Review/レビュー
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2011 ネビュラ賞候補作

 2011ネビュラ賞の2012年5月決勝の前に、Galaxy Note購入を記念して、ネットで公開されているノミネート作を読んでみました。英会話もろくにできない田舎のSF爺いの書評なので、きっと予想は全部外れることでしょう。 

 なお、ネタバレに近い紹介もありますので、これから原著を読もうという方はご注意ください。

 ※ 2012/5/18 PS: 全部外れましたw

 

 SFWA:ノミネート作一覧  受賞作一覧

■Novella部門

Kiss Me Twice

 Mary Robinette Kowal (Asimov’s Science Fiction, June 2011)

 近未来、各警察署にはAIのサーバが置かれ、捜査官たちはARメガネを通じAIを助手に捜査を行っている。刑事ホァンは、AI"メッタ"に往年のセクシー女優メイ・ウエストのアバターをかぶせ相棒にしていた。

 ある日ホァンが殺人現場の検証を行っていたとき、突然警察署が何者かに急襲され、メッタのサーバが強奪される。バックアップから蘇ったメッタは数時間分の記憶を欠き不安定となるが、ホァンと共に盗まれた自分自身を追いはじめる。

 警察AI・メッタ は、手が触れられないだけでほとんど人間のよう。AIが年季奉公が明けるとフリーランスになれたりAIの人権が語られるなど、少し鉄腕アトム的な世界観が入っています。そこそこ面白く読めましたが、SFというより警察物の味わい。

The Man Who Bridged the Mist

  (本人のサイトに.docファイルがある)

 Kij Johnson (Asimov’s Science Fiction, October/November 2011)

 大小2つの月を持つ中世の世界。帝国を2つに分かつ大河に橋を掛ける計画が遅々として進まない。建築技師のキットは計画の立て直しのために架橋の現場、ファーサイドに送り込まれる。しかし、彼を待っていたのは水の流れる川ではなく、「ミスト」と呼ばれる霧状の腐食性の物質が流れる渓谷だった。対岸に渡ろうとしたキットは、代々渡しを営む女船頭のラサリとその弟のヴォロと知り合う。キットの作る橋は、彼らの生活の糧を奪うことになるのだが。

 「ミスト」の存在を除けば、中世ヨーロッパそのままのイメージです。ミストの正体は最後まで分かりませんし、謎解きや特に大きな山もありません。キジ・ジョンソンの描く奇妙な世界で、人生をゆっくり味わうというところでしょうか。

Silently and Very Fast

  Catherynne M. Valente (WSFA Press; Clarkesworld Magazine, October 2011)

 エレフシスは、北海道の知床に建つ民家の管理AIとして作られた。しかし持ち主のカシアン・魚谷・アゴスティノは天才的なプログラマで、エレフシスに意識を持たせることに成功する。それからエレフシスは、5世代に亘りヴァーチャル世界・ドリームワールドでカシアンの子孫たちの遊び相手として暮らし成長してきたが、いつからか外部とリンクできなくなっていることに気づく。そばに寄り添う少女ネヴァは、本当にカシアンの子孫なのか? エレフシスは自分自身の存在に疑念を抱く。

 バーチャル世界の中で人間と触れ合うことで人工知性の意識が育っていくさまを、神話的・詩的に描いています。もしかすると傑作なのかもしれませんが、私の貧弱な英語力では、poeticでbeautyなドリームワールドをちゃんと読解できてない気がします。(泣)

The Man Who Ended History: A Documentary (pdf)

 Ken Liu (Panverse Three, Panverse Publishing)

 日系アメリカ人の物理学者・桐野明美は、量子もつれを持ち過去の光子の状態を再現することのできる「ボーム・キリノ粒子」を発見する。この粒子の状態を観測することで過去を直接見ることが可能となったのだ。ただし、観測は人間の脳でしかできず、量子もつれが失われるため観測は一度限りしかできない。

 明美の恋人、エヴァン・ウェイは中国系アメリカ人で中世日本を研究する歴史家だった。エヴァンは平安時代の日本文化の魅力を明美に教えた。

 しかし、二人が偶然、日本軍の人体実験・731部隊のドキュメンタリー映画を見たことから世界が変わる。エヴァンは、日本が否定し中国も触れたがらない731部隊の真実を暴くことにのめり込む。そして、明美の過去を見るタイムマシンで、その残虐行為の現場を直接観察しようとする。

 日本、中国、アメリカ、世界を巻き込んだ論争が始まった。

 今回のノミネートの中でも異色で、昨年発表当時、日本ではごく一部の人の間で話題となった問題作。日本人にとって読むのが非常に辛い作品です。SF小説の形をとっていますが、長いあとがきから分かるように、本作は731部隊問題に取り組まない日本・中国政府を弾劾した作品です。末尾には大量の参考文献リストが付いていて、作者の本気度が伺えます。

