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  道徳の時間の「徳育」化=

  「新たな枠組み」による「徳育」教科化のゆくえ


 10月5日開催の中教審・初中分科会の教育課程部会は、学習指導要領の改訂方針の中間報告案にあたる「教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)」第6次案を審議したものの、次回会議の日程を明らかにしないまま終わりました。

 このため、10月末予定だった中間まとめの公表の時期が微妙になっています。8月末以来、週1回のペースで精力的に審議してきたものが、突然の「足踏み」です。その理由は、道徳の時間の「徳育」化の結論が出ていないことです。


 1,道徳教育と道徳の時間

 現在、道徳教育は、学習指導要領のうえで、各教科、特別活動、総合的な学習の時間、とならぶ領域のひとつです。道徳教育は、各教科、特別活動、総合など、学校の教育活動全体を通じて行うとされています。

 道徳の時間は、小中学校では週1時間あります。教育活動全体を通じて行う道徳教育を補充、深化、統合するため、計画的、発展的な指導を行う、とされています。

 学習指導要領の道徳教育の改訂審議は、道徳、特別活動を扱う専門部会(豊かな心をはぐくむ教育の在り方に関する専門部会=教育課程部会の下の専門部会)で審議されてきています。内容を充実するという改訂方針案(タイトル「道徳教育の現状と課題、改善の方向性(検討素案」)もすでに9月20日(昨年7月以来1年ぶりの開催)と10月15日の同専門部会に提案され、審議されています。

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 2,「新たな枠組み」の教科「徳育」


 「徳育」教科化をめぐり、一部に誤解があります。再生会議が「道徳を徳育という教科にする」ことを決めた事実はありません。教科にするといっても、これまでの教科ではない「新たな枠組み」の教科です。

 2007年6月の教育再生会議の第2次報告は次のようにいいます。
 
 「徳育の充実
 徳育を『新たな枠組み』により、教科化し、多様な教科書・教材を作成(多様なものを認め、選択) (注:「点数評価なし」「担任は学級担任」とする」
 【平成19年度中に学習指導要領などの改訂】」
 
 2次報告はつぎのようにもいいます。

 「提言1 全ての小供たちに高い規範意識を見につけさせる
 【徳育を教科化し、現在の『道徳の時間』よりも指導内容、教材を充実させる】」

 「国は、徳育を従来の教科とは異なる新たな教科と位置づけ、充実させる」
 「徳育は、点数での評価はしない」
 担当教員は、「小学校では学級担任」、「中学校においても、専門免許は設けず、学級担任が担当する」

 これが決めたことです。

 「徳育」という教科をもうひとつつくるのではなく、「新たな枠組み」の教科にするものです。
 教科と違い、「新たな枠組み」だと2つの理由をあげています。
 
 「点数での評価をしない」ことと、小学校でも、教科担任制で教科の免許が必要な中学校でも「専門免許は設けず、学級担任が担当する」ことです。

 教科書は、教科も「徳育」も同じです。
 2次報告は「多様な教科書」といいます。ふつうの教科が、教科書会社がつくり文科省の検定を通った数種類の教科書があり、そのなかから選んで使っているのと、同じように、教科書を使います。

 そうなると、この「徳育」教科化が、現在の「道徳の時間」とちがうのは、教科書の関係だけです。現在の「道徳の時間」は、文部科学省作成の『心のノート』や民間会社などがつくる副教材を使っています。それにたいして「徳育」は、教科書を使います。

 そして、「徳育」が教科とちがうのは、評価のしかたです。教科は、数値による評価をしています。「徳育」は、数値での評価はしない、とされます。

 現在の道徳は、数値による評価をしていません。「徳育」は数値で評価をしないとされますが、評価すること自体を否定、排除はしていません。記述などでの評価はあり得るということでしょう。

 教育再生会議が6月1日に決めたこの方針は、同19日には閣議決定の「経済財政改革の基本方針2007」(いわゆる骨太の方針2007)に盛り込まれ、政府の方針になりました。

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 3,中教審での審議

 教育再生会議や閣議での決定は、「新たな枠組み」の教科をつくるものなので、学習指導要領の改訂が必要で、それは決定でも当然視しており、具体化は中教審に委ねられたかたちになりました。

 しかし、6月末から9月中旬まで7回開かれた教育課程部会では、まったく審議されずに推移していました。

 そのなかで、9月19日付新聞各紙はいっせいに、中教審が「徳育」教科を見送る方針を固めたと報じました。会議で決めたとか、会長、部会長が語ったというのでなく、「中教審幹部が明らかにした」などと、きわめてあいまいなものでした。

