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CAMOUFLAGE

  • 著者:ジョー・ホールドマン
  • 発行:2005/Ace Books $7.99(マスマーケット版)
  • 本邦未訳 (2006年4月読了時)
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 ジョー・ホールドマンは、異星人との泥沼の戦争をリアルに描いた「終わりなき戦い」(1974)で、ネビュラ賞、ヒューゴー賞を獲得しました。しかしその後は「終わりなき平和」(1999年邦訳)とスタートレックのノベライズでしか目にすることがなく、気になっていた作家です。

 さて、本作はANALOG誌の2004年3〜5月号に連載されたものです。連載が始まった時は表紙になった挿画があまりにもコレ(見て吐かないでね)だったので手を出す気になれなかったのですが、ペーパーバックになったのを期に読んでみました。

 不老不死の異星人<チェンジリング:取替え子>は、百万年の間に記憶や理性すら失いサメや鯨に変身して暮らしていた。1931年、偶然に一人の少年に変身するが、やがて人間としての人格を形成していくこととなる。

 結論から言うと、せっかく積み上げた中盤までの重厚さを、ラストが裏切ってしまいました。これじゃ「ロズウェル星の恋人たち」じゃん。あと100頁書き込めば相当評価される作品になったかもしれないのに、残念です。

 しかし、<チェンジリング>が、人間の少年として性や理性の目覚めを追体験し、やがて戦争の中で人間の誇りや業を知っていく過程は、個人の成長や人間社会の進化を外部の眼で見るようで、考えさせられます。

 なお、話の展開の中でセックスが、重要な役割を果たします。ホールドマンは未訳の作品でも、相当こだわっているようですが、なぜなんでしょう?(^ ^;)

 本作は、2006年ネビュラ賞受賞。早川書房から2007年邦訳予定 

●ストーリー●

 2019年、海洋工学の研究組織ポセイドン・プロジェクトのリーダー、ラッセル・サットンは、億万長者ジャック・ハリバートンの依頼を受け、太平洋海底の太古の堆積物の中から謎の人工物を引き上げる。サモアに研究所を設け調査を始めるが、人工物は人類が知るいかなる物質よりも密度が高く、どんな手段をもっても傷一つ付けることができなかった。

 遡って1931年、カリフォルニアの海岸で一匹のサメが少年に変身し、人間社会にもぐりこんだ。それ<チェンジリング(取替え子)>は変身能力を持つ不老不死の生命体で、百万年前太平洋の人工物に乗って地球にやって来たが、長い時のなかで記憶を失い、サメや鯨に擬態しながら暮らしていたのだ。

 少年に変身した当初は理性すら持たず、精神異常者として病院に閉じ込められるが、徐々に人間としての人格を形成させていく。やがて<チェンジリング>は大学教育を受け、太平洋戦争に徴兵され、フィリピンでバターン・死の行軍に遭遇する。そこで<チェンジリング>は、人間の精神の闇と崇高さを同時に見ることになる。(嫌気がさして、訳の分からない姿に変身して脱出する図がこちら。)

 しかし、<チェンジリング>は、そのときもう一人の異星人<カメレオン>が、ナチス側で、嬉々として虐殺を楽しんでいることを知らなかった。

 アメリカに戻った<チェンジリング>は、別の青年の姿になり、大学で人類学、物理学や電子工学を学ぶ。UFOブームのときは、政府のプロジェクトに潜り込むが、異星人の存在や自分の出自の手がかりをつかむことはできなかった。そして、2019年、<チェンジリング>は、謎の人工物が発見されたことを知り、接触を試みようとするのだが・・・。



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