ウェスト・サイド・ストーリーについてのあれこれ

2000年6月18日
クレッシェンド2000年4月号掲載


 バーンスタインのミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」は超有名なミュージカルなので、見たことのある人も多いと思います。私も、映画で見ました。
 ミュージカル自体は1957年の作(バーンスタイン39歳)。これを映画にしたのが1961年で、映画はアカデミー賞(別名オスカー)を受賞していますが、あくまで「映画」が受賞したのであって、バーンスタイン自身が受賞したわけではありません。バーンスタイン自身は、1954年に「オン・ザ・ウォーターフロント」(日本名:波止場)という映画の音楽でアカデミー賞にノミネートされたことはありましたが。(このあたりの話は、2年ほど前にクレッシェンドに載せて、今は私のホームページに掲載しています。興味ある方はどうぞ。YPOのホームページから行けます。)
 「シンフォニック・ダンス」も映画と同じ1961年の作。横フィルの定演としては初の20世紀後半の音楽です。ご存知の通り、ミュージカルの音楽の中から、ダンスナンバーを中心に管弦楽曲としたものです。歌のナンバーもいくつか入っています。それでは、「シンフォニック・ダンス」がミュージカルのどの部分からできているのか見てみましょう。

1.ストーリー(念のため。皆さんご存知と思いますが・・・)
 「ロメオとジュリエット」の現代アメリカ版です。舞台は1950年代のニューヨーク。ウェストサイドとは、マンハッタンのセントラルパークの西側地域のことのようで、West 65th Street あたりがこのミュージカルの舞台といわれています。この辺には、リンカーン・センター(エイブリー・フィッシャー・ホール(ニューヨーク・フィルの本拠地)、メトロポリタン歌劇場、同美術館、ジュリアード音楽院などの複合施設)があります。
 地元の不良少年グループJets(ジェット団)とプエルトリコからの移民の不良グループSharks(シャーク団)の喧嘩と、Jetsの兄貴分トニーとSharksリーダの妹マリアの恋と悲劇。ミュージカルはおおむねハッピーなものが多いのですが、この悲劇にバーンスタインは大いに乗り気だったといいます。

 物語はJetsとSharksの縄張り争いから始まります。JetsはSharksに宣戦布告するため、ダンスパーティに乗り込みます。Jetsの現在のリーダであるリフは兄貴分トニーを誘います(かつてジェット団のリーダで今は卒業してカタギになっている)。一方、Sharksのリーダのベルナルドは妹のマリアを連れていきます。ベルナルドは、マリアを子分のチノと結婚させようと考えています。でも、トニーとマリアはダンスパーティでお互いに一目惚れ。
 ダンスパーティで、JetsはSharksに、後で決闘の相談のためドックの店に来いと告げます。
 ダンスパーティの後、マリアに魅せられたトニーは、避難階段を伝ってバルコニーからマリアに会いに行きます。ここで2人は愛を確認し合い、トニーは翌日マリアの働く店に会いに行くことを約束します。
 深夜、ドックの店でJetsとSharksは翌日に決闘することを決めます。そこにトニーが入って、双方の代表1人ずつが素手でフェアに戦うことを提案し、受け入れられます。
 翌日、マリアの働く衣装店の閉店後、トニーが訪ねていきます。そこで密かなデート。マリアは、トニーに決闘を中止させて、と頼みます。承知させられたトニーは、決闘の場へと向かいます。
 JetsとSharksの決闘の場。素手でフェアに始まったものの、トニーが止めに入ったことから逆にもめ出し、リフとベルナルドがナイフを抜き、リフが刺されます。これを見たトニーはとっさにリフのナイフを取ってベルナルドを刺します。
 自分の部屋で待つマリアに、兄が殺された、しかもトニーに、という知らせが届きます。そこにバルコニーからトニーがやってきて、許しを乞い、一緒にどこか遠くへ逃げようと誘います。トニーは、ドックの店で待つと告げて出ていきます。ベルナルドの愛人アニタが入ってきて、「あれは敵の男」と歌いますが、真剣に愛するマリアを理解します。警察が事情聴取に来て、すぐには行けなくなったことから、アニタに少し遅れることをトニーに告げるよう頼みます。
 ドックの店に行ったアニタは、リフを殺したベルナルドの女、ということで信用されず、逆にからかわれてひどい仕打ちを受けます。腹を立てたアニタは、「チノがマリアを殺した」と嘘を言って出ていきます。これを聞いたトニーは、「チノ!俺も殺せ」と叫んで飛び出していきます。
 そこで、遅れながらもドックの店に向かうマリアと出会い、抱き合おうと駆け寄る途中で、トニーの叫びを聞いて追いかけてきたチノの拳銃に撃たれます。トニーはマリアの腕の中で息絶えます。Jets、Sharks、そして警官が集まり、JetsとSharksとが協力してトニーをかつぎ上げるところで幕となります。

