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Generosity

  • 著者:リチャード・パワーズ (Richard Powers)
  • 発行:2009/Picador $15.00
  • 322ページ
  • 2011年7月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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  本書Generosityは2010アーサー・C・クラーク賞の候補作となりましたが、受賞は逃しました。作者リチャード・パワーズは、ポストモダン文学で注目を浴びた作家で、SFプロパーではないようです。

 

 本書では、幸福の遺伝子を持つ女性をめぐり、社会や彼女の周囲の人々の運命が揺さぶられるさまが描かれます。大きなパニックや出来事もなく、むしろ淡々とした筆致で物語は展開します。

 本筋とは別に、主人公がトラウマを抱えた元作家のニートで、その生い立ちや女性心理学者とのおずおずした恋模様が延々と描かれます。欧米では、ブンガク的な味わいや、倫理と科学、フィクションとノンフィクションの境界の考察など、ストーリーと関係のないところが高く評価されているようです。このため、SFという範疇で手に取ると肩透かしを食うことになります。

 また、最近の流行なのでしょうか、人称がときどき変わります。その理由は最期で解き明かされますが、読んでいる最中はかなり戸惑いました。ある意味、アメリカローカル視点の作品なので、読む人を選ぶかもしれません。今回は、推薦ではなくご報告です。

 

 USやUKアマゾンの書評でliteraryとか、intellectualとか、conceptとか言っていたら、ちょっと気を付けたほうがいいかもしれませんね。(特に、私のような英語力の人にとっては)

●ストーリー●

 ラッセル・ストーンは将来を嘱望された作家だったが、読者からの批判がトラウマとなって書けなくなり、個人雑誌の編集者として糊口をしのぎ、人間の幸福と不幸ついて深く考えるようになっていた。彼は、副業としてシカゴの三流芸術大学に講師の職を得るが、そこで一人の女子生徒ターサと出会う。ターサは、父親を含む家族をアルジェリア内戦で虐殺されるという体験の持ち主だった。しかし、クラスでは彼女は過剰な幸福感につつまれ、それをクラスメートにまで伝染させていた。そのオーラに衝撃を受けたラッセルは、彼女の心理状態を詳しく調べようと思い立ち、女性心理学者のカンデンス・ウィールドに相談を持ちかける。ところが、ターサはある事件にまきこまれ、彼女の特異な能力がマスコミに発表されてしまうこととなる。

 そのころ、ノーベル賞受賞者でベンチャー企業家の遺伝科学者トーマス・カートンは、人を幸福にする遺伝子を探していた。事件の記事からターサの存在を知ったトーマスは、彼女との接触を図ろうとする。ターサが持つ幸福の遺伝子の存在が、彼女自身だけでなく周囲の人々の運命をも大きく狂わせようとしていた。



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