9月20日 道徳の専門部会

 翌20日、道徳を扱う専門部会が1年ぶりに開かれました。その冒頭、各紙の報道について、文科省の教育課程課長が異例の発言にたち、それは委員個人への取材にもとづくもので、中教審や文科省が決めた事実はまったくない。自由に審議いただきたい、とのべました。
 
 会議には、道徳と特別活動の改訂方針案が提起されましたが、それは、1年前の部会に提起された文書を、その後の教育課程部会などでの審議をふまえて再整理したもので、当然ながら「徳育」への言及はありませんでした。この2文書の審議に2時間のうちの1時間50分をかけました。

 残り10分となって、「徳育」の審議がはじまりました。(その資料「論点案」は →こちら

 討論では、「徳育」賛成は少数でした。発言内容は、教科化がきっかけになって道徳教育が充実されるからいい、教育基本法改正の趣旨を生かして、などというものでした。

 反対・慎重意見は、道徳教育は「人間性の基礎をつくるものであり、子どもが自主的に身につけるもの。子どもの特徴に応じたリードが必要で、教科書で教えるのはなじまない」「教科化はなじまない。逆に形骸化するのではないか」「人間性を育てるものなので、評価はなじまない。子どもをいちばんよく知っている担任が道徳の時間を担当するのがいい」などというものでした。

意見が続出し、時間を10分オーバーし、最後に部会の主査が「もう少し検討させていただく」とのべ、終わりました。

9月25日 教育課程部会

 9月25日開催の教育課程部会では、冒頭また、文科省の教育課程課長が発言しました。19日付各紙が教科化を見送りと報じたが、なにか決定した事実はない、20日の道徳部会でも報告・審議されたが、学習指導要領上の位置づけについては多様な意見が出て、審議を継続することになった、とのべました。

10月15日 道徳の専門部会

 道徳の専門部会が、10月15日に開かれました。それを報じた16日付朝刊記事をネットで検索すると

  「道徳の教科化も選択肢の一つ」 中教審 10月16日 北海道新聞

 道徳教科化は「有力な選択肢」 中教審部会 10月16日 産経新聞

 <中教審>検討素案に「道徳の教科化」…専門部会了承 10月16日 毎日新聞

 中教審部会 徳育の教科化見送り 再生会議提唱に反論相次ぐ 10月16日 赤旗

 徳育教科化の見送り 特異な価値観押し付け 世論を前に行き詰まる 10月16日 赤旗

と出てきます。
見出しをみても、(本文をみても、)印象はけっこう違いがあります。各紙のこの問題へのスタンスの違いが表れています。
しかし結論からいうと、どれもがまちがっているとはいえません。

この日の議論は、「徳育」について、検討のたたきだいになる文書がありません。議論は賛否ともあり、その議論をまとめて、文書化し、それを親部会にあたる教育課程部会に出すのは、主査(専門部会の責任者にあたる)と事務局(文科省の担当者)です。

それは、次回の教育課程部会にその文書が出るまで、内容はわかりません。

各紙が共通して否定していないのは、専門部会が「徳育」化を決めなかったこと、主査が拙速に結論を出さない、と締めくくったことです。

次回の教育課程部会は、10月24日に開催されます。そこで、道徳、特活など残る課題を議論すれば、学習指導要領の改訂案の中間まとめの公表は直近になります。

                                             

10月24日 教育課程部会

道徳の時間の教科「徳育」化は、結論を出さず、「引き続き検討する」という見送り


 「審議の概要(検討素案)」の道徳の改訂方針案には、「道徳の時間の教育課程上の位置付け」(新たな枠組みの教科「徳育」化)については、道徳の専門部会で出た賛否両方の意見を列記し、「といった種々の意見が出されていることから、引き続き検討する」とあります。

 この問題での審議のなかでは、「徳育」化に賛成の意見はなく、この案が了承されたかたちで、結論を出さずに中間まとめを発表することになりました。 

 10月24日の教育課程部会の資料は →こちら (教委連サイト)


12月21日 教育課程部会

 答申素案を審議。「徳育」のかたちの結論は出さないという案。

 道徳の教育課程状の位置づけについて、「徳育」化の是非をめぐる結論を出さない叙述です。賛否両論に共通するのは道徳の充実・強化であり、そのために「教材の充実が重要」だとのべるにとどめました。既存の教材の充実であり、教科書にはふれていません。

 その部分の全文(PDFファイル2枚)は → こちら (当サイト内) 加筆修正は下線部分


                                              【ver.6 12月22日 知里保】

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