふれた川水が滝となって下流に落ちていく様は、壮観であった。

  • 燕子花は月が昇った後に、艶男に告げて、ひとりで大井の川瀬に水浴に出かけた。艶男は妻の様子が腑に落ちないので、ひそかに大井の川瀬に出て、葦草の中に身を潜めて、妻の挙動をうかがっていた。

  • 燕子花は真裸になって水中に飛び込むと、体は元の竜神の体に変じ、うろこの間の虫を洗い落としていた。

  • 燕子花は水上に顔だけのぞかせて水浴していたので、艶男は燕子花が竜体に戻ってしまったことは少しも気づかなかった。そこで、みぎわ辺に立って、妻に歌いかけた。燕子花は答えの歌を歌い、もうすぐ水浴を終わって戻るから、心配せずに帰るよう、艶男に歌いかけた。

  • 艶男が帰ったのを見届けて、燕子花は水中を駆け回り、水煙を上げて泳ぎ回ったが、ようやくみぎわ辺に這い上がると、呪文を唱え、人体と化した。そして、何食わぬ顔で夫の館を指して帰って行った。

  • 第二十章 産の悩み(2001)

  • 艶男と燕子花は、夏の初めに、大井川の淵に新しい舟を浮かべて、半日清遊を試みた。

  • 艶男と燕子花は歌を歌いあったが、艶男は最近、藤ヶ丘にあやしい煙が立っているのを不審に思っており、誰か人がいるのではないか、と思いを語った。

  • 燕子花は驚きの色を浮かべて、藤が丘の煙を見るたびになぜか魂がおののき、朝夕に雲霧が立つのは、藤ヶ丘に竜神が住んでいるのではないか、と懸念を歌った。

  • 艶男は妻が嫌がる丘には近づかないようにしよう、と誓い、みぎわ辺に舟をつないで館に帰って行った。

  • 二人が夕飯をすませて話しにふける折しも、燕子花はにわかに産気づき、陣痛が激しくなったので、かねてから設けてあった産屋にはいって戸を固く閉じた。

  • 山神彦・川神姫はこのことを知るととても喜び、直ちに神殿に詣でて祈りの言葉をささげ祀った。

  • 山神彦・川神姫が艶男の居間に来てみると、息子は腕を組み、黙ったまま青ざめた顔をしていた。山神彦夫婦がわけを尋ねると、艶男は妻の容態が心配でもあり、また生まれてくる子がもしや竜神ではないかと思うと、心が苦しいのだ、とわけを打ち明けた。

  • 川神姫は、神の恵みを信じて心配しないように息子に諭した。そうするうちに、子供が無事に生まれたという知らせが一同に届いた。山神彦は、産婦は姿を見られるのを嫌うので、七日七夜、産屋に近づかないように厳命し、ふたたび神殿に額づいて、燕子花の安産の感謝をささげ、川神姫とともに寝殿に入っていった。

  • 艶男は、父の厳しい戒めにも関わらず、妻や子を一目見ようと、月の照る庭を忍び忍び産屋に近づき、戸の外からすかし見れば、燕子花は竜の体となって、玉の子を抱いて眠っていた。

  • 艶男は肝をつぶし、あっと叫んで逃げていったが、燕子花を目を覚まし、この姿を夫に見られたかと思うと恥じらいのあまり、戸を押し開けてまっしぐらに大井ヶ淵の底深く飛び込んでしまった。

  • 生まれた御子は、竜彦と名づけられた。

  • 第二十一章 汀の歎き(2002)

  • 燕子花は最愛の夫に醜い竜の体を見られたことを恥じらい、大井ヶ淵に見を投じて、これから先は淵の底から艶男の声を聞いて楽しみとするのみの生活を覚悟した。燕子花は竜体に還元してしまったので、人語を発することができなくなってしまった。そして、心の内で歎きの述懐歌を歌った。

  • 山神彦、川神姫の二人は、夜中の出来事を聞き、驚きと歎きのあまり、表戸を固く閉じて七日七夜、閉じこもってしまった。艶男は突然の出来事に、驚き歎きつつ、朝夕に大井川のみぎわ辺に立って、追懐の歌を歌っていた。

  • 水上山の政をつかさどる四天王は、あまりの異変に驚き、今後の処置を艶男に計ろうと居間を訪ねたが、もぬけの殻であった。驚いて、もしや艶男は燕子花の後を追って淵に身を投げようとしているのではないかと、急いで大井川の淵瀬に来て見れば、はたして艶男は両岸をはらし、涙の袖を絞って歎いていた。

  • 四天王のひとり、岩ヶ根は背後から艶男を抱え、残された御子や父母のことを思い、おかしな心を起こさないように諭した。艶男は、もはや自分には死しかないと思い定めたのだ、と答えた。

  • 続いて、四天王のひとり真砂もまた、艶男をいさめたが、艶男は、もはや死に思いを定めたので、あとは自分に代わって竜彦を育ててくれ、と答えた。

  • さらに、真砂、水音は艶男を諭す歌を歌い、ようやく艶男は、自分も人の情けを知る身であると答え、一行は館に帰り行くこととなった。

  • 第二十二章 天変地妖(2003)

  • 艶男は岩ヶ根をはじめとする四天王の言葉を尽くしてのいさめに、死を思いとどまったが、なぜか大井の淵が恋しくてたまらず、朝夕に船を浮かべて遊ぶのを、唯一の慰めとしていた。