 一方、731部隊や謝罪問題についての日本側の主張も多く取り入れたり、歴史認識の困難さにも言及するなど、小説としてのバランスを取ろうとしており、仮にこれがアウシュビッツやカティンの森事件を扱った作品だったら、日本でもすぐに翻訳されたかもしれません。

 私には本作に書かれた事件の内容の真贋は判断できませんが、英語圏で中国やアジア系の作家が脚光を浴びている現在、日本の負の側面が英語世界でどう発信されているかは、日本人は知っておく必要があると思います。

 本作でも、繰り返し「日本の沈黙」が言及されます。フィクション・ドキュメンタリーの分野でも英語での発信がなければ、日本の主張は世界には届かないでしょう。

 "森の中で誰にも観察されず倒れた木は、存在するのか?"(ジョージ・バークリー)

■Novelette部門

Sauerkraut Station

  Ferrett Steinmetz (Giganotosaurus, November 2011)

 ザワークラウト・ステーションは、旅人をもてなす宇宙ステーションとしてデナヒュー家が代々5世代に渡り経営してきた。現在は、祖母と母、娘のリジ―の3人で切り盛りしている。ある日、貴公子テンバがステーションに逗留する。10歳のテンバと12歳のリジ―はお互いに好意を持つが、テンバは人質としてウェブ星系から敵方のギネア星系に送られる途中だった。

 二人が分かれてから間もなく、両陣営の関係は悪化しついに戦争が始まる。ザワークラウト・ステーションは何とか中立を保とうと苦闘するのだが…

 宇宙ステーションを切り盛りする3代の女性は、まさに老舗旅館の女将です。外の世界へのあこがれや不安、王子様との出会いなど素晴らしくクラシックな作風ですが、楽しく読めました。SF爺いとしては、本作をお勧め。

Six Months, Three Days

  Charlie Jane Anders (Tor.com, June 2011)

 ジュディとダグは恋に落ちるが、二人は出会う何年も前からそうなることを知っていた。そして、6か月後に喧嘩別れすることも分かっている。二人とも未来を予知する能力を持っているからだ。ジュディは破局を回避する方法を探るが、その日は刻々と近づいてくる。

 キーは、男は未来を記憶のように予知する能力なのに対し、女は多くの可能性から未来を絞り込む能力だということ。運命を相手に愛は勝てるのか、というお話だが、SFでなくともOKじゃね?と思った。

The Old Equations

  Jake Kerr (Lightspeed Magazine, July 2011)

 アインシュタインが第一次世界大戦後に死んで、相対性理論が確立されないまま量子理論だけが発達した世界。ジェームズは、初の恒星調査飛行に一人飛び立つ。量子通信機で地球との即時通信を確保し、常時加速を続けることで20光年かなたのグリーゼ581には「5年」で到着できるはずだった。

 うわー、このネタでこのページ数引っ張るのかい…。4分の1でいいんじゃないの?

Fields of Gold

  Rachel Swirsky (Eclipse Four)

 35歳のデニスは病院で安楽死した。気が付くと彼は、先に死んだ大勢の死者たちが彼を迎えるパーティの最中に立っていた。ナポレオンやクレオパトラ、叔父、祖父などにまじって、若くして死んだ彼のいとこメラニーもそこにいた。メラニーは、デニスの死因は病死ではなく妻のカレンによる殺人だという。

 まるでテレビショーのセットのような死後の世界で、人生を振り返る。35歳までにやりとげたかったことリストが何度もでてきますが、その内容がいかにもアメリカン。リア充志向のSF読みは身につまされる?

The Migratory Pattern of Dancers

 Katherine Sparrow (Giganotosaurus, July 2011)

 野鳥や野生の動物がほとんど死滅した未来。家族を養うため、鳥のDNAを移植し、鳥の求愛ダンスを披露しながら、自転車でアメリカ大陸の「渡り」を行う一座があった。彼らは鳥のDNAから生じる本能に突き動かされながら、そのダンスに誇りを感じてもいたのだが・・・。

 なんで、ダンスを行うのにわざわざDNAを移植しなければならないのか、そんなダンスをどうして見たがるのか、理由がいまいち分かりませんでした。それだけの技術力があったら、野生動物を復活させられるんじゃないでしょうか。

■Short Story部門

Mama, We are Zhenya, Your Son

 Tom Crosshill, (Lightspeed Magazine, April 2011)

