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Natural History

  • 著者:ジャステナ・ロブスン (Justina Robson)
  • 発行:2005/Bantam $13.00
  • 325ページ
  • 2011年8月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 本書"Natural History"は、受賞は逃しましたが、英国SF協会賞・キャンベル記念賞の候補作になっています。作者のジャステナ・ロブスンは、欧米ではハードSFに新風を吹き込んだ女性作家として評価されていますが、日本では長編の翻訳はないようです。

 

 本書の最大の面白さは、凝った世界設定です。

 3400年後、人類は太陽系全体に広がったものの、超光速飛行の技術はまだ獲得できず、資源は限界に達しつつあります。人類は、普通の身体を持つ通常人と、生活環境に合わせて体を改変した「Forged:鍛造人」に分かれています。

 鍛造人は、幼少時はバーチャル世界で人間として育ち、成人すると鳥や動物、果ては飛行機や宇宙船、宇宙基地基地など、目的に合わせたボディを獲得します。彼らは自分の異形の身体と能力に誇りを抱いていますが、休暇にはバーチャル世界に戻って人間として過ごし、人間の姿(少女だったり、少年だったり)の三次元映像のアバターを他者とコミュニケートに使います。

 一方、支配者階級の通常人たちは内心で鍛造人たちを嫌悪し差別しており、鍛造人たちの間には独立運動の機運が起き始めています。

 

 ル=グウィンを髣髴とさせる、きっちりと書き込まれた世界観は、それだけで魅力的です。マッチョな人体への執着を放棄しているように見えるのは、女性ならではの視点なのでしょうか。

 

 PS.)2006年、同じ世界を舞台にした続編として "Living Next Door to the God of Love" が出版されました。さっそく読み始めたのですが……、挫折しました! 本書とは全く異なるあまりにも凝った展開と記述法で、私の読解力と根気が続かなかったのです。欧米の書評でも、だいぶ賛否が分かれているようです。いつか(?)再挑戦したいと思います。

●ストーリー●

 「Forged:鍛造人」のアイソルは、深宇宙探査機を身体とした女性で、6光年かなたのバーナード星に向け長い孤独な飛行を続けていた。その途中、謎のデブリとの衝突で大破した彼女は、死を覚悟する。しかし、衝突したデブリは知性を持つ異星の有機物質で、彼女のロケットエンジンと入れ替わり、ワープ能力を提供する。

 アイソルは、新たに獲得したワープ能力で太陽系に戻り、鍛造人のリーダーの鳥型人間コーヴァックスと密かに接触する。デブリからもたらされた知識の中に、植民可能な新惑星の情報が含まれていたのだ。コーヴァックスたちは、発見された惑星を鍛造人の独立のために使おうと考える。

 

 地球政府の統治者マッケンは、アイソルから帰還報告を受けるが、その発見と鍛造人たちの意図に疑念を抱く。マッケンから新惑星の調査を命じられたアイソルは、調査に同行させる人間は1名だけ限ると主張する。同行者として選ばれた女性考古学者ゼフィールを乗せ、アイソルは新惑星へワープする。到着した惑星は、重力や大気などが地球とほぼ同じ条件でありながら、不思議なことに生命の痕跡が全くなく、居住者のいない廃墟の都市だけが広がっていた。

 

 一方、アイソルは、取り込んだデブリの有機物が徐々に自分を変質させていることに気づく。それは、鍛造人と普通の人間の関係、そして全ての人類の運命を大きく変えていく。



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