R.シュトラウス「4つの最後の歌」〜第49回定期の演奏曲目〜

2002年9月5日


 第49回の定期演奏会で、R.シュトラウスの「4つの最後の歌」を演奏しました。
 このような、あまりメジャーとはいえない曲が取り上げられることは驚きですが、良い曲であることは確かで、個人的な思い入れが結構あります。
 ということで、この曲が初めてという方への雑知識を書いてみました。

1.「最後」の歌

 題名のとおり、R.シュトラウス(1864〜1949)の最後の作品で、1948年の第2次大戦後の作曲です。当時作曲者84歳ですから、最後まで現役だったわけです。
 戦後の曲といっても、まるで19世紀の後期ロマン派で、時代遅れ・超保守的との批判もあるようですが、逆に20世紀半ばにもこのような美しい曲が書かれた、ということを私自身はうれしく思っています。
 数年前に、思い立って20世紀の音楽を集中的に聴いて自分なりの体系化を試み、感想や解説的なことをクレッシェンドに書いたことがあります(「20世紀の音楽について、最近思うこと」1998/9/20作成 参照)。この中でも、この「4つの最後の歌」について触れて、上に書いたのと同じような感想を書きました。

 20世紀の音楽を聴いていくと、芸術が「政治」や「社会体制」に介入されるさまが目に付きます。R.シュトラウスも、ナチス政権下でかつぎ上げられて1930年代に「帝国音楽院総裁」を務めますが、娘婿がユダヤ人であったことから結局は公職を追われます。そして、祖国ドイツが音を立てて崩れ落ちていくさまを見ながら、晩年は「ホルン協奏曲No.2」(1943)、「23の弦楽器のためのメタモルフォーゼン」(1945)や「オーボエ協奏曲」(1945)といったやや小規模で内向きの曲を書いていました。この「4つの最後の歌」も、その延長線上の曲です。
 1948年といえば、その年にメシアンが「トゥランガリラ交響曲」を作曲し、前年の1947年にはアメリカに亡命していたシェーンベルク(1951年没)がナチスのユダヤ人虐殺を扱った「ワルシャワの生き残り」を書き、1950年には芥川也寸志が「交響管弦楽のための音楽」を書いています。シェーンベルクと「新ウィーン楽派」をなしていたベルクとヴェーベルンはとっくにこの世を去っていました。そんな時代の曲だと考えると、R.シュトラウスの頑固なまでのロマンティシズムと音楽職人気質に頭が下がる思いがします。

2.内容

 言葉では書けませんが、題名どおり4つの管弦楽伴奏付き歌曲で、ソプラノによって歌われます。4曲のうち、初めの3曲はヘルマン・ヘッセ(1877〜1962)の詩、最後の1曲がアイヒェンドルフ(1788〜1857)の詩に作曲されています。

(1)春(ヘッセ)
(2)9月(ヘッセ)
(3)眠りにつこうとして(ヘッセ)
(4)夕映えの中で(アイヒェンドルフ)

 4曲はセットで歌曲集となっているわけではなく、独立の4曲が同時期に作曲された、ということでまとめられているだけです。従って、厳密な曲順が決まっているわけではありません。昔、ベームがこの曲を良く取り上げていましたが、そのときは2曲目と3曲目を逆にして演奏していました。(R.シュトラウスとベームとは、同時代に同業者だったわけで、ベームにとっては特別の思い入れがあったのでしょう)ちなみに、初演(作曲者の没後の1950年)のときは、(3)(2)(1)(4)の順序で演奏されたそうです。上記の曲順となった、そして「4つの最後の歌」という題名がついたのは出版のときとのこと。当然、作曲者はこの4曲をまとめること、しかも「最後の」などという題名を付けることなど、考えてもいなかったはずです。

(注)我が家に、1976年のザルツブルク音楽祭での、アンナ・トモワ・シントウ(ソプラノ)、ベーム指揮ドレスデン国立管の「4つの最後の歌」のライブ録音(FM放送から収録)があり、ここでは(3)(1)(2)(4)の曲順でした。

 詩の内容は、1曲目を除き「死」を予感・暗示するものだそうで、後ろの曲ほどその要素が強いそうです(私にはその辺のところはよく分かりませんが)。ベームが曲順を変えたのも、その方がこの性格をより明確にできるから、といった理由のようです。特に最後の曲の最後の行は「ひょっとしたら、これが死だろうか?」で締めくくられ、半世紀以上前に作曲した「死と浄化」(1889)のモチーフが現われます。(この辺の、自分の過去の実績を、確信を持って肯定するところがR.シュトラウスらしい)
 ということで、充実したオーケストラの響きを使いながらも、静かで内省的な曲となっています。外面的な華やかさとは、違った面を見せてくれます。

 2曲目の最後のホルンソロ、3曲目中間の独奏ヴァイオリンソロがとても印象的です。

3.お薦め演奏

 結構難曲だと思うのですが、良い曲なので結構いろいろな録音があります。

 一般的に名演といわれているものは、

(1)シュワルツコップ(ソプラノ)/セル/ベルリン放送響(1965録音)
(2)ヤノヴィッツ(ソプラノ)/カラヤン/ベルリン・フィル(1973録音)

あたりでしょうか。
 カラヤンには、アンナ・トモワ・シントウとの新しい録音(1985)もあるようです。その他、アーリン・オジェー(ソプラノ)/プレヴィン/ウィーン・フィル(1988)、キリ・テ・カナワ(ソプラノ)/ショルティ/ウィーン・フィル(1990)などもあるようです(私は聴いていませんが)。

 最初に買うなら、歌詞の対訳付きの国内盤が良いでしょう。
 私は、シュワルツコップのアナログ・ディスクを大昔から愛聴していましたが、2年ほど前(YPOがドンファンをやったとき)、ヤノヴィッツのCDを、ドイツ・グラモフォンの「パノラマ」シリーズの輸入盤(2枚組み\1,290)で買いました。この2枚組み、この歌以外にカラヤンのツァラ、英雄の生涯、ベームのドンファン、ティル、ハウプトマンのホルンコンチェルトNo.2という超お買い得盤でした。(ただし、歌詞カードなし)
 カラヤンの演奏はオケがかなり控えめで、ホルンやVn.ソロが少し欲求不満です。オケの充実感はセルのほうが上かな、と思います。

4.その他

 この曲、1950年にフルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管によって初演されたそうです。ソプラノは、バイロイトでも活躍したフラグスタートという人。何故これを覚えているかというと、当時フィルハーモニア管のホルン主席がかのデニス・ブレインで、かのホルンソロを初演したのが彼だからです。これは、デニス・ブレインの伝記に書いてあったお話です。

以上



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