バルトーク ちょっと寄り道 その3 〜歌劇「青ひげ公の城」〜

初版作成:2004年4月4日


 第51回定期で、バルトーク「舞踏組曲」を演奏しますので、普段あまり聴かないバルトークについて、ちょっと寄り道して他の曲も聴いてみようというこの企画、第3弾としてバルトーク唯一の歌劇「青ひげ公の城」を紹介しましょう。
 ただし、このオペラ、ハンガリー語という特殊条件のため、まず上演されることはありませんし、録音もほとんどありません。従って、「聴いてみましょう」とは積極的に言えない作品ですが、まあ、ひとつのトリビアということでお読み下さい。



 このオペラは、1911年の作曲ですので、バルトークの中では比較的初期に当たります。同様の舞台作品である「不思議なマンダリン」(バレエというよりパントマイムのための音楽)と同時期の作品です。台本作者の政治的立場から、「マンダリン」同様、上演が許可されず、初演は1918年となります。
 1時間程度の1幕もので、視覚要素も重要なので、バルトークは全く意図しなかったと思いますが、舞台上で上演されるよりも、カメラワークをうまく使った映像作品として取り扱った方が効果ありそうです(私が持っているのも、ハンガリー国営放送制作の、ショルティの指揮でスタジオ録画されたものです)。

 このオペラは、幕開き前に語りで前口上を除くと登場人物はたったの2人、青ひげ公と新妻のユディットです。
 ユディットは、家族や許婚も捨てて、青ひげ公のもとに飛び込んできた、と歌われ、初めて青ひげ公の城に入ります。湿った冷たい石の壁・・・。ユディットは「城が泣いている」と表現します。青ひげ公は、ユディットが城の中に明るい光をもたらすことを期待します。
 ユディットは、全てを捨ててきた自分に、青ひげ公の全てを見せてほしいと言い、城の中で封印された7つの扉を全て開くことを要求します。青ひげ公は拒否しますが、ユディットの剣幕に押され、1つずつ扉を開いていきます。

 第1の扉の中は、恐ろしい拷問部屋。青ひげ公の残忍な部分でしょうか。

 第2の扉の中は、武器庫。血の付いた武器が並んでいます。青ひげ公の征服欲の象徴か。

 第3の扉の中は、宝物庫。青ひげ公が奪い取ってきたものか。ユディットは喜びますが、宝物には血が付いています。

 第4の扉の中は、秘密の花園。ユディットはうっとりしますが、花が血塗られていることに気付いて驚きます。

 第5の扉の向こうは、青ひげ公の広大な領土が広がっています。このオペラのクライマックスを構成する部分で、壮大な響きの音楽です(平行5度を多用しているのは、ドビュッシーの影響でしょうか)。でも、ユディットは「雲が血の色だ」と言って怖がります。

 ここまで見せた青ひげ公は、ここでやめにしようとしますが、ユディットは納得せず、口論の末、次に進みます。

 第6の扉に中には、ひっそりと涙の湖があります(ここに出てくる木管のアルペジオは、「管弦楽のための協奏曲」第3楽章「エレジー(悲歌)」にも出てきます)。青ひげ公自身の孤独か、それとも青ひげ公の犠牲になった者たちの悲しみか。

 ここでユディットは、青ひげ公に「過去に愛した者」のことを知りたいと迫ります。

 第7の扉の中には、3人の先妻がいます。ユディットはその美しさに圧倒されます。そして、ユディットもこの妻達の仲間に入っていき、城は再びひっそりとした夜に戻っていくのでした。

 愛する人の全てを知りたがり、全てを知ったとき終わりがやって来る、という物語なのでしょうか。似たような話は、「鶴の恩返し」とかヴァーグナーの「ローエングリン」とか、世界中にあるようです。



お勧めCD、DVD

 国内盤が見つかりませんので、とりあえず輸入盤を。原語はハンガリー語(マジャール語)。

DVDショルティの演奏があります。ショルティは、ハンガリー出身でバルトークの弟子(ピアノの)に当たります。映像は実演の舞台ではなく、映画仕立てです。シルヴィア・シャシュ(この歌手もハンガリー出身)の妖しい美しさが何ともいえません。
バルトーク : 歌劇 「青ひげ公の城」全曲 ショルティ指揮ロンドン・フィル/シルヴィア・シャシュ(S:ユディット)、コロシュ・コヴァーチュ(B:青ひげ公) ¥2,986

CDケルテスの指揮したもの(1965年録音)。そういえば、ケルテスもハンガリー出身ですね。
バルトーク : 歌劇 「青ひげ公の城」全曲 イシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団/クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ:ユディット)、ヴァルター・ベリー(バリトン:青ひげ公) ¥1,291

CDオールソップ女史の指揮したNaxos盤。2007年5月の新しい録音です。
バルトーク : 歌劇 「青ひげ公の城」全曲 オールソップ指揮ボーンマス響/アンドレア・メラス(メゾ・ソプラノ:ユディット)、グスターフ・ベラチェク(バス:青ひげ) ¥1,055



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