| アーサー・ルピア、マシュー・D・マカビンズ著 山田真裕 訳 (木鐸社 2005)
「衆愚政治」という言葉が示すように、民主主義制度に対しては、必要な知識や判断能力を持たない民衆は、政治的に正しい判断をすることができないという、抜きがたい批判が存在します。 確かに(私も含め)多くの国民は、政治的問題についていちいち詳細な情報を収集し分析している訳ではありません。それでは、民衆は政治家に踊らされているだけなのでしょうか? さらに、大臣も知識面では素人ですから、判断の帰結が分からないままに、専門家である官僚に丸投げ委任しているだけなのでしょうか?これらの問題は、これまで概念的・哲学的にしか語られてきませんでした。
情報の詳細な分析によらず、行為の結果を瞬時に予測する能力を「ヒューリスティクス」といいます。著者らは、素人の政治的判断において、なんらかのヒューリスティクスが有効に働いているのか否かについて、「学習=説得」−「委任のディレンマ」という観点から、最新のゲーム理論、認知心理学を応用した数理モデルによる分析を行いました。その結果は驚くべきものです。 人間は、専門外の複雑な問題に対しては、情報そのものより「誰が・どう語ったか」を重要な判断材料にしており、その判断結果はおおむね正しい場合が多い、という結論が導き出されたのです。衆愚政治批判の、暗黙の前提が誤りらしいのです。 しかし、9.11直後のアメリカや日本の「刺客」選挙などを見ると、混乱時においてはこれらの分析があてはまらない場合もあるような気がします。より深い研究が待たれるところです。
なお、本書は、訳者の熱意は分かるものの、翻訳はちょっとひどいです(その意味で原著が読みたくなった)。内容が面白いだけに、編集者の方の今後の精進に期待して苦言を呈しておきたいと思います。
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民主制のディレンマ―市民は知る必要のあることを学習できるか? アーサー ルピア,マシュー・D. マカビンズ,Arthur Lupia,Mathew D. McCubbins,山田 真裕 木鐸社 2005-08 ¥ 3,150 ISBN: 4833223643 Amazonで詳細確認
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