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The H-Bomb Girl

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2008/Faber Children's Books £6.99 UK
  • 265ページ
  • 2010年4月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★☆☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 数年来バクスターを追っかけて読み続けてきましたが、SF分野に関してはようやく最新作に追いついてきました。(歴史物はまだ未着手ですが)


 さて、本書は、バクスターとしては異色のヤング・アダルト物です。主人公の14歳の少女が、ビートルズなどポップカルチャーが勃興する1960年代のイギリス・リバプールを舞台に、謎の組織から地球の未来を守るため、クラスメートとともに戦います。

 受賞は逃しましたが、2008年のアーサー・C・クラーク賞にノミネートされました。


 表紙ではドクター・フーの脚本家が「ドクター・フーが好きな人なら、絶対気に入るよ!」てな紹介をしています。バクスターも多感な少年少女たちをビビッドに描こうと、がんばった様子が伺えます。しかし、そこはやはりバクスターで、結局、強烈な印象として残るのは、リアルな第三次世界大戦勃発の経過と、核戦争後のリバプールの惨状だったりするんですね。あと最後の謎解きは、ヤングアダルト物としてはちょっと難解かな……。


 なお、「hibakusya(被爆者)」という言葉や、核爆弾の閃光で壁に焼きついた人影、山と積まれて焼かれる死体など、バクスターが来日したときに仕入れたとおぼしき被爆の惨状が克明に描かれています。海外の書評を見ると、その描写にショックを受けた読者もいたようです。(この程度知らないで、広島・長崎を正当化するなよな、欧米・・)

 若年層がターゲットのため、会話文が多く単語も平易で260ページ余りと短いので、洋書初心者にもお勧めです。一方、背景となるビートルズ発祥のキャヴァンクラブなど当時のリバプールの様子はなかなか興味深く、老兵SFファンは別の意味で楽しめると思います。

●ストーリー●

 1962年、軍人の父の転勤でリバプールに引っ越してきた14歳の少女ローラは、転校した中学校でツンデレ少女のバーナや、オタクの黒人少年ジョエルと友達になる。
 リバプールは、いまだ第2次世界大戦の爆撃の傷跡が残っていたが、ビートルズをはじめポップカルチャーが登場し、ベビーブーマの若者の熱気が満ちていた。ローラたちも、映画"007"やポップコンサートなど、目もくらむ新しいエンターテイメントに夢中になる。


 しかし、ローラには誰にも言えない悩みがあった。父母が不仲になり、母の知人でモートという若い米兵が家に頻繁に出入りするようになっていた。さらに、英軍の戦略将校である父は、彼女に用途の分からないキーを渡し常時身につけているよう命じる。

 実は、そのとき世界はキューバ危機の最中にあった。ソ連がキューバに核ミサイル基地の建設を開始したことに端を発し、米ソは核戦争の瀬戸際まで追い込まれていたのだ。ローラの父は基地に詰めきりとなるが、彼女に電話でキューバの情勢を刻々と伝え、渡したキーを決して手放さないように念を押す。


 やがて、ローラの周囲では不可解な現象が起きはじめる。担任の老教師ウェルズ、そして近所の喫茶店に勤める中年の女店員アガサが、歳こそ違えローラ自身に瓜二つなのだ。さらに家に出入りする米兵モートは、彼にそっくりの老人ミニットマンを彼女に引き合わせる。彼らは皆、密かに彼女が持つキーを狙っているらしいのだが、誰も強奪しようとはしない。

 ある日、ローラは、担任教師ウェルズの嫌がらせに反発し、友人のバーナとジョエルとともに学校に忍び込んでウェルズのロッカーを探る。そこには、輝く小さなスクリーンとボタンが付いた不思議な小箱があった。

 核戦争の危機が刻一刻と近づく中、謎の2つの勢力の魔の手がローラに迫る。果たして、核戦争は回避できるのだろうか。そして、地球の未来にローラの果たす役割とは?

●覚えたい単語● :電子辞書の履歴から、気になる単語を記録。

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