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TERANESIA

  • 著者:グレッグ・イーガン
  • 発行:2000/Harpercollins ¥767(マスマーケット版)
  • 本邦未訳(2005年3月読了時)
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 グレッグ・イーガンは、認知科学、量子論、ナノテクなどの最先端のアイディアを駆使する、現在屈指のハードSF作家です。邦訳長編の「宇宙消失」、「順列都市」、「万物理論」では、読後に現実の足元がぐらつくようなセンスオブワンダーが味わえます。
 しかし、本書にその辺を期待して読むと、肩透かしをくらいます。
 まず、主人公が変です。最近のSFで、ここまで情けない主人公を見たことがありません。彼は少年時代に内戦で両親を失なうのですが、その死に責任があるという罪悪感を抱きながら成長し、極度のシスターコンプレックスを持つゲイの青年となります。
 物語は、近未来、両親終焉の地を19年ぶりに訪れた主人公が、進化の秘密を探る旅の中でトラウマから解放されていく過程を描きますが、最初から最後まであんまり成長した様子もありません。イーガン自身が旅行して取材したのであろう、インドネシア諸島の自然が本当の主人公といえるかもしれません。
 生物進化に関する謎解きの大風呂敷はさすがですが、それ以外にSFの要素はほとんどなく、逆に、普通小説としてみると、登場人物の心理描写と都合のよいストーリー展開には疑問が残ります。日本のイーガンのファンにとっては評価が分かれるところでしょう。邦訳はされないかもしれませんね。
 なお、新なた進化の秘密ですが、「宇宙消失」のDNA版とでもいいましょうか・・・、これは読んでのお楽しみということで。

●ストーリー●

 プラビール・スレッシュは9歳の少年。インド人で生物化学者の両親、幼い妹のマディとともに、インドネシアのバンダ海に浮かぶ無人島に暮らしていた。両親は、この島に発生した新種の蝶を研究している。プラビールは、島を「テラネシア」と命名して、パソコンと妹を友達に、島の自然と空想の世界の中で生きていた。
 しかしインドネシアに内戦が勃発し、反乱軍がばら撒いた対人地雷により、両親は彼の目の前で爆死してしまう。妹を連れ島を脱出したプラビールは、トロントに住む母のいとこ、アミタのもとに送られるが、島での出来事のトラウマにとらわれながら成長する。
 19年後、プラビールはコンピュータ技術を生かして金融機関に職を得て、アミタから離れ妹とともにアパートに暮らしている。彼はゲイで、男の恋人がおり、妹に対してはその自立を認められず苦しんでいた。
 生物学の大学院生となっていた妹マディは、ある日、研究チームに加わりインドネシアに行きたいと言い出す。バンダ海諸島に、突然多数の新種の生物が発見され、世界から多数の調査団が向かっているというのだ。「テラネシア」への恐怖から、彼は猛反対するが、彼女は無断で出発してしまう。
 彼は、ショックから自殺を図るが、過去を克服するため、妹を追ってインドネシアに旅立つ。旅の途中、彼はフリーランスの女性生物学者・グラントと知り合い、その助手となる。彼女の専用ヨットで彼女とともに島々を調査するうちに、彼らは異様なことに気が付く。種を越えて最適な共生関係を持つ新種が、独立に多数発生しているようなのだ。彼の両親が研究していた蝶は、その前触れだった。
 プラビールは美しいバンダ海を旅するうちに、徐々に過去のくびきから解き放たれていく。やがて、「テラネシア」を訪れ、ようやく両親の死への罪悪感から解放される。
 そして、彼らが送った資料により、サンパウロ大学で抽出されたタンパク質から、新たな進化のメカニズムが発見されつつあった。短期化のうちに、なぜ、種を越えて最適な進化が起きているのか。それは、宇宙の成り立ちにも繋がる驚くべき理論だった。
 一方、「進化」の人間への「感染」を恐れたインドネシア国軍が、研究者や島民を拘束し始める。からくも軍の手を逃れたプラビールだったが、すでに「進化」を発病していた。そのとき、彼の前に現れた人物とは…。



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