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Eifelheim

  • 著者:マイクル・フリン
  • 発行:2007/Tor Books $14.95 U.S
  • 320ページ
  • 本邦未訳 (2009年2月読了時)
     邦訳:異星人の郷 (上、下) (創元SF文庫)
  • ボキャブラ度:★★★★★
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 2007年のヒューゴー賞ノミネート作品です。この年の同賞の受賞作はRainbows Endですが、個人的にはこっちのほうが断然面白かったです。

 中世14世紀のヨーロッパに異星の宇宙船が墜落した、というとアイディア勝負の作品に聞こえますが、書き込みが半端じゃないんです。Entertainment Weekly誌の書評の一節ですが、

 「カール・セーガンとウンベルト・エーコ(「薔薇の名前」の著者)が出会った」

というのもあながち大げさではありません。中世ヨーロッパを舞台にしたSFとしては、マイケル・クライトンのタイムラインがありますが、描写はこちらのほうがはるかに濃密でリアルです。

 主人公のデートリッヒ神父は、神学生時代パリでオッカムら大哲学者とも机を並べていたという設定ですが、暗黒の時代として見られる中世ヨーロッパは、実は神学や哲学が大きく発展した時代であったという背景も緻密に描かれます。

 神父と異星人の間で交わされる宇宙論や神学論が、それぞれの知識背景により再解釈されるさまも刺激的です。スローなストーリー展開ながら、最後まで飽きさせません。穏やかな読後感も好感が持てました。

 よい監督で映画化すれば、そこそこの佳作になりそうな気がします。

 ただし、その分、ボキャブラリは難解(英和辞典にも載っていない古語・ドイツ語・宗教用語が満載!)で、ペーパーバック初心者にはちと辛いかもしれません。しかし、翻訳が出たらぜひとも、もう一度読んでみたい傑作です。


 PS. 邦訳出ました。→ 異星人の郷 (上、下) (創元SF文庫)

●ストーリー●

 数理歴史学者のトムは、ドイツのある地方でシュミレーション上存在すべき町が14世紀に地図から消えたままであることを知る。文献を調べ始めた彼の前に、その町「アイフェルハイム」を襲った驚くべき事件が、徐々に姿を現してきた。

 1348年、後にアイフェルハイムと呼ばれることになるドイツの片田舎の村にも、拡大する百年戦争の動乱と黒死病の恐怖が忍び寄っていた。

 ある日、村全体が静電気を帯びるという不思議な現象が起きる。村の教会の神父・デートリッヒは、その原因を調べるために村はずれの森に赴くが、そこで彼は巨大なバッタのような姿をした生き物たちと遭遇する。しかし、デートリッヒは、かつてパリの神学校で哲学者オッカムらと席を並べた知識人でもあった。恐怖を理性で押さえ、彼らと意思疎通を図った結果知ったのは、彼らが地球外からやってきて難破した異星人であるという、驚愕の事実だった。デートリッヒは異星人を「クランケン」と名付け交流を始めるが、彼らはデートリッヒに宇宙船の修理への支援を要請する。

 クランケンの技術力を知った村の領主マンフレッドは、彼らに支援と保護を与える代償として、その知識を利用し戦乱を勝ち抜こうと考える。やがてクランケンたちは寒さから逃れるために村に住むようになり、住民たちと軋轢を生みながらも徐々になじんでいく。しかし、クランケンたちは神父たちには明かせない、ある秘密をかかえていた。

 クランケンたちは母星へ帰還できるのか。そしてデートリッヒの村は、黒死病の魔の手から逃れることができるのだろうか・・・



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