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2014年 9月25日 (木)

  天気予報はこの日「ウソ」をつく
 自然災害が頻発し、自治体職員も気象の知識が不可欠な時代になってきました。しかし、そもそも気象予報がどうやって出されているのかについて我々が知る機会はありません。

 本書は、「天気予報を出す組織や会社は今何をやっているのか」について解説した本です。予報が外れる理由から始まって、気象予報が持つ原理的な困難さ、気象庁や民間予報会社が今抱えている課題や挑戦について幅広く紹介されています。

 印象に残ったのは、民間会社のウェザーニュースの的中率が気象庁を上回るようになった理由が、全国400万人の個人レポーターのデータにあったことです。一方、気象庁は人員削減で、人間による観測をどんどん減らしてきた結果、データの見落としや誤測定も懸念されているというのはショックです。

 また、欧米では従来からマスコミの天気予報は防災を重心を置き、地域生活者の立場に立った報道をしているそうです。東日本大震災を機に、日本でもようやくリスクコミュニケーションの重要性が認識されてきましたが、市民目線で使いやすい情報提供はどうあるべきなのか、考えさせられます。

 著者は日経新聞で科学記事担当や欧米支局勤務を長く務めた記者ですが、実は筑波大大学院で環境科学を修めた理系の人で、気象予報士でもあります。このため、科学的な基本と欧米の状況をきっちり踏まえており、今日の気象予報の全体像が分かりやすく一望できます。

 防災等で必要になる詳細な知識までは踏み込んでいませんが、本書を一読しておけば、専門的な解説書も理解しやすくなりそうです。
 


天気予報はこの日「ウソ」をつく (日経プレミアシリーズ) 
安藤 淳
日本経済新聞出版社
2014-08-09

¥ 918
ISBN: 4532262550
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2013年11月23日 (土)

  統合失調症 - その新たなる真実
○知っておきたい精神疾患の知識
 知的障害・精神障害・パーソナリティ障害・認知症…。

 市町村職員が、精神的な障害を抱えた方々に直面するケースが増えてきました。業務上必要なコミュニケーションが困難な場合も多く、ストレスを抱える職員も増加しています。  
 職種によっては、精神障害に関する知識は不可欠な状況ですが、職員研修はまだ一部でしか行われていません。自分の心を守り、適切な行政サービスを提供するためにも、少しでも理解を深め対応スキルを身に付けていきたいものです。

 さて、本書が扱う統合失調症は、一般には傷害事件のニュースなどでしか接することがなく、訳の分からない怖いイメージがありますが、発症率は人口の1パーセントに達し、福祉部門では普通に出会う疾患です。現代では、きちんと治療・投薬さえ受ければ日常生活を送れる人が多いのですが、症状が強く出ている時期は本人も苦しく周囲とのコミュニケーションが難しいこともあります。
 本書は、この分かりにくい統合失調症について、病気としての歴史からはじまり、症状ごとの分類、現在の治療の方法まで、その全体像を分かりやすく解説しています。著者・岡田尊司(おかだたかし)氏は精神科医として第一線で治療にあたりながら、一般人向けに精神的な障害に関する数々の本を発表しています。本書も新書ながら、バランスが取れた説明でお勧めの一冊です。

○タイプによって異なる対応

 特に、参考になるのは周囲の人々が患者に接する態度についての解説です(第7章)。一口に統合失調症といっても、症状のタイプは人によって、解体型・緊張型・妄想型などに分かれ、タイプに合わせた対応が重要なようです。ケースとして対応する場合は、治療をきちんと受けてもらうことが先決になるので、主治医と話し合いを持つうえでも本書の内容は理解しておきたいところです。

 なお、統合失調症は、環境によって症状改善が図られることも多いそうで、その理由は、この病気が本人の要因だけではなく、社会的環境との相互作用により起こるものだからということです。アフリカなどの地域社会の結びつきが強い開発途上国では、近代的な精神医療より、シャーマンによる土着治療のほうが良好な治療実績が認められる(第6章)というのは衝撃的です。
 日本ではもはや呪術師に頼れませんが、社会全体として統合失調症の患者を受け入れて暮らしやすい環境を整えることは、まだできるかもしれません。そしてそのような社会は、とりもなおさず、私たち一人ひとりにとっても生きやすい世界なのでしょう。
 

