20世紀の音楽について 〜個人的覚書〜

1998年 9月20日 作成


−目次−

  • 第1夜:プロローグ〜20世紀音楽のオーバービュー
  • 第2夜:新ウィーン楽派
  • 第3夜:20世紀初頭のパリ、2つの大戦間のヨーロッパ
  • 第4夜:20世紀前半の残り
  • 第5夜:20世紀後半

    必要に応じて20世紀音楽年表もご参照下さい。(新しいウィンドウに開きます)

  • (注)推薦盤として取り上げているものは、私が聴いてよかったと思うもの、一般に評判の良いもの、聴いてみたいと思っているもの、直接音で聴いてみる手段を見つけたものなどです。私自身も聴いていないものもあり、聴いた上での評価については責任を負いかねますので、自己責任でお願いします。また、CD/DVDの発売・廃盤は日常茶飯事なので、情報が古くなった場合はご容赦下さい(必要ならご自分で検索下さい)。


    第1夜:プロローグ〜20世紀音楽のオーバービュー

    1.1 前奏曲

     自分自身を振り返ってみると、20世紀が終わろうとしていた時点で「20世紀の音楽」はいまだに未知の領域でした(もっとも、「19世紀以前の音楽」だって満足にわかっているわけではありませんが)。自分の知っている音楽が、今から100年以上前の「評価の確立した」ものに限られ、それをありがたがって繰り返し聴いているだけ、という状況が、何となく安逸に感じられました。そのまま20世紀を見送ることは、何かをやり残しているような気がする、ということで、「20世紀の音楽」をいろいろ聴いてみて、自分なりに整理してみました。

    1.2 20世紀の音楽の特徴
     20世紀の音楽の特徴は、調性の崩壊、不協和音の多用、楽音以外の使用、演奏(再現)の場面での偶然性の導入などがあります。芸術の世界では、「他人と同じようなことをやっても評価されないの、何か新しいことを開拓する」というのが存在意義みたいなものなので、どんどん新しいことにチャレンジしたのでしょう。もちろん、従来の枠内で音楽を作り続けた人もいますが、歴史の表舞台にはほとんど残らなかったということなのでしょう。
     また、音楽そのものではなく、「音楽と政治との関係」も20世紀の音楽の特徴です。ナチス・ドイツにおけるユダヤ人作曲家・演奏家や前衛的・退廃音楽の抑圧・抹殺、ソ連・東欧における反体制音楽家の批判・粛清。これは、亡命を余儀なくされた有名な作曲家・演奏家を思い出すだけで明らかでしょう。
     これらがどのようなものであったか、歴史を簡単に見てみましょう。

    1.3 20世紀音楽の幕開け
     調性を崩壊させる動きは、ワーグナー/「トリスタンとイゾルデ」(1857)に始まるといわれています。「前奏曲」の最初に出てくるいわゆる「トリスタン和音」は、確かに、音の中心も、解決する先もよくわからない不思議な響きがします。ワーグナー自身は、この後「マイスタージンガー」などで健全な世界に戻ってしまいますが、調性を崩壊の傾向は、R.シュトラウス、マーラー、初期のシェーンベルクなどの後期ロマン派に引き継がれ、ウィーンは世紀末を迎えます。(ウィーンでは、ブルックナーが1896年まで、ブラームスが1897年まで、プラハにはドヴォルザークが1904年まで生きていた)

     世紀が変わると、ロマン主義がエスカレートして、人間の個性や感情の、さらに奥の醜い部分・狂気までもさらけ出そうとする「表現主義」が現れます(この言葉はどうもわかりづらいのですが、「印象主義(Impressionism)」に対する「表現主義(Expressinism)」と考えるとわかったような気になる)。ウィーンで活動していたシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンの3人(まとめて「新ウィーン楽派」)が代表選手で、激しい表現への欲求から、無調へと進んでいきました。

     もう一つの流れが、ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲(1894)です。調性感覚は残っていますが、全音音階や新しい響きで、それまでの音楽と全く違うものとなりました。(印象主義:Impressionism)
     また、和声、リズム、その他いろいろな部分で伝統を破壊したのが、ストラヴィンスキー/火の鳥(1910)、春の祭典(1913)でした(「原始主義」といわれます)。これらは、パリでの出来事でした。
     それ以外にも、ロシアにはラフマニノフと同い年のスクリャービン(1872〜1915)が「神秘和音」などの新しい動きをしていましたが、早世してロシア革命の荒波に飲み込まれ、その後の後継者はありませんでした。

    1.4 20世紀音楽の発展(第2次大戦まで)
     これら20世紀の音楽は、「ほとんどでたらめ」の世界に片足をつっこんでいるわけで、ヨーロッパ人(特にドイツ人?)は、これら混沌とした音楽の中にも何らかの「法則」や「原理」を導入しようとして、シェーンベルクは1920年頃に「12音技法」を生み出しました。これは、オクターブを構成する12個の半音を平等に扱い、これらを1回ずつ使った「音列」(フランス語で「セリー」)を主題とし、これを展開することで曲を構成するものです。この音列の展開の仕方として、原型の音程関係の上下をひっくり返したもの(反行形)、前後を逆にしたもの(つまり、後ろから前へ。逆行形)、この両方を組み合わせた反行逆行形を使います。これって、なんとバッハ時代の「フーガの技法」と同じなのですね。