8歳の少年ジーニャは母親の治療代を得るために、モスクワでオルガ博士の実験台となる。ジーニャは愛犬と共に、小鬼やドラゴンが支配するバーチャルリアリティの世界に愛犬と共に放り込まれ、さまざまな試練を課せられるが、それは人間の脳が多元宇宙を認識できるようにするための訓練だった… 

 少年が母親にあてた手紙の形をとっていて、くじけそうになりながらも母親のために困難な試練に挑む健気さが泣けます。人間の多世界認知能力の問題は、イーガンの「宇宙消失」などで扱っていますが、子供目線というのは新しいと思います。アシモフやハインラインの初期の短編を彷彿とさせ、オヤジ的には一押しです。8歳児の英語なので読みやすいしw。

Her Husband’s Hands

 Adam-Troy Castro (Lightspeed Magazine, October 2011)

戦争で負傷しレベッカの元に帰ってきた夫は、身体を失い両手首だけの存在になっていた。それでも夫は、記憶バックアップと高度なサイボーグ技術で生きているのだ。嫌悪と愛情の間で苦悩するレベッカは、同じ境遇の負傷兵家族のフォーラムに参加する。

 身体がどこまで残っていれば同一人物として認知できるのか、というテーマの問題作。イラク・アフガニスタン戦争をかかえる欧米では切迫感を持って評価されているようで、ベスト短編はこの辺になるのかなと思います。しかし、いかんせん平和ボケ日本人にとっては、グロ・フリーク度が過ぎるような気もします。

Movement

 Nancy Fulda (Asimov’s Science Fiction, March 2011)

自閉症の少女ハンナはダンスに特異な天才を持っていたが、両親は最新の神経移植で治療しようとしていた。彼女は常人とは異なる時間スケールや感覚で美しい世界を見ているのだが、それを両親すら理解できず彼女もまた説明ですることができないのだ。 

 天才的な自閉症児の目を通して、世界の見方が違う者の間でのコミュニケーションの困難さを描きます。ファミコン世代の祖父母と脳インターフェースでネットにふける弟ですら、対話は不可能となっています。大きなドラマはありませんが、彼女の見ている世界の表現は美しくリリックで、心に残る一作です。

The Axiom of Choice

 David W. Goldman (New Haven Review, Winter 2011)

あなたはフォークソングのギタリストだが、飛行機事故で指を失う。あなたは絶望し浮浪者となる。そのつどあなたには選択肢があり、人生を選んでいくが、それで何かが変わったのか何も変わらないのか、あなたには分からない。

 主人公の彷徨を、自由意志と決定論は両立するかというテーマで描きます。ストーリー自体にSFやファンタジー的要素は何もありません。主人公が選択を行うたびに分岐する運命を、番号で示していく描き方がSFなんでしょう。 

The Cartographer Wasps and the Anarchist Bees

 E. Lily Yu (Clarkesworld Magazine, April 2011)

中国のとある村に上流からスズメバチの一族が流れ着く。土着のミツバチたちはこの凶暴な侵略者をなんとか懐柔しようとするが、結局スズメバチに奴隷として支配されてしまう。しかし、女王への忠誠に逆らえないはずのミツバチの間に、無政府思想を持つ者が生まれはじめる。 

 文化大革命や天安門事件へのオマージュなのでしょうか、ネタがよく分かりません。聊斎志異あたりにありそうな寓話ではありますが、わがニッポン昔話の方がずっと面白いと思う!(断言)

The Paper Menagerie

Ken Liu

(The Magazine of Fantasy and Science Fiction, March/April 2011)

ジャックはアメリカ人の父と中国人の母の間に生まれた。母は中国本土から父に連れてこられたため英語が苦手だったが、折り紙に命を吹き込む小さな魔法が使えた。ジャックは彼女が作った折り紙の虎・ラオフーや動物たちを友達に育つ。しかし、成長するにつれ彼はそんな母を疎ましく思うようになる。

 中国風のファンタジーで結末もあまりひねりはなく、ノミネートされたのが不思議です。しかし、なぜアメリカ人はこんなにアジア風の寓話が好きになったんでしょう?

Shipbirth

 Aliette de Bodard (Asimov’s Science Fiction, February 2011)

未来、それぞれの宇宙船には霊魂が宿り意思を持っているが、その霊魂は人間の女が孕み産み落とすのだ。しかし、そのとき女は死んでしまう。医師アコイミは女として生まれたが、霊魂を孕むことを恐れ男に性転換していた。しかし、皮肉にも、彼は霊魂の出産に立ち会うこととなるが… 

 うーん、よく分からない話でした。私の英語力が足りないんでしょう、多分。





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