Review/レビュー
このエントリーをはてなブックマークに追加

Blind Lake

  • 著者:ロバート・チャールズ・ウィルスン
  • 発行:004/Tor Books $6.99(マスマーケット版)
  • 399ページ
  • 本邦未訳 (2006年4月読了時)
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

  →Amazonで見る

 ロバート・チャールズ・ウィルスン(Robert Charles Wilson)は、カナダ在住のSF作家で、邦訳は創元SF文庫から「世界の秘密の扉」(1989)と 「時に架ける橋」(1991)が出ています。(いずれも品切れ)

 SFファン出身で、SFの定石を踏みながら、登場人物をじっくりと書き込む作風が特徴で、何度もSF・ファンタジー各賞の候補にあがっており、地力のある作家のようです。

 このBLIND LAKEは、2004年ヒューゴー賞候補作となっています。

 量子コンピューターで異星の生命体を観測している研究施設の街が、突然隔離され、情報を遮断された人々に起こる異常現象をホラータッチで描きます。

 設定はSFとしては地味ですが、ウィルスンの持ち味である登場人物の描写の明確さ、練りこまれたプロット展開により、飽きずに一気に最後まで読んでしまいました。SF的な道具立てが前面に出て来ないため、読後感は文学作品に近く、「結構なお手前でございました」という感じです。

 常識を粉砕するような快感(・・・バクスター!)を求める向きには、この破綻の無さが不満のようで、ウィルスンの評価がいまいち上がらない原因のようです。

 しかし、人間はどこまで異質なものに共感できるのか、「物語の共有」が共感のツールになりうるのではないのかという、現代の社会を考えるうえで重要な仮説がテーマとして示されるなど、上質なSFであることに間違いはありません。お勧めです。

●ストーリー●

 ミネソタ山中の研究都市ブラインド・レイクでは、望遠鏡からの情報を量子コンピューターで解析して、他の恒星系の生命を調査する研究が進められていた。自己増殖機能で誰もその中身を理解できないほどに成長した量子コンピューターは、51光年かなたの恒星を巡る惑星UMa47/Eで発見された知的生命体の一体を、映像で追跡調査することさえ可能としていたのだ。

 科学ジャーナリストのクリスは、チームのエリーヌとセバスチャンとともに、研究を取材するためブラインド・レイクを訪れた。しかし、そのとき、ブラインド・レイクが、理由も告げられないまま突然外部から完全に遮断され、クリスたちは、研究者や労働者、その家族たちとともに、町に閉じ込められてしまう。

 クリスは、映像観察主任のマルガリータと彼女の11歳になる娘・テスが暮らす家に下宿することになる。実は、マルガリータの別れた夫・レイは、隔離されたブラインド・レイクの管理者だった。レイは自己中心的な男で、量子コンピューターによる観察に危惧と反感を抱いており、マルガリータとの間では、娘テスの養育権を巡って争う仲だった。

 マルガリータとテスには、秘密があった。テスは軽い自閉症のほかに、彼女が「ミラー・ガール」と呼ぶ、架空の女の子の存在に取り付かれていたのだ。しかし、テスは下宿人のクリスに徐々に心を開き始める。

 町には外から電力が供給され、無人トラックにより物資も運び込まれていたが、外部の情報と人的接触は完全にシャットアウトされたままだった。隔離についての憶測が住民に飛び交い始め、脱出しようとした住民は軍の飛行地雷ロボットにより殺害される。ある日、飛行禁止空域を飛んでいた小型飛行機が軍に撃墜され、意識不明のパイロットを助けたクリスは、外部の状況をほのめかす雑誌の切れ端を手に入れる。「スターフィッシュ」とは何か?管理者レイは、自分の理解の及ばぬ量子コンピューターを、これを機会に停止させようと画策しはじめる。

 マルガリータたちの研究は、異星人の一人を「オブジェクト」と名づけ、継続観察することだった。オブジェクトは、観察開始以来、毎日異星の都市で時計のようなスケジュールを送っていたが、突然都市を捨て、巡礼の旅に出発する。一方、マルガリータの娘・テスは、「ミラーガール」の症状が悪化しつつあった。学校を抜け出して、量子コンピューターのセンターにいるところを見つかったのだ。

 やがて、隔離された彼らの精神状態は限界に近づきつつあった。

 テスの症状と量子コンピューターは関係があるのか。そしてオブジェクトの奇妙な巡礼は何を意味するのか。ブラインド・レイクと人類の運命を大きく変える日が、そこまで来ていた・・・



このエントリーをはてなブックマークに追加