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2.映画と舞台と「シンフォニック・ダンス」との比較
 映画と舞台ではストーリーや曲の配列が少し違う、ということらしいのですが、舞台では見たことがないので分かりません。
 バーンスタインが、オペラ歌手のキリ・テ・カナワやホセ・カレーラスなどと録音した「ウェスト・サイド・ストーリー」全曲のCDがあります。1984年に録音されたもので、一流歌手たちが余興にミュージカルナンバーを楽しんでみました、という趣向です。この録音が、「オペラ全曲録音」を意識して作られているようなので、どうもオリジナルの舞台上演版に近い構成のようです(これを仮に「舞台上演版」と呼びます)。
 舞台上演版と、映画、「シンフォニック・ダンス」を比較して表にまとめてみました。(数字は「シンフォニック・ダンス」のパート譜の小節数)

(1)まずは、映画と「シンフォニック・ダンス」の比較。
 映画のオープニング。不良グループのJetsとSharksが指を鳴らしながら登場し、喧嘩するあたりが「プロローグ」("Prologue"。141あたりからが喧嘩の場面、258で警官が登場(ポリス・ホイッスルが鳴る)。
 この後のジェット団の歌("Jet Song")、トニーの歌う恋の予感("Something's Coming")は「シンフォニック・ダンス」には登場せず。
 次いで、ダンスパーティの場面("The Dance at the Gym")。ここでは、初めの2つのダンス("Blues""Promenade")は「シンフォニック・ダンス」には含まれませんが、その後の「マンボ」"Mambo")(400〜)と、トニーとマリアで踊る「チャチャ」"Cha-Cha")(545〜)が含まれます。トニーとマリアが初めて会話を交わす「出会いの場面」"Meeting Scene")(569〜578)。この後でトニーが「マリア」"Maria")を歌いますが、「チャチャ」が「マリア」のテーマから作られていることが分かります。
 ダンスパーティの後で、Sharksのメンバーが故郷プエルトリコを思い出して歌う「アメリカ」"America")。この曲はなかなか面白い曲だと思うのですが、残念ながら「シンフォニック・ダンス」には含まれていません。
 次に、マリアのアパートのバルコニーに潜入してきたトニーとマリアの二重唱「トゥナイト」"Tonight")。これがこのミュージカル随一の名唱でしょう。
 決闘の会議の前に、たむろしたJetsが、自分たちがグレたのは社会が悪いと歌う「クラプキ巡査殿」("Gee, Officer Krupke")。この後、ドックの店でJetsとSharksとが決闘の約束を取り交わします。
 翌日、マリアが働く衣装店で歌う"I feel pretty"(恋した乙女のうきうき気分!)。この後、トニーが訪ねてきて、誰もいない店の中で手に手を取って歌う"One hand, One Heart"。この辺もずっと「シンフォニック・ダンス」には含まれていません。
 いよいよJetsとSharksの決闘。決闘に向かうJets、Sharks、トニー、マリア、アニタがそれぞれの思いを交錯させて歌います(「トゥナイト」のアンサンブル)。そして、決闘の場面。ひょんなはずみから、トニーはマリアの兄ベルナルドを刺し殺してしまいます(この辺は音楽なし)。
 マリアが、兄の死を伝えられたときの音楽が「ランブル」"The Rumble")冒頭の部分(727)。悲しむマリアの部屋にトニーがバルコニーからやって来て、「どこか遠くへ行こう」と歌う「サムホエア」"Somewhere")(278〜329)。
 殺人事件に動揺したJetsメンバーが歌う「クール」"Cool")(581〜)。「落ちつけ!」といったところ。続く「フーガ」"Fugue")(601〜726)の部分が、動揺するメンバーがだんだん落ち着いてまとまっていくダンス。
 ベルナルトの恋人アニタが、マリアの部屋にやってきて、「あれは敵の男」("A Boy Like That")と歌うのに対し、私は愛しているとマリアが歌う("I Have a Love")。このマリアの歌が「フィナーレ」のテーマになります。
 最後に、トニーがチノの拳銃で撃たれ、息絶えるところから最後までが「フィナーレ」"Finale")(810〜)。

