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END OF THE WORLD BLUES

  • 著者:ジョン・コートニー・グリムウッド
  • 発行:2007/Bantam Trade $12 U.S
  • 368ページ
  • 本邦未訳 (2008年8月読了時)
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 2007年の英国SF協会賞受賞作です。

 著者のグリムウッド ( Jon Courtenay Grimwood )はイギリス出身で、日本ではサムサーラ・ジャンクション 以外翻訳がありませんが、あちらではサイバーパンクの旗手として注目されている作家のようです。日本映画のレビューをしていたことがあるそうで、本作にもその影響が色濃く出ているように見えます。

 トラウマをかかえ英国軍を脱走し日本でひっそりと暮らす中年の主人公が、偶然知り合ったゴスロリの少女ネクと共に、妻の死と元恋人の自殺の謎を追い犯罪組織と戦う中で、人間性を回復していく物語です。

 「縄」、「猫」、「家族」をキーワードに綿密に構成されたハードボイルドなのですが、描かれる日本のヤクザや暴走族が、はてな?で、日本人にとっては違和感ありまくりです。著者の経歴からして、映画「ブラックレイン」や「その男凶暴につき」などに代表される『ファンタジーとしての現代日本と暴力』の物語を描こうとしたように思えます。

 SFといえるのは、あちこちに挟まれる遠未来の地球を管理する一族のエピソードですが、本編とほとんど交差しません。もっとも、SF仕立てでなかったら、多分私が手に取ることもなかったでしょうが・・・

 西欧人がイメージする異世界としての現代日本を、ふむふむと楽しみましょう。

●ストーリー●

 中年の英国人キット・ヌーヴォーは、六本木の片隅で不良外人や暴走族のたまり場であるアイリッシュ・バーを営んでいる。彼の妻ヨシは、新進気鋭の陶芸家でもあったが、縄で緊縛されないと創作できない性癖を持っていた。自堕落な生活を送るキットだが、十数年前イラク戦争で子供を射殺したショックから、英国軍から逃げ出した脱走兵という過去を持つ。また、青年時代に、事故死した友人の彼女メアリーを寝取ったというトラウマも抱えていた。

 キットは、ふとしたきっかけで、レディ・ネクと自称するゴスプレの女子高生・虹江と知り合う。ネクは、家族を殺されその原因となった危険な金、数億円をコインロッカーに隠しながら、路上生活を送っていたのだ。

 キットは、ある日英会話の個人教師を務めていた社長婦人との情事の帰り道、銃を持った男に襲われる。偶然居合わせたネクが男を一瞬で殺害し、キットを救う。しかし、その夜、キットのバーは何者かに爆破され、妻ヨシは焼死してしまう。

 かろうじて生き残ったキットの前に、突然かつての恋人メアリーの母親ケイトが現れ、メアリーが自殺したことを告げ、その事件の真相を解明してほしいと、キットに依頼する。実はメアリーの父はイギリスの犯罪組織のボスで、娘の自殺を疑っていたのだ。

 キットは、危険になった日本を離れメアリーの自殺の謎を解くためイギリスに渡り、ネクもその後を追う。自殺したメアリーのアパートで二人は再会し調査を始めるが、メアリーが何らかの犯罪に関与していた疑いが出てくる。そして、新たな危険が二人の身に迫りつつあった。

 遥かな未来すでに人類は星々に散り、数家の貴族が残骸となった地球を管理していた。少女レディ・ネクは、何千歳とも知れないクローンの母や兄弟とともに、「カミ」と呼ばれる全能の知能が司る軌道上の城「縄の浮世」で暮らしていた。ネクは、カミの超絶的な力によって、古代の日本のネクの体験を共有しているのだ。

 一方、ネクの母は、他の貴族の息子とネクを結婚させようとするが、そこにはある企みが隠されていた・・・



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