統合失調症 (PHP新書)  
岡田 尊司
PHP研究所
2010-10-16
¥ 798
ISBN: 4569793061
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2013年 6月 2日 (日)

  かゆいところに手が届く―農家の機械整備便利帳
 自家菜園ブームで、耕運機など素人向けの農機( 農業機械 )がホームセンターで安く販売されるようになりました。しかし、農機は故障した場合、修理費は最低でも5000円、ちょっと面倒なものは10,000円以上はかかります。家庭菜園の日曜ファーマーなら、簡単な整備は自分でできるようにしたいものです。

 本書は、農家を含む機械初心者向けの農機整備の入門書です。耕運機、刈払い機、動力噴霧器をはじめ、よく使われる農機を中心に、その構造と整備・修理の方法とコツを解説しています。著者はJAの機械整備担当の方で、高齢化した農家を日々相手にしているだけあって、難しい専門語を使わず、故障しやすい部分にしぼって丁寧に解説しています。キャブレターなどの部品は分解図で説明しているので、写真ではよく分からない機械の全体構造がよく理解できます。

 農機は最近の自動車に比べれば非常にシンプルな機械なので、タイヤ交換も苦手という人でも、一度本書を片手に挑戦してみれば整備はそれほど恐ろしい作業ではありません。逆に、エンジンの整備などは男の子の本能が呼び覚まされて、結構ハマってしまいます。
 なお、本書の写真は印刷が悪く部品の形がよく見えません。下記のような、整備写真を満載した農機整備サイトがありますので、本書と併せて見ながら作業するとさらに分かりやすいでしょう。

http://kikaim.com/ 農業機械メンテナンスナビ
http://www.engineer314.com/ 農業機械の簡単メンテナンス

 Youtube も整備ハウツーの宝庫。アメリカ人の投稿が多いです。
(例)http://www.youtube.com/watch?v=1HxzeuMzKjg 刈払い機キャブレターの修理

 ところで、この本を紹介しようと思ったのには別の理由があります。 日本には数えきれない農機があるというのに 、農家を含む初心者向けの農機整備の手引書は、2013年現在、日本にはこの一冊しか存在しないのです。

 農機整備のハウツー本が出ないのには、どうも我が国農業の現状に根本原因があるようです。
 まず、本書でも触れられていますが、農機の整備を自分で行う農家は少ないという現状があります。アメリカなどの農家は、個人事業者として経営上、農機はできるかぎり自分で整備するのが普通です。しかし日本の農家は、経費管理も農機整備も耕作のノウハウを農協に依存してきました。高齢化や兼業化も進み、いまさらこのような本で整備を学ぼうという農家は少ないのです。
 一方、日本でも自分で整備をする農家もいますが、彼らは農業高校などで教育を受けたプロなので、入門書は不要です。

 しかし今、引退した団塊の世代が一斉に家庭菜園用のミニ耕運機を買っており、このことが状況を変えるきっかけになるかもしれません。凝り性の世代ですから、すぐに分解を始める人も多いはずで、ハウツー本の潜在的需要は高いのではないでしょうか。
 アメリカでは一般向けの小型エンジンの整備解説書が大量に出版されています。これには建国以来の伝統として、一家の主人は芝や庭木の手入れを自分で行わなくてはならず、乗用芝刈り機やチェーンソーを所有している家庭が多いという事情があるようです。日本も似たような状況になりつつあるわけで、フルカラーで格好いい農機整備の入門書が出たら、意外なベストセラーになりそうな気がします。(出たら俺は買う!)
 

