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Coalescent

  • 著者:スティーヴン・バクスター
  • 発行: 2004/Del Rey $7.50(マスマーケット版)
  • 2005年3月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 Childrenシリーズ三部作の第1作です。本書は、SF的アイデアとガジェットがてんこ盛りだったこれまでのバクスターとは趣を変え、半村良の「石の血脈」を彷彿させる伝奇ホラーSFに仕上がっています。
 Manifold三部作と比べ、ストーリーテーリングの技術が格段に向上しており、一気に読ませます。私のペーパーバック読破時間の最短記録を更新しました。お勧めの一冊です。
 英単語は、ラテン語、カトリック用語、古代地名などが頻出するものの、全体的には平易です。ヨーロッパの地図と年表を脇に置いてチェックすると、イメージが膨らみます。

 主人公が父の死をきっかけに双子の妹の存在を知り、その謎を追いかけるストーリーと、古代から現代に向かうもう一つのストーリーが交互に描かれていきます。2つのストーリーは現代で交わり、クライマックスを迎え、エピローグではさらに未来へと別れて遠ざかっていきます。バクスターらしからぬ巧みな構成です。Manifoldでは分かりにくかった複数視点の書き分けが、メインを一人称、サブストーリーを三人称にすることで解決され、作品に厚みをもたらしました。さらに、伝奇小説には必須(?)のエロやバイオレンスも過不足なく織り交ぜ、530ページを飽きさせません。
 もちろん、得意の科学的ホラも健在で、今回のメインは人間の新たな進化を、マルチエージェント理論、創発(Emergence)、動物行動学など、これまでSFでは使われてこなかった分野から描いています。
 しかし、本書の魅力はむしろ、アーサー王伝説ローマ帝国興亡史など、ヨーロッパの古代史を全面に押し出し、さらに、感情移入できるキャラを複数立てることに成功したことで、SFファン以外でもいけそうな予感がします。
 なお、本筋とは関係なく、「これって、ジーリー?」という部分があちこちに出てきますが、この辺でChildrenシリーズ第2巻Exultant以降につながっていくようです。
 例えば、主人公の姓は「プール」。どっかで聞いたことありませんか?

 本作によって、バクスターはいよいよ楽しみな作家となりました。しばらくは追っかけながら読んでいきたいと思っています
 

●ストーリー●

 マスコミは、冥王星のかなたカイパーベルト地帯で発見された謎の巨大物体の話題でもちきりだ。
 そんな中、一人暮らしをしていた父が、マンチェスターの自宅で息を引き取った。
 私、ジョージ・プールは、旧友のピーターと共に父の遺品を整理をする中、隠された双子の妹の存在を知る。仕事にも生活にも倦んでいた私は、妹の居場所を探し始めた。
 ローザという妹は、幼くして「オーダー(同盟)」という謎の団体に預けられたらしい。しかし、マイアミに住む姉も親戚も、なぜか口を濁して詳しくを語ろうとしない。私は、わずかな手がかりをたどってオーダーの所在地、ローマへと向かった。

 5世紀、ローマ統治下英国で、現地の行政官の娘、レジーナは奴隷や使用人にかしずかれ、父母と満ち足りた日々を送っていた。しかし、ある日、父が何者かに殺され、母は彼女を捨ててローマへ去ってしまう。
 それからレジーナは、軍の指揮官の叔父や女奴隷カータの伯父の家などを転々として成長する。すでにローマは昔日の勢いを失い、ローマ統治下の英国は周囲からサクソン人などの野蛮人たちに攻め込まれ、崩壊の一途を辿っていた。彼女はローマの秩序の回復を切望する。
 17歳になったとき、彼女は身を寄せていた一家の息子アマターに犯され妊娠してしまう。さらに、街に大火が起き、一家は路頭に迷うことになる。やむなく彼女は一家とともに、放棄された荒野の農家に住み着き、娘を産み落としブリカと名づける。やがて、レジーナはたくましいサバイバルの力とリーダーシップを身に付けていった。
 20年後、彼女の前に、アートリウスという新興の領主が現れる。レジーナは家族の生き残りのため、彼の愛人となることを選ぶ。アートリウスはレジーナの知恵を得て、英国で勢力を拡大していくが、彼の野望の危うさを察知したレジーナは、隙を見て娘ブリカを連れ、ローマに逃れる。
 そこには、彼女を捨てた母とアマターが生きていた。レジーナは二人の力を利用して、家族=自分の血筋の永遠の生き残りだけを目的として、ローマの地下に、女だけの組織「オーダー」を作り上げる。

 はるかな時を経た21世紀の現代、「オーダー」は、バチカンをも動かす隠然たる力を持って生き残っていた。数千人の瓜二つの女たちが住み、そのうち27人の母だけが、毎年100人の赤ん坊を生みつづける異様な地下社会として。

 私は、ローマで双子の妹、ローザと出会う。しかし彼女は、完全にオーダーの一員となっていた。そして、彼女らの地下都市を訪れたとき、私もまたオーダーの一員であるという感覚に襲われる。
 しかし、私を追ってきたピーターは、オーダーは単なるカルト集団ではなく、新たな人類に進化しているのではないか、という驚くべき仮説を聞かせる。

 オーダーは、本当に新人類なのか。彼女たちは、何をも目論んでいるのか。分厚く積み重なったローマの歴史の中で、その真実が明らかとなっていく。



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