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ねっと仕事術 Lesson 3

情報流出で泣くか?地域間競争で優位に立つか?

自治体vs.検索エンジン

 Google、Yahoo、MSNなどの検索エンジンは、ネットユーザーにとって、もはや不可欠の存在です。しかし忘れてはいけないのは、自治体は検索エンジンで検索される立場でもあるということです。検索エンジンとの付き合い方が、自治体の命運を握る時代に入っているのです。

※ 本シリーズ0〜12は、筆者が月刊ガバナンス(ぎょうせい)2007年1月号〜12月号に
   連載した同名の記事を大幅に加筆修正したものです。

 

「キャッシュ」の落とし穴

B男 先週、参考になるサイト見つけたんですけど、今日見たらデータが消去されてるんですよー。まいったなあ。

亭主 そんなときは、Googleでそのサイトを検索して、「キャッシュ」を開いてみると、いいことがあるかもしれんぞい。

B男 ああっ、キャッシュに古いデータが残ってました! こりゃ、便利ですねー。

亭主 じゃがの、便利なキャッシュは、実は自治体にとって両刃の剣なんじゃよ。

  Googleが登場してわずか10年。「文字が発明されて以来の衝撃」、「Google革命」と称されるほど、検索エンジンが個人の生活、企業・団体のビジネスモデルに与える影響は広がっています。 その全体像は、とても筆者の手には負えませんが、今回は検索される自治体の視点から、検索エンジンとの付き合い方を紹介しましょう。

 現在、国内で有名な検索エンジンとしてはYahoo、MSNなどもありますが、ここではGoogleを中心にご説明します。

 

 まず注意したいのがキャッシュ機能です。検索エンジンの検索結果の中に「キャッシュ」というリンクがあります。キャッシュを表示すると、検索文字が見つけやすくハイライトされ、元のホームページでは削除されたページも読むことができます。

▼Googleの検索結果

キャッシュをクリックすると、一時保存されているページを見ることができる。

 

 実は、検索エンジンは、現時点のページを直接検索しているのではありません。あらかじめ世界中のホームページを読み込んで自社の巨大なデーターベースの中に保存したうえで、索引を作成しているのです。(下図)

 ページ読み込みの間隔は数日から数週間で、ページによって一定ではありません。キャッシュはこの保存したデータを表示しているため、検索元のページとタイムラグが生じるわけです。

 

 

 キャッシュはユーザーにとって非常に便利な機能ですが、企業や自治体などで情報を管理する人にとって、油断できない存在でもあります。

 2003年、S県のホームページに誤って個人情報が掲載された際、元データはすぐに削除されたのですが、検索エンジンのキャッシュに情報が残っていることに気付かず、数日間、誰でもアクセスできる状態になっていました。2006年には、韓国の住民登録情報90万人分がキャッシュに残っていたことが報道されました。

 キャッシュはGoogle、Yahoo、MSNなど、ほとんどの検索エンジンに存在します。仮に情報流出などの問題が発生した場合は、元データだけでなく、必ずこれらのキャッシュまで調査をし、それぞれの検索エンジンの管理者に削除依頼をする必要があります。

 

Googleハッキング

 次に注意したいのはGoogle ハッキングです。

 これは、未公開のつもりのページが検索エンジンを使ってアクセスされてしまうことです。悪意のハッキングのほか、設置者の不注意によってアクセスされてしまうケースもあります。 2006年には、F県で採用試験合格者のページを隠しファイルとしてWebサーバに入れたところ、発表前に検索されネット上に流れてしまいました。この場合は検索エンジンからの流出ではありませんでしたが、設定とタイミングが悪ければ、強力な検索エンジンは瞬時にキャッシュに取り込んでしまいます。リンクを張らなければアクセスできないはず、という思い込みは禁物ということです。

 

個人情報の照合が容易に

 また、検索エンジンによって個人情報の照合が容易になったことも要注意です。個人情報保護法では、個人情報は「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。」とされています。以前は電子化されていても他の情報と照合するには、相応の知識と技術が必要でした。

 しかし検索エンジンを使うことで、ネット上に存在する情報(誤って流出したものも含む)であれば、誰でも「容易に照合」が可能になってしまいました。

 試しにご自分の名前を、検索してみてください。対外的に活躍されている方ほど、意外な所で自分を発見し、驚くことでしょう。

 現在、検索エンジンは、文字情報以外にも、写真、動画、地図、衛星写真など、ほとんどあらゆるメディアを検索できるようになりつつあります。さらにGoogleはストリートビューという、道路から見た風景写真を地図から検索できるサービスを開始し、個人情報の侵害の恐れがあると問題になっています。

 これらを組み合わせて検索を繰り返し追跡することで、思いもかけない範囲まで個人を特定できてしまうことがあるのです。

 今後は、公表する会議録やイベントの写真、動画などについても、十分な吟味が必要でしょう。。

 

検索結果の表示順で天と地の差

 問題点がある一方、検索エンジンは有効に活用すれば、地域間競争を優位に戦える決め手ともなります。

 例えば、あなたの自治体が企業誘致の補助制度をホームページでPRしているとします。Googleで「企業誘致 補助金」で検索してみてください。50万件を超えるサイトがヒットするはずです。そして、ご自分の自治体をその中から探してみてください。もし最初の3ページ以内に入っていたら、ラッキーです。

 順位が上がるほどアクセス率も上がるのは当然ですが、検索結果のうち閲覧してもらえるのは平均3.6ページまでいう調査結果があるのです(2006年オプト社)

 検索結果の順位は、そのページが他のWebサイトから張られているリンクの数を基本に、公にされていないルールも加味して決定されています。順位はサイトの信頼性を保証するものではないのですが、検索ユーザーは、一般に検索結果上位のものを信頼する傾向があるという調査結果もあるのです。

 このため、民間企業は、専門家に高額な報酬を支払って、検索結果の順位向上対策(SEO)にしのぎを削っています。自治体も自分の強みを生かすSEOを真剣に考える時期ではないでしょうか。「SEO」で検索すると、自前でできる対策もたくさん見つかりますので、研究してみましょう。

 

これからの検索エンジン

 Google は、自社の使命を「世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにすること」と宣言しています。実際に、世界の大学や図書館と連携して、書籍や情報の電子化を着々と進めています。他の検索エンジンもさらに進化を続けることでしょう。やがて、人類の蓄えてきた情報のほとんどがネットで検索できる日も、来るかもしれません。

 その特徴を理解したうえで、自治体は情報発信者として、また職員は情報を処理するプロとして、積極的に活用する技を身に付けていきたいものです。

 なお、米Googleでは、2006年6月から米政府・自治体を検索対象とした専用サービスを開始しました。いずれ日本でもサービスが始まるかもしれませんね。

B男 なんかネットが、恐ろしくなってきたなあ・・・・

亭主 いやいや、10年後、もっと巨大化した検索エンジンが世界をどう変えているか、楽しみなもんじゃよ。

 

(2008/10加筆) 

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  本シリーズの登場人物

B男
入庁7年目。不勉強を不遜な態度でごまかす名人。
Q子
入庁3年目。空気を読まない質問で場を凍りつかせる才女。
亭主
入庁xx年目。種族不明。
最近、忘却力がレベルアップしている。