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Ark

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2009/Gollancz £12.99 UK
  • 457ページ
  • 2010年6月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 Floodシリーズ第2部・完結編です。

 前作Floodでは、原因不明の海面上昇により人類が絶滅の縁に追い込まれる中、謎の「Ark 3」計画で生き残りを図る人々の苦闘が描かれました。本作は、Floodの最後にちらっと登場したもう一つのプロジェクト、宇宙殖民船「Ark 1」の物語です。

 前半は、Arkの搭乗員となる子供たちの15年にわたる訓練と成長が描かれ、少しもたつきます。しかし、それがあって後半のビジュアルな宇宙船の物語が生きてきます。

 

 宇宙殖民船という古典的なネタも、バクスターにかかると全く別のガジェットに見えるから不思議です。まず、現在の技術では100年動くメカを作るのは無理。使える物資は洪水が到来した2018年以前のストックがほとんど。打ち上げロケットで宇宙に運べる物資は1回数トン。暴徒と洪水が容赦なく襲ってくる…。八方塞がりです。じゃあ、どうやって宇宙殖民船なんて飛ばすんだ? バクスターが示す回答は…、読んでもらうしかありませんが、無理が無理じゃなくなるんですよね。

 一方、今回も極限状況下、作者の登場人物へのいじめっぷりは、半端じゃないです。そして、物語の最後の別離とわずかな希望が、これまた、たまんないんですよう。(^ ^;)

 

  PS: Arkのその後を描く短編集のレビュー →Landfall

 

●ストーリー●

 海面上昇により国土の水没が現実となってきた2025年、デンバーで世界の富豪たちだけの秘密組織「LaRei」の会合が秘密裏に開かれた。富豪パトリック・グランドウォーターも幼い娘・ホリーととも参加していた。会議に招かれた海洋学者サンディは、全ての陸地の水没まであと30年しかないと告げる。富豪たちはグループに別れ、人類の生存に向けそれぞれに計画を立て財産をつぎ込むことを誓い合う。前作"Flood"で描かれた「Ark 3」プロジェクトもその計画のひとつだったのだ。

 

 グランドウォーターたちのグループは、宇宙への避難を目指すことになる。計画を率いるのは中国からの難民の天才科学者チョン。現在の技術レベルでは、火星を含め太陽系内で人類が長期間生存できる場所はない。近傍の恒星には地球類似の惑星がいくつか発見されていたが、数千年飛行できる巨大宇宙船は夢物語だ。しかし、チョンの提案が突破口を開く。計画が動き始める。

 富豪グループの真の目的は、自分たちの幼い娘・息子を生き延びさせることだった。ホリーらメンバーの子供たちは「候補生」として共同生活を送りながら、教育と訓練を受け成長していく。

 洪水や暴徒、資源不足からスケジュールは遅延し、アメリカ政府が計画を引き継ぎてこ入れを図る。しかし、ついに決定的な事故が発生し、軌道に部品を打ち上げるロケット数が確保できなくなる。絶望の中、チョンが「今しかできない打ち上げ方法」を見つけ出す。

 2041年12月暴徒が押し寄せる中、成人したホリーたちは宇宙船Arkの発進にかろうじて成功した。しかし、混乱の中で一部の候補生や医師が乗り遅れ、予定外の人間が乗り込んでしまう。

 やがてArkは目的地へ向けて旅立つが、予想もしなかった障害が次々とホリーたちを襲う。

 

 果たして、Ark が向かうのは本当に新天地なのか。人類は種と文明を生存させることができるのだろうか…。

 

●覚えたい単語●

 podium 演壇、relativity 相対性理論、mouse (俗)女の子、auspices 庇護、confiscate 押収する、instigate 扇動する、spasm 衝動、gatecrasher 押しかけ客、centrifugal 遠心力の、oust 追放する、munity 反乱、renegade 裏切り者、prow 機首

 



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