かゆいところに手が届く農家の機械整備便利帳
青木 敬典
農山漁村文化協会
1998-01
¥ 1,950
ISBN: 4540970860
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2013年 5月 3日 (金)

  論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 ―パラグラフ・ライティング入門―
 本書は、論理的な文章を書くためのテクニック・「パラグラフ・ライティング」の入門書です。パラグラフ・ライティングは欧米では一般的な技術のようですが、日本でまとまって紹介されるのは本書が初めてではないでしょうか。企画書や調査書などで、なぜ自分の思考のロジックをうまく伝えられないのか、目からうろこのポイントが多々ありました。これからの公用文を考えるうえでも、ぜひ一読をお勧めしたいと思います。

 日本語の「段落」と異なり、パラグラフには明確なルールがあります。
 
  ・一つのパラグラフには一つのトピックしか書かない。
  ・要約文から始める。

さらに、パーツ化されたパラグラフを論理的に接続して文書を構成していくと、ロジックの構成が明確になり、飛ばし読みしても理解しやすい文書ができあがるというわけです。

 パラグラフ・ライティングのルールは単純ですが、身に付けるための早道は実例をたくさん読んで、自分でも書いてみることのようです。本書では、改善前と改善後の文章を多数掲載して解説しています。自分だったらどう書き換えるかを考える、ワークブックとしても活用できるでしょう。

 読後に感じたのは、なぜ日本では、このような書く技術が中学・高校で叩き込まれていないのか、ということです。文学作品を中心とした読書感想作文に終始する国語教育は、グルーバル化に直面した日本にとって大きな問題だと感じました。
 

論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス)  
倉島 保美
講談社
2012-11-21
¥ 924
ISBN: 4062577933
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2010年12月26日 (日)

  日本は世界第5位の農業大国
 副題「大嘘だらけの食料自給率」が、本書のテーマです。
 日本の食料自給率(カロリーベース)は2009年は40%で、農水省が食料安全保障の根拠としています。ところがこの数字、計算根拠は非公開で、世界で日本以外には計算している国すらないというのですから驚きです。
 なぜ、日本だけがそんな特殊な統計を使っているのか?
 ウルグアイラウンド交渉の際、農水省が、自給率が低く見えるよう自給率の根拠を「生産額ベース」から「カロリーベース」に恣意的に切り替えてしまったというのです。さらに農業生産額では、実は、書名のとおり世界第5位。
 そのうえで著者は以下のように主張します。
  ・農水省は食料自給率で危機感をあおり、利権構造を延命している。
  ・日本農業弱者論を国民に刷り込み、農業の抜本改革を阻害している。
  ・日本農業は潜在力があり、成長産業となる可能性がある。
 取材は綿密で、積み重ねた数字には説得力があります。

 これまで日本の農業は、農業=故郷・地域という枠組みの中で考えられてきました。しかし、TPPやFTAなど、世界的な貿易自由化の流れを防ぐことは、もはや困難でしょう。本書でも述べられているように、日本農業を世界市場の中の「産業」として見直し再構築していくことは、国・地方、いずれの立場からも急務といえそうです。

 農水省を一方的な悪役としている部分には違和感を覚えますが、これからの日本農業・地方を考えるためにはぜひ読んでおきたい一冊です。
 

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
浅川 芳裕
講談社
2010-02-19
¥ 880
ISBN: 4062726386
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2010年11月23日 (火)

  リスクに背を向ける日本人
 著者の山岸俊男先生は、集団主義、武士道といった日本人観が誤りでにあることを主張し続ける社会心理学者。今回は、アメリカの社会学者、メアリー・ブリンストンとの対談の形で、日本社会の停滞の原因を探ります。

 日本人のリスク回避傾向は世界一だそうで、内向き、上昇志向の欠如などと併せて世界的にも注目されています。本書のメインのテーマは、「日本人はなぜリスクを避けるのか」ということ。その回答は、日本がアメリカなどと比べて逆にリスクが高い社会だから、という意外なものです。
 アメリカでは、国民皆保険がない、解雇基準が甘いなど、日本よりリスクが高そうに見えますが、再チャレンジや自己PRが好まれチャレンジが報われる社会のため危機感は低いといえます。
 一方、日本では新卒就職でセカンドチャンスがない、自己主張が嫌われるなど、人と違ったことをすること自体がリスクです。社会自体が「リスクを取ってチャレンジする人は報われない仕組み」になっています。日本人は、この危険な環境に適応して、リスク回避の性格を形成しているというわけです。
 本書ではこのほかにも、安心社会・信頼社会、無難を選ぶデフォルト戦略など、これまで山岸先生が主張してきた日本社会論についても述べられています。
 しかし今回特徴的なのは、日本の若者たちへの熱い視点です。まじめさや意欲を失っているように見える若者たちですが、社会心理学的視点からは、しつけや倫理などの問題ではなく、このようなリスクの高い社会への彼ら自身の防衛策に過ぎないことを指摘します。

