重点指導事項例−−学力の目標と達成の新しいシステム
中教審・教育課程部会で審議している学習指導要領の改訂案(「教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)」)に重点指導事項例というものが出てきます。
これまでの学習指導要領にはなかったものです。今回はじめて日本の教育課程に登場します。いったいそれはどういうものでしょうか。
1,重点指導事項例とは―「審議の概要(検討素案)」から
「審議の概要(検討素案)」は6カ所かで重点指導事項例に言及します。それを抜き出してみると。
●内容事項のなかの重点を整理して国が示す●
まず第5章「改訂の基本的な考え方」の「(3)基礎的・基本的な知識・技能の習得」の項です。
「○ 第二に、義務教育段階において、基礎的・基本的な知識・技能の一層の習得を促す一つの方策として、『重点事項指導例』の提示が考えられることである。すなわち、文部科学省が、学習指導要領が示す内容事項の中で、社会的な自立の観点から重要であったり、子どもたちがつまずきやすいといった観点から、各学校において、重点的な指導や繰り返し学習といった指導の工夫や充実に努めることが求められる事項の例を『重点事項指導例』として整理し、提示することが考えられる」
●2つの類型―実生活に必要、後の学習に必要●
続けて、つぎのように類型が考えられるといいます。
「・社会において自立的に生きる基盤として実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能」@
「・義務教育及びそれ以降の様々な専門分野の学習を深め、高度化していく上で共通の基盤として習得しておくことが望ましい知識・技能」A
といった類型が考えられ、さらに具体的な検討を深めることが必要である」
たとえばそれはどんなものなのか。2つについて、つぎのように内容を脚注で「例えば」と示し、「などが考えられる」といいます。
@の、実生活に必要なもの
「整数、小数、分数に意味が分かり四則計算ができること」、「ヒトや動物のつくりについて知ること」
Aの、後からの学習に必要なもの
「三平方の定理について理解すること」、「物質は粒子からできていることについて理解すること」
●思考力、判断力、表現力等でも例示する●
続いて「(4)思考力、判断力、表現力等の育成」の項でも、つぎのように示します。
「『重点事項指導例』には、基礎的・基本的な知識・技能の習得に関する例示とともに、知識・技能のようには具体的に示すことはできないと考えられるが、思考力、判断力、表現力等にかかわるものについても例示し、各学校において、これらの力の育成にしっかりと取り組むようにすることが必要である」
●補充学習や個に応じた指導の参考に●
ついで「(6)学習意欲の向上や学習習慣の確立」の項にも登場します。
「『重点事項指導例』なども参考に、補充的な学習といったきめ細かい個に応じた指導などを行うことにより、子どもたちがつまずきやすい内容をはじめ基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る必要がある。分かる喜びは学習意欲につながる。このため、前述のとおり、学習指導要領においても知識・技能の確実な習得を図る上で、学校や学年間等であえて反復(スパイラル)することが効果的なものについては、内容事項に追加することが適当である」
●全国学力テスト継続の根拠にする●
第9章「教師が子どもと向き合う時間の確保などの教育条件の整備等」にもあります。その「(3)効果的・効率的な指導のための諸方策」の、「全国学力・学習状況調査の活用」の項です。
「各教科の重点事項指導例を明確にし、その確実な習得のための指導を充実していく上で、子どもたちの学力・学習状況を把握し検証することは極めて重要である。客観的なデータを得ることにより、指導方法の改善に向けた手掛かりを得ることが可能となり、子どもたちの学習に還元できることとなる。このため、引き続き継続して調査を行う必要がある」
●PDCAサイクルのPlanに位置づける●
その項はつぎのようにもいいます。
「学校教育の質を向上させるために、教育行政において、
@ 学習指導要領改訂を踏まえた重点事項指導例の提示
A 教師が子どもと向き合う時間の確保などの教育条件の整備
B 教育課程編成・実施に関する現場主義の重視
C 教育成果の適切な評価
D 評価を踏まえた教育活動の改善
といった、Plan(@)−Do(A・B)−Check(C)−Action(D)のPDCAサイクルの確立が重要である」
●英語の4領域ごとの例●
第8章「各教科・科目等の内容」の外国語の項でも出てきます。
聞く、話す、読む、書く、の4つ領域をバランスよく指導し、高校や生涯にわたる「外国語学習の基礎を培う観点から」、重点事項指導例を4つ例示します。
「中学校第3学年で指導される内容について自然な速さで話される英語を聞きとることができること」
「与えられたテーマについてまとまりのあるスピーチができること」
「ある程度の長さの英文を読んで概要をとらえることができること」
「短時間でまとまりのある英文を書くことができること」
2,その構造
国が、「少なくともこれだけは」という学力を設定し、教育課程行政の要として、テストと評価のシステムのもとで、それを子どもと学校に求める、という構造 (準備中)
3,そのルーツ
義務教育の構造改革(目標を明確にし、結果を検証し、質を保証する=2005年10月中教審答申)にルーツがある (準備中)
【ver.1 10月12日 知里保】
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