 以上に出てこないのが「スケルツォ」"Scherzo")(347〜399)、「ランブル」後半あたり(773〜809)です。

(2)次に、舞台上演版と映画との比較。
 舞台では、2幕もので上演されるようです。まずは第1幕。
 プロローグからダンスパーティまでは舞台上演版と映画とは同じ。
 舞台上演版では、ダンスパーティのすぐ後にバルコニーのシーン(トゥナイト)、その後に「アメリカ」が入ります。(映画と逆順)
 この後、舞台上演版では、ドックの店で決闘の相談前の興奮したJetsメンバーに、リーダのリフが言って聞かせる「クール」「フーガ」が入ります。(映画では、リフが殺された後に出てきますので、状況が全く異なることになります。最後のあたりはブージ&ホークスのスコア(701〜)とほぼ同じです)
 翌日のマリアの店での逢い引き("One hand, One Heart")。でも、映画ではこの場面で歌われた「I feel pretty」はまだ出てきません。
 次に、JetsとSharksの決闘。決闘に向かうときの「トゥナイト」(アンサンブル)は映画と同じ。続く決闘の場面に「ランブル」が使われます。そして殺人事件。「ランブル」の後半も、殺人事件後のちりぢりに散っていく幕切れの音楽として使われます。ここまでが、第1幕。

 続いて第2幕。トニーに会いに行こうとするマリアが自分の部屋で歌う"I feel pretty"。そこで、兄が殺されたことを告げれらます。
 トニーがバルコニーからやってきて許しを乞い、愛を確認しながら2人で踊るときの音楽が「スケルツォ」(映画には出てこないが、ここにありました)。そして、「サムホエア」
 殺人事件でジェット団の不良少年に職務質問するクラプキ巡査。これに対して悪態をついて歌うのが「クラプキ巡査殿」"Gee, Officer Krupke")。これも、映画とは出てくるところが違います。
 アニタが、マリアの部屋にやって来て「あれは敵の男」、「私は愛している」とマリアが歌う("I Have a Love")ところは映画と同じ。  「フィナーレ」では、虫の息のトニーが「サムホエア」を途中までマリアと一緒に歌い、その後息絶えます。その後は映画と同じです。

舞台上演版/映画/シンフォニック・ダンスの曲順

     
舞台上演版 映画の曲順 シンフォニックダンス
Act 1 1. Prologue 1 1.プロローグ(1〜277)
2. Jet Song 2
3. Something's Coming 3
4. The Dance at the Gym 4
(4-1)Blues (4-1)
(4-2)Promenade (4-2)
(4-3)Mambo (4-3) 4.マンボ(400〜544)
(4-4)Cha-Cha (4-4) 5.チャチャ(545〜568)
(4-5)Meeting Scene (4-5) 6.出会いの場(569〜580)
(4-6)Jump (4-6)
5. Maria 5
6. Balcony Scene, Tonight 7
7. America 6
8. Cool, Fugue 14 7.クール(581〜606)
8.フーガ(607〜726)
9. One Hand, One Heart 10
10. Tonight (Ensemble) 11
11. Rumble 12 9.ランブル(727〜809)
Act 212. I Feel Pretty 9
13. Ballet Sequence    
(13-1)Scherzo 3.スケルツォ(329〜399)
(13-2)Somewhere 13 2.サムホエア(278〜328)
(13-3)Procession and Nightmare
14. Gee, Officer Krupke 8
15. A Boy Like That / I Have a Love 15
16. Taunting Scene
17. Finale 16 10.フィナーレ(810〜848)

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