 補筆が多く、対談本として気楽に読むにはややリズム感を欠きますが、社会学の観点から日本の今を俯瞰し若者が元気になれる社会を考えるには格好の一冊です。
 

リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)
山岸 俊男,メアリー C・ブリントン
講談社
2010-10-16
¥ 798
ISBN: 4062880733
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2010年 6月 9日 (水)

  もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
 ニュースでも取り上げられ、ご存知の方も多いと思います。
 書店でビジネス書のど真ん中に、この本が平積みになっているとさすがに目立ちます。思わず手に取ってしまいました。

 弱小高校野球部のマネージャーになった女子高生「みなみ」が、野球の本と勘違いしてドラッカーの「マネジメント」を買ってしまい、そこに書かれていることを忠実に実行することで、野球部員や監督のやる気を引き出し甲子園に導いていく、というストーリーです。話は先が読め文章も稚拙ですが、それがかえって、つまづきながらもドラッカーと取り組む女子高校生という設定の味付けとなって、一気に読んでしまいます。
 「経営」とは「組織の物語」を作る作業ですから、マネジメントのエッセンスを身体で覚えるには、このような形式は適しているのかもしれませんね。実際、「あ、ドラッカーが言いたかったことはそういうことだったのか。」と気付かせられた場面が幾度かありました。既にドラッカーを学んだ方も、一読してみられることをお勧めします。

 ただ、ドラッカーが初めて人は、この本だけで理解できたとは思わないように。ぜひ「マネジメント - 基本と原則 エッセンシャル版」 あたりで復習し、彼の理論の広さと深さを味わってみてください。
 自治体関係者が仕事に活用してみたいなら、非営利組織の成果重視マネジメント―NPO・行政・公益法人のための「自己評価手法」 もお勧めです。
 

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎 夏海
ダイヤモンド社
2009-12-04
¥ 1,680
ISBN: 4478012032
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2010年 1月10日 (日)

  市民協働を「社会的ジレンマ」として考える
 本書には直接の言及はないのですが、読みながら「市民協働」に思いをはせましたので、その側面からご紹介。
 おそらく、全ての自治体が総合計画など、何らかの形で市民協働を掲げていることでしょう。ですが、これまたほとんどの場合、協働の呼びかけは行政の側から一方的に行なわれているはずです。さまざまな理由付けにもかかわらず、根本的に、市民の側には行政と市民協働しなければならないインセンティブは存在しないのです。
 市民協働は、本書でも詳しく解説されている「社会的ジレンマ」そのものといえます。
(1)市民がみんな参加すれば社会が良くなることは分かっている。
(2)しかし、「私」が参加するコストは払いたくない。

 おそらく、(1)の理屈だけでは「私」は参加コストを受け入れないでしょう。人間が利他的(に見える)行動を起こすには、何らかの個人的なメリットまたは心理的圧力が必要なのです。では、現に成功している市民協働の事例で、人を動かしている要因は何なのでしょう。それを探し出すためにも、社会的ジレンマの研究を学ぶことは有用に思えます。
 本書は、めんどくさそうなタイトルが付いていますが、要は「人間は、周りとの関係がどうなったときに行動を起こす動物か」、という視点から社会心理学を分かりやすく解説したもので、お勧めできる入門書です。市民協働の実務家の方には、人間の本質に合った施策を見つけ出すためにも参考になると思います。
 

複雑さに挑む社会心理学―適応エージェントとしての人間 (有斐閣アルマ)
亀田 達也,村田 光二
有斐閣
1999-12
¥ 1,995
ISBN: 4641120811
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2010年 1月 6日 (水)

