ブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」 〜第77回の演奏曲目に関して〜

2016年 12月 28日 とりあえず初版作成

 次の定演(第77回)で、ブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」を演奏します。
 この曲について、関連のある話題を少しだけ。

 ブラームス(1833〜1897)とJ.シュトラウスU(1825〜1899)のツーショット



1.ブラームスと「変奏曲」

 ブラームス(1833〜1897)は、もともとピアニストとしてスタートし、ピアノによる「変奏曲」は得意な分野で、多くの作品を作曲しています。

・シューマンの主題による変奏曲 Fis-moll 作品9
・ピアノのための2つの変奏曲 作品21
・シューマンの主題による変奏曲 作品23
・ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 作品24
・パガニーニの主題による変奏曲 作品35  ←パガニーニといえばこれ! という独奏ヴァイオリン用の「カプリス 第24番」に基づく長大な変奏曲
など。

 20歳ごろの1853年にシューマン(1810〜1856)の知遇を得て、シューマンは『新音楽時報』誌に『新しい道』と題する評論を発表してブラームスを熱烈に賞賛し、作品を広めるために重要な役割を演じたようです。しかし、知り合って間もない1854年に、シューマンはライン川に身を投じ、以降はクララとの面会を禁じられたまま、精神病院で生涯を閉じます。

 シューマンは、自殺未遂を起こす当日も「夢の中で天使が奏でてくれた」という主題に基づくピアノ独奏用の変奏曲を作曲していました。この曲はほぼ完成していたものの、シューマンの死後に残された作品を出版する段階で、楽譜を整理していた未亡人クララとブラームスによって出版対象から外されます。
 しかし、この曲を惜しんだブラームスは、この主題をもとにピアノ連弾曲の「シューマンの主題による変奏曲 変ホ長調・作品23 」を作曲します。ブラームスとしては、初めての連弾用ピアノ曲です。おそらく、クララと一緒に弾くことを想定して作曲し、2人で並んでプライベートな「世界初演」をしたのだと思います・・・。ときに、ブラームス27歳、未亡人のクララは41歳・・・。ちょっと映画のワンシーンになりそうです。(ブラームスは、生涯クララを敬愛していました)
 ちなみに、シューマンのオリジナル曲は、1939年になって出版され、日本語では「天使の主題による変奏曲」とされていますが、原題は「Geistervariationen:幽霊変奏曲」です。

 クララ・シューマン(1819〜1896)

 あ、ちょっと寄り道をしてしまいました。シューマンではなくハイドンでしたね。

2.「ハイドンの主題による変奏曲」の作曲まで

 そんなブラームスですが、ベートーヴェンという偉大な作曲家のあとに、なかなか管弦楽曲や交響曲が作曲できずにいました。

 ブラームスが、管弦楽曲の「練習」として作曲したのが
・「セレナーデ第1番」作品11(1857)
・「同 第2番」作品16(1859)
・ピアノ協奏曲第1番・作品15(1859)
などです。それでもまだ管弦楽曲に自信が持てなかったのか、この後しばらく管弦楽作品は作曲していません。
 その後、管弦楽を含む作品として作曲されたのは、
・「ドイツ・レクイエム」作品45(1868)
・「アルト・ラプソディ」作品53(1869)
などの声楽曲でした。

 そして、交響曲第1番・作品68(1876)に向けて、ようやく満足のいく管弦楽作品として自信をもって完成したのが、この「ハイドンの主題による変奏曲」作品56a(1873)です。作品番号が「56a」となっているのは、管弦楽版に先立って2台ピアノ版が作られているからで、2台ピアノ版が「作品56b」です。

 ピアノ2台版の「ハイドンの主題による変奏曲」の音源

 この作品の後、ブラームスは交響曲第1番・作品68に取り組んでいくことになります。

3.「ハイドンの主題による変奏曲」の内容

 曲は、最初に提示される「ハイドンの主題」に基づく変奏曲です。この「主題」はハイドンの作曲した、「Feldparthie:屋外パルティータ(ディヴェルティメント)B-dur, Hob.U:46」(2 オーボエ、2 ホルン、3 ファゴットとコントラバスのための)の第2楽章「アンダンテ〜聖アントニーのコラール」に基づいています。この第2楽章は、ハイドンのオリジナルの旋律ではなく、一般に流布していた「聖アントニーのコラール」と呼ばれるものを流用したとされています。
 従って、厳密には「ハイドンの主題」というのは間違いなのでしょう、著作権的には。

 ハイドンの主題


 このハイドンの「ディヴェルティメント」は、木管五重奏などのモダン楽器用にアレンジされて多く出回っていますが、これがオリジナルの編成による演奏です

 主題は、5小節+5小節の10小節のA部と、8小節のB部、そして再びA部が繰り返されますが、4小節+7小節のコーダとなっています。
 小節数からすると変則的ですが、聞いた印象は非常に自然です。

 曲は、この主題の提示部と、8つの変奏、そして「パッサカリア」の終曲からなります。
 終曲では、コラール主題から取られた「5小節」のパッサカリア主題が19回繰り返され、最後にコラール主題が回帰して全曲を締めくくります。

4.スコア情報

 有名曲ですので、国内盤を含めてスコアはいろいろと出ています。著作権も切れているので、IMSLP のサイトから無償でダウンロードもできます。

オイレンブルク版:解説を書いているのが、デリック・クックのようですね(日本語訳付)。マーラー交響曲第10番の演奏用完成版「クック版」の編纂者

 日本楽譜出版

 音楽之友社版は、「悲劇的序曲」「大学祝典序曲」も入っています。

5.ついでに「交響曲第1番」「悲劇的序曲」のスコア情報

 交響曲第1番 全音版

 交響曲第1番 日本音楽出版

 交響曲第1番 音楽之友社版

 交響曲第1番 ドーヴァー版 小型スコア

 交響曲第1番 ブライトコップ版

 「悲劇的序曲」 オイレンブルク版

 「悲劇的序曲」 音楽之友社版は、「ハイドンの主題による変奏曲」「大学祝典序曲」も入っています。



HOMEにもどる