  • 岩ヶ根は、艶男にまさかのことがあってはと、真砂、白砂を監視として舟遊びに伴わせていた。

  • 小雨が降る夕べ前、大井ヶ淵にしばし舟遊びを試み、黄昏の幕が迫るころ、不思議にもかすかな声がどこからともなく聞こえてきた。よく耳を澄ませば、以前に竜の島で艶男に思いをかけていた、白萩の悲しげな声であった。

  • 白萩は、艶男が燕子花と逐電したことに恨みを述べ、故郷の竜の島根を捨てて、藤ヶ丘に移り住んだのだ、と歌った。艶男は、自分も木石ならぬ身ではあるが、一つの身でいかにできよう、と返し、自分もまた今は悲しみの淵にあり、今はただ両親のために生き長らえているのみなのだ、と歌った。

  • すると、今度は白菊の悲しげな声が聞こえてきて、やはり艶男への恨みを歌った。艶男は、白菊のことを忘れたことはなく、ただ時を待つように、と歌った。

  • また、今度は女郎花の声が、艶男への恨みを歌った。歌が響くおりしも、淵の水はにわかに大きな波紋を描き、水煙とともに、人面竜身の燕子花が立ち現れた。

  • 艶男、真砂、白砂は驚き呆然としたが、波紋はますます激しく、舟も覆ろうとするばかりの荒波となった。艶男は意を決して、自分の恋する燕子花のすさびがこれほどまでなら、もはや自分は水の藻屑となろう、と歌った。

  • 真砂、白砂は驚いて艶男の手をしっかりと握り、艶男を諭して押しとどめようとしたが、一天にわかに掻き曇り、暴風吹きすさみ、大地は震動して、荒波のたけりに舟もろとも、三人の姿は水中深く隠れてしまった。

  • これより日夜の震動やまず、雷とどろき、稲妻はひらめき、暴風が吹きすさんで雨は盆をかえしたように激しく降ってきた。水上山の聖場は阿鼻叫喚の巷と化し、岩ヶ根は竜彦を背に追って高殿に避難して難を免れた。国津神たちは右往左往し、泣き叫ぶ様は目も当てられない惨状となってしまった。

  • ここへ、天より容姿端麗な女神が、四柱の侍神を伴って、この場に降ってきた。

  • 第二十三章 二名の島(2004)

  • 水上山方面の地では、数日の間天災が打ち続き、暴風雨、地鳴り震動が連続的に起こり、大井ヶ堰は濁水が流れ落ちた。

  • 大井の淵には四頭の竜神が互いに眼を怒らし、一人の艶男を奪おうと絶え間なく格闘を続け、竜体から流れる血汐は濁水に混じって朱のごとくであった。

  • 水かさは日に日に増し、低地に住んでいた国津神たちは住家を流され、生命を奪われるものも多くあった。山神彦、川神姫は岩ヶ根、瀬音、水音とともに、幼い乳飲み子をかかえ、頂上の神殿に参篭して天変地妖がおさまることを祈願したが、惨状はますます広がるばかりであった。

  • そこへ、黒雲を分けて喨喨たる音楽とともに、四柱の侍神を従えて、水上山の頂へ御樋代神・朝霧比女の神が降臨した。四柱の侍神は、大御照(おおみてらし)の神、朝空男の神、国生男の神、子心比女の神である。

  • 朝霧比女の神が厳然として宣言するには、この惨状をもたらしたのは、天津神が生んで治めるべき国を、我が物顔に振舞った罪である、と。竜ヶ島根はまだ完全に備わっていない国であり、竜神たちは人の顔を持っているが、身体は獣である。神の子の御魂をもって、獣の姫を娶るのは罪であり、艶男は神の掟にそむいた報いで、命を落とした。今日からは、いずれの神も心を清めて改めるべし、と。

  • そして、朝霧比女の神が天の数歌の言霊歌を歌うと、雷鳴、暴風雨、地震はぱったりと止まって、安静の状態にたちまち戻った。

  • 山神彦、川神姫は、濁流が次第に減じていくのを眺めながら、神の治めるべき国を我が物としてきた罪を悟り、悔い改めを誓った。この言葉の誠を知った朝霧比女の神は、二人を許し、国の司として水上山に止まることを許した。

  • 山神彦をはじめ、重臣の岩ヶ根、水音、瀬音はそれぞれ、これまでの罪を悔い改める述懐の歌を歌った。

  • 朝霧比女の神の侍神、大御照の神は、今は完全な神ではない竜の島根の乙女たちも、御樋代神が島に渡れば、島は生きる国となり、伊吹山に集まる曲津見たちも、花となり匂うであろう、と歌った。

  • また、朝空男の神は、山神彦、岩ヶ根、瀬音、水音に、力をあわせ、御子が成人したら御子をこの地の司として辺りを治めさせるように託宣した。

  • 国生男の神は、葭原の国に降って、都を造る業に携わるであろう、と歌った。

  • 朝霧比女の神は、年老いた山神彦・川神姫は政から引退して、岩ヶ根に任せること、岩ヶ根は御子が成人したら、国の政治を御子に返すこと、そして御子は竜神から生まれたので、国津神たちには育てられず、子心比女の神に預けて育てさせるよう、宣言した。

  • 子心比女の神は御子を抱えると、水上山の一同に御子の生い立ちを約束し、御樋代神とともに高光山に居を定めることを宣言した。そして、御樋代神一行は、悠然と雲を起こして、高光山方面を指して去っていった。

  • 高光山の東に、御樋代神の御舎は建てられ、土阿(とあ)の宮殿を造って土阿の国と名づけた。そして、高光山より西を、予讃(よさ)の国と名づけた。葭原の国を総称して、貴の二名島(うづのふたなじま)と言うようになった。

  • 以上   [前回レポート] [次回レポート]


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