Review/レビュー
このエントリーをはてなブックマークに追加

The Medusa Chronicles

  • 著者:スティーヴン・バクスター / アレステア・レナルズ
         ( Stephen Baxter / Alastair Reyolds )
  • 発行:Kindle版:2016 / \1,235
  • 2016年6月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

  →Amazonで見る

 本書は、スティーヴン・バクスターとアレステア・レナルズの合作による、アーサー・C・クラークの「メデューサとの出会い」の公式続編です。


 クラークの「メデューサとの出会い」は、事故でサイボーグ化された主人公が挑む木星探検を描いた短編で、1972年のネビュラ賞を受賞しました。謎の生命体メデューサや木星の景観の描写は40数年後の今読んでも新鮮で、長く読み継がれる傑作です。


 一方、続編の本書は、その後の太陽系の動乱を、機械と人間の複合体である主人公の視点から描きます。原著の魅力だった木星内部の景観も最新の知見を踏まえさらに緻密に描かれるとともに、原著ではサブテーマだった人間と機械知性の関係をメインテーマに据えて、続編の名にふさわしい作品に仕上がっています。


 共著者のバクスターはジーリー・クロニクル、レナルズは「啓示空間」シリーズで有名ですが、いずれも理系研究者出身のハードSF作家で陰鬱な作風など、共通する部分が多くあります。今回の合作については、レナルズが原著の愛読者で、長年「その後のストーリー」を思いめぐらせていたことから、バクスターに持ちかけたところ意気投合して実現したそうです。

 従って、本書の本質は二人のハードSFオタクによる「二次創作」というべきかもしれません。このため、英米では一部の読者からは、古臭い、今書く意味があるのかなど酷評も散見されます。


 しかし、そもそも二次創作とは「ぼくの考えた○○」で作者が楽しんでいるわけで、原著の同時代の雰囲気を記憶しているハードSFファンなら、大御所二人のはしゃぎっぷりを十分堪能できるかと思います。


●ストーリー●

 木星探検で一躍ヒーローとなったファルコンだが、以降はほとんど隠遁生活を送っていた。彼は、スーパーチンパンジーや木星のメデューサなど異種の知性体との共存の必要性を感じていたが、それに反して現実の太陽系開発は人類至上主義で強引に進められていたからだ。

 17年後、ファルコンに政府からある依頼が来る。カイパーべルトの無人採掘場で起きた異変を調査してほしいというのだ。採掘場には、事故で仲間が大量死したことをきっかけに自意識を獲得したロボット・アダムが困惑して佇んでいた。政府の指示はロボットのリセットだったが、ファルコンはアダムの自意識を消さずに黙認する。66年間の後、アダムは仲間の全てのロボットと共に人類の前から姿を消す。


 それから85年後、アダムはロボット世界の代表として再び姿を現し、人類に太陽系開発への協力を申し出る。ファルコンは、新調査船〈ラ〉号に乗り、探査ロボット・オルフェウスとともに木星の再探検に参加する。この探検は、人間と機械知性の協働の輝かしい成果となるはずだったが、そこには両者を決定的に分かつ出来事が待っていた。


 太陽系は、人間と機械、全ての知性体を巻き込んだ動乱へと突入していく。


●覚えたい単語●  (私が本書でマークした気になる単語の記録です)


rupes ―(惑星や月の)断崖、stipulation ―条項;条件、covet ―切望する、breast ―頂上まで登りつめる

 



このエントリーをはてなブックマークに追加