  地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論
 本書は、グローバル化に抗して地域が生き残る術を、地域内外との資金の流入・流出の重要性に着目し、地域経済学の観点から地域づくりの方向を提案しています。少し前の本ですが、リーマンショック後、企業の海外移転が加速している今、本書の指摘はより切迫性を増しているように思います。
 特に重要なのは、著者の造語である「地域内再投資力」という概念で、資金の域外流出を留め、地域内経済の循環に導くことが地域の持続的発展の鍵となる可能性が示されています。この観点からの自治体の産業政策点検も必要かもしれません。
 他にも、大企業の工場誘致は生産利益が本社など域外に流出してしまうため誘致投資に比して域内の経済効果は少ないという指摘や、湯布院をはじめ成功事例の経済学的観点からの分析など、フィールドワークを踏まえた示唆に富む内容です。使える資源が限られてきている現在、経済的理論の基礎固めに、まちづくりに携わる人にとって必読の一冊といえると思います。欲をいうなら、これからさらに進むであろうグローバル化が地方に与える変化の「俯瞰」が欲しかったところですが。

なお、本書中で、国の政策の行く先を「憲法9条を改悪しての『戦争のできる国』にすることではないでしょうか」という記述が、再三繰り返されます。著者の思いが溢れたのでしょうが、一般的な読者にとっては唐突で、記述の客観性に疑いを与えかねません。本書の内容が損なわれるわけではありませんが、惜しい、ということで星ひとつマイナスかな。
 

地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論 (現代自治選書)
岡田 知弘
自治体研究社
2005-08
¥ 2,730
ISBN: 4880374431
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2009年11月 8日 (日)

  市場の倫理 統治の倫理 ― 商道徳と組織道徳の混同が招く腐敗
 山岸俊男氏(直前書評参照)の研究の参照本ということで読んでみました。
 ジェイコブズ(2006年死去)は主に都市問題に取り組んだアメリカの思想家・作家です。本書は人間の道徳の2つの側面について、起源から現代の混乱の原因まで、古今東西の知見をもとにプラトンばりの対話形式で考察しています。(といっても雑談調であっさり読めます。)原著は1992年出版ですが、内容は古びていません。

  • 人間だけが「取り引き」を行なう動物である。
  • 集団を統治するための「統治の倫理」と、商取引上必要な「市場の倫理」が発達。
  • 2つの道徳は「規律遵守」vs「気安く交流せよ」など矛盾するので人々の対立を招くが、適用範囲を分ければ社会の発展に寄与。(カーストや日本の江戸時代など)
  • 2つの倫理の混同は、破綻した社会主義国家や行政と企業の癒着などに見るように、「救いがたい腐敗」を招く。
  • カースト無き後、民主主義社会においては、自覚的にいずれかの倫理を選択するしかない。

 人は道徳判断をするとき、組織維持の側か、外部の人々との関係か、いずれかの立場を選択しなければなりません。繰り返される日本の企業の不祥事などを見ても、説得力のある分析に思えます。やはり山岸氏が主張するように、今後グローバル化が進む中、官から民へ、商人道の確立が生き残りへの道なのかもしれません。
 一方で、この観点からすると民主党政権が目指す大きな政府は、まさに二つの道徳の混同にも見え、日本をどう変えるのか一抹の不安を覚えます。

 本筋とは外れますが自治体職員として興味を引かれたのは、第10章「倫理体系に沿った発明・工夫」にエピソードとして出てくるオレゴン州ユージン市の実例です。地方公社が一人の女性の発案で、それまで地域外と取引していた地元企業同士を結びつける縁結びの試みをしたところ、域内の商取引の活発化と新たな商品開発が始まったというものです。もう20年前の話で、現在どうなっているかは分かりませんが、地産地消、地域内循環などが注目を浴びている日本でも参考になりそうです。φ(。_。)メモメモ
 

市場の倫理 統治の倫理 (日経ビジネス人文庫)
ジェイン ジェイコブズ
日本経済新聞社
2003-06
¥ 900
ISBN: 4532191769
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