     さらに、「原始主義」で20世紀音楽の旗手になったストラヴィンスキーは、革新性への反動と、第1次大戦後の復古的風潮から、「バッハに帰れ!」などと叫ぶようになります(Back to Bach!:Bachは、英語読みでは「バック」。これ、ダジャレですね)。1920年代、30年代のこの風潮を「新古典主義」というそうです。「プルチネルラ」(1920)あたりからのストラヴィンスキー、詩人ジャン・コクトー率いるフランス6人組、ラヴェルあたりが代表的。
     ドイツ・オーストリアの、シェーンベルクらによる形式重視の「12音音楽」も、伝統的な形式への回帰という点で「新古典主義」に呼応しています。

     これらのパリ、ウィーン、ベルリンなどの「本流」の動きとは独立に、いわゆる民族主義として、ハンガリーにバルトークやコダーイ、チェコにヤナーチェク、スペインにファリャ、デンマークにニールセン、等が活動しています。フィンランドのシベリウスもここに入れておくべきでしょうか。
     さらにまた、辺境の地アメリカでは、世の中に全く認知されもせずこつこつと異端的な曲を作ったアイヴズ、フランスからニューヨークに移住した騒がしい音楽を作るヴァレーズ、ポピュラーヒット作曲家から転進したガーシュインなどもいます。

     この頃が、音楽と政治の不幸な関係が現れる時期で、具体的には、ナチス政権の誕生した1933年、ソ連でプラウダ紙に「音楽ではなく荒唐無稽」とのショスタコーヴィチ批判が載った1936年あたりが開始点でしょう。

    1.5 さらに20世紀音楽の発展(第2次大戦後)
     第2次大戦戦後となるとますます混沌としてきて、ここからがいわゆる「ゲンダイオンガク」になるわけです。以下の分類は便宜的なものですし、いろいろな要素の相互乗り入れも盛んですので、「誰々はどの分類」と固定してかかるのはきわめて危険です。

    (1)セリー音楽
     一つの流れは、ヴェーベルン以降、メシアン(1908〜1992)、ブーレーズ(1925〜2016)、シュトックハウゼン(1928〜2007)などが発展させた「セリー音楽」(ミュジック・セリエル)です。パリ音楽院の、メシアンの作曲クラスが母胎だそうです。戦後音楽の保守本流でしょう。
     この流派の延長線で、音の展開をより厳格に行うために、電子音響・テープを使った「電子音楽」も登場したようですが、現在まで生き残っているものは皆無に近い?

    (2)不確定性の音楽
     「作曲」と、これを再現する「演奏」を区別することを拒否し、その場限りの「一回性」「偶然性」を重視したもの。ジョン・ケージ(1912〜92)が代表。「4分33秒」(1952)などは、ピアニストが登場し、ピアノの前に座って、4分33秒後、おもむろに立ち上がっておじぎをしておしまい、要するにこの4分33秒間の演奏会場の音(もしくは静けさ)が作品である、というもの(シェーンベルクは「ジョン・ケージは作曲家ではない。発明家だ」と言ったそうです)。
     ピアノの中に、消しゴムやら釘やらいろんなものを入れて、鍵盤を叩くといろいろな「変な」音がするようにした「プリペアド・ピアノ」もケージの発明です。

    (3)ミニマル音楽
     アフリカやインドやインドネシアのガムラン音楽の影響もあり、打楽器を中心に、同じことを延々と繰り返しながら、微妙なズレを作っていく、という音楽。アメリカのテリー・ライリー(1935〜 )、スティーブ・ライク(またはライヒ)(1936〜 )、フィリップ・グラス(1937〜 )、イギリスのマイケル・ナイマン(1944〜 )などが代表的。
     日本の久石譲氏(1950〜 )も最初はミニマル音楽から出発しています。

    (4)ポスト・セリー
     よくわからない分類ですが、1960年代に、トーンクラスター(「音の房」という意味。要するに、半音以下の音間隔で下から上までつまった音の塊)や雑音効果、過去の音楽の引用・コラージュを取り入れた音楽などを総称してこう呼ぶようです。トーンクラスターは、リゲティ(1923〜2006)やペンデレツキ(1933〜 )が有名ですが、耳にはちょっときつい音楽です。ルトスワフスキ(1913〜1996)、「悲歌のシンフォニー」で有名になったグレツキ(1933〜)、コンピュータでの確率計算を作曲に用いたクセナキス(1922〜2001)、引用・コラージュを使ったベリオ(1925〜2003)などもここに入るのでしょうか。

    (5)旧ソ連の作曲家
     戦後にあっても、ショスタコーヴィチ(1906〜1975)はじめ旧ソ連の作曲家は、「社会主義リアリズム」の下に大衆的で分かりやすい音楽を作っていました。プロコフィエフ(1891〜1953)、ハチャトゥリアン(1903〜1978)、カバレフスキー(1904〜1987)など。また、ソ連崩壊以後、旧ソ連の作曲家で、ペルト(1935〜 )、グバイドゥーリナ(1931〜 、女性です)、シュニトケ(1934〜1998)などが注目されています。

    (6)その他
     どこに分類すればよいのかわかりませんが、イギリスにブリテン(1913〜1976)、フランスにジョリヴェ(1905〜1974)、デュティユー(1916〜 )など、朝鮮にユン・イサン(1917〜1995)、日本に黛敏郎(1929〜1997)、武満徹(1930〜1996)などもいて、一筋縄ではくくれません。

    1.6 まとめ
     20世紀の音楽を大づかみでまとめてみましたが、まずは音楽そのものに体当たりすることが大事だと思いますで、次の機会には、具体的な曲をつまみ食い的にのぞき見してみようと思います。どんな曲があって、何を聴いたらよいのかわからない、という方の参考になれば、と思います。


    第2夜:新ウィーン楽派に進む


    参考文献


    参考サイト


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