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TRANSCENDENT

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2005/Gollancz £12.99(大型ペーパーバック)
  • 2006年1月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 Destiny's Childrenシリーズ三部作の完結編。古代ローマから現代への人類の進化を描く第1巻Coalescentと、ジーリーと人類の死闘を描く第2巻Exultantが、本書で結び付けられます。主人公マイケル・プールは、第1巻Coalescentの主人公ジョージ・プールの甥で、ジーリークロニクルの「時間的無限大」で地球を救ったマイケル・プールのご先祖様なのです。


 2047年の地球と、50万年後の銀河で神へと進化しようとする人類の姿が交互に描かれ、それが一点で交わったとき、驚くべき人類の運命が姿を現します。

 また、舞台背景としては、地球温暖化で海洋生物や野生生物が死に絶えていき、マイカーや飛行機による旅行が禁止された2047年の世界の姿がリアルに描かれます。「地球の温暖化はウソ」というマイケル・クライトンの「恐怖の存在」と読み比べると、考えさせられるものがあります。


 しかし、シリーズの一冊として見ると、本書の緊張感や密度はCoalescentに及ばず、ジーリークロニクルとしてもガジェット山盛りのバクスター節に欠け、散漫な印象になってしまいました。残念ながらバクスターが目論んだシリーズ構成は、不首尾に終わったように思います。第1巻のCoalescentが歴史伝奇ホラーとして予想外にうまくまとまってしまい、それ以上の完成度を2巻、3巻で達成できなかったこと、各巻の関連付けが薄すぎたことなどが原因でしょうか。それぞれの巻で、新しいチャレンジが見られただけに少し残念です。

 とはいえ、ジーリーのファンならば外伝として押さえてておくべきシリーズではありましょう。


 さて、このペーパーバック£12.99で、ちょっと高いなと思ったんですよ。届いてみたら、なんとサイズが普通のペーパーバックの倍の大きさで厚さは4センチ。つまりハードカバーの表紙だけをペーパーバックに変えたものだったんですね。老眼の目にはやさしかったのですが、通勤時の持ち運びは疲れました。お買い求めの場合はサイズのご確認を。

●ストーリー●
 2047年、世界は地球温暖化が進行し、海洋生物の大絶滅や海岸の浸食にさらされていた。各国が、マイカーや飛行機での旅行が禁止されるなどの対策を行った結果、市民生活は大きく変貌していたが、状況の悪化は好転のきざしを見せない。一方、IT技術は進み、バーチャル旅行や量子コンピューターによる人工知能が実用化されている。


 核技術者のマイケル・プールは、十数年前、最愛の妻モラグを妊娠中の子供とともに失い、そのショックから立ち直れずにいた。残された一人息子のトムとも仲違いしたまま、キャリアからも外れ、実現の見込みのない宇宙探査機のペーパープランに携わっていた。さらに彼には隠し続けた秘密があった。妻モラグに出会う以前の少年時代からずっと、モラグの「幽霊」につきまとわれていたのだ。

 そんなとき、息子トムが謎のメタン爆発で負傷し、マイケルはシベリアに駆けつける。そこでマイケルは、北極海のメタン・ハイドレートの放出により地球が絶滅の危機に瀕していることを知り、海底のメタンを凍結するプロジェクトを発案する。

 50万年後の未来、ジーリーを駆逐した人類は銀河全体に広がっていた。種として多様化した人類を指導しているのは、不死と噂されるTranscendent(超越)という謎の集団だった。

 少女エイリアは地球から15000光年の恒星船で生まれ育ったが、50万年前の偉人・マイケル・プールのことは熟知していた。この時代、量子操作技術で過去の直接観測が可能となり、全ての人間に過去の観察が義務付けられ、彼女の観察対象がマイケルだったのだ。

 やがて、エイリアに「超越」へ加わる候補者に選抜されたという通知が届く。

 メタン凍結プロジェクトは世界的な環境保護組織EIに採択され、マイケルは息子のトムたちともに参加することとなる。マイケルは、相変わらず妻の幽霊に悩まされていたが、意を決して正体を探るべく、スペインに住む叔母ローザを尋ねる。彼女は、崩壊した「オーダー(第1巻 Coalescent参照)」のメンバーの最後の一人だった。

 エイリアは、星々を巡り「超越」に加わるためのさまざまな試練を受ける。そこで「超越」たちが、人類の次の段階に進化しようとしていること、そのために歴史上存在した全ての人間の「救済」を目論んでいることを知る。だが、彼女はその壮大なビジョンに疑問を抱き始めた。

 マイケルたちのプロジェクトの稼動の直前、実験施設が反環境保護主義者の自爆テロにより爆破される。混乱の中、死んだはずの妻マレグが実体として、忽然と出現する。

 マイケルが50万年後の人類の進化に果たす役割が明らかになっていく。



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