Thirteen
2008年アーサー・C・クラーク賞受賞作です。リチャード・モーガンはイギリスのSF作家。日本ではシリーズ2冊(オルタード・カーボン、ブロークン・エンジェル)が翻訳されています。作品に一貫したテーマは、死と暴力が支配するデストピアの世界での人間性です。
本書も、100年後の未来を舞台にしているものの、読後感はハードボイルドそのものです。560ページと大部ですが、映画ブラックレインを髣髴とさせるノワールな世界を楽しめました。
しかし、本書の英語にはかなり手ごわいです。凝った文体で、日本人の苦手な挿入句も多く、じっくり読まないとストーリーが追えない場所もあり、読み終えるまで最近になく時間がかかってしまいました。ペーパーバック上級者向けです。
なお、本書はイギリスでは「Black Man」というタイトルでしたが、アメリカでの出版にあたって人種問題を考慮してタイトルが変えられたそうです。マイノリティへの「偏見」をサブテーマに据えた作品なのに、皮肉な話ではあります。
●ストーリー●
100年後、長い戦争の後、アメリカはもはや超大国ではなく、地球は3つの連盟が支配する奇妙なバランスで平和を取り戻していた。火星は植民され、力を蓄えつつあった。長い戦争は忌むべき遺物も残した。遺伝子操作により農耕以前の人類のアルファ雄を復活させ、究極の戦闘能力を持った戦士として作り出された亜人種「サーティーン」だ。戦後、サーティーン達は一般人の恐怖の対象となり、収容所や火星の植民地に隔離されていたが、脱出する者も少なくなかった。
カール・マルサリスは、逃げ出したサーティーンを狩るハンターだった。しかし、実は彼自身もサーティーンの一人で、任務の遂行を条件に行動を許されていたのだ。
ある日、火星からのシャトルが海に不時着し、全乗員がバラバラ死体となって発見される。女捜査員セヴジが調査にあたった結果、密航したサーティーンの犯行が疑われた。国連は、カールに犯人を追うことを命ずる。セヴジは、サーティーンであるカールを嫌悪しながらも共に捜査を進めるが、徐々に裏にある陰謀が浮かび上がってくる。
やがて、事件はカールの出自を含めて、意外な方向に展開していく。