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Flood

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2008/Gollancz £6.99 UK
  • 544ページ
  • 2010年3月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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  日本では、バクスターといえばジーリーシリーズなど「後味の良い」作品しか知られていないため、宇宙SFオンリー作家のように思われています。

 しかし、私はここであえて「バクスター=絶滅SM作家」説を提唱します(^ ^;)。


 ジーリーシリーズも幾多の種族の興亡が描かれていて、その兆候は現れていますが、バクスターの性癖がはっきり分かるのは、未訳のTitanMoonseedといった地球絶滅を主題にした一連の作品です。そこでは登場人物たちは、地獄を這いずり回るようなサバイバルを強いられたあげく、情け容赦ない非業の最期を迎えるのです。あまりの仕打ちに、普通のSFファンの中には耐えられない人もいるようで、欧米でも一部の読者からは罵詈雑言の書評が寄せられたりしています。

 しかし、このバクスター世界のマゾッ気に一度はまってしまうと、もう抜け出せなくなります。さあ、絶望させてくれ、周到に準備した頼みの綱にトラブルを起こしてくれ、わずかな希望を潰してくれ、それでも振り絞った工夫や気力を次々に打ち砕いてくれっ! そして最期の最期に、希望とすらいえない明かりが、かすかに仄めく…。これで、つい次の一冊に手を伸ばしてしまうんです。


 本書も間違いなく絶滅シリーズの一つです。海面上昇で全世界が海に飲み込まれ、人類の死に物狂いの努力が容赦なく費えていくさまを、一人の女性の目から描きます。

 数十年前に読んだJ.G.バラードの「沈んだ世界」や日本沈没を思い起こさせますが、もっと徹底的です。主人公を取り巻く人間関係がうざい感じもしますが、舞台と絶望の大きさに免じて許しちゃえます。
  本書の最期に示された光が、次作「Ark」につながるようなので、さっそく購入ボタンをポチッとな・・・。 

【追記】さっそく読みました。→Arkレビュー

●ストーリー●

 2016年のスペイン、テロリストに監禁されていたアメリカ大使館員のリリーは、巨大ベンチャー企業アクシス配下の特殊部隊の手によって、5年ぶりに救出された。人質として生死を共にした4人、リリー、ヘレン、ガリー、ピアースの間には特別の紐帯が生まれ、何があっても助け合うことを誓い合う。


 しかし、世界は彼らが隔離されていた5年間のうちに様変わりしていた。世界中で、地球温暖化の影響と思われる豪雨や水害が多発していたのだ。元人質たちがアクシスのオーナー・ネイザン主催のパーティーに出席していたとき、長弩級の嵐と高潮がロンドンを襲い、壊滅的な被害を与える。しかしそれは始まりにすぎなかった。元人質の一人、気象学者のガリーは気象変動の原因そのものに疑いを抱く。

 リリーたちは、それぞれネイザンの下で働き始める。ガリーは友人の海洋学者サンディとともに、ネイザンの資金で、海面上昇の真の原因の調査に取り組む。大西洋に潜水した彼らは、海底から大量の水が噴出している現象を目撃する。

 サンディは学会で警告を発するが、トンデモ論として一蹴される。しかしその後、世界中で謎の海面上昇は加速し、都市が水没しはじめる。


 一方リリーは、南米アンデスの高地クスコにネイザンが建設した「プロジェクト・シティ」に赴く。そこで彼女が見たものは、タイムマシンから抜け出したような巨大な建造物だった …。

 やがて、各地で標高の高い土地をめぐって内乱や紛争が起こり、世界秩序は崩壊の坂を転げ落ち始めた。

 海面上昇はどこまで続くのか。そしてネイザンの極秘の計画とは何か?

●覚えたい単語●

 電子辞書の履歴から、気になった単語を記録しておきます。しかし、なんとなくストーリーがわかってしまうよ うな気が・・・・

 hostage 人質、estuary 河口、wharf 埠頭、jetty 防波堤、spill over あふれる、murky どろどろの、bowser 給水車、flay 鞭打つ、drought 干ばつ、dike 土手、wistful 物思いに沈んだ、vanity うぬぼれ、shanty・shack 掘っ立て小屋、carcass 死骸、granduer 山脈、reed アシ、loot 略奪品

 



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