トップ  [目次]  [前に進む] 

みかきもりの気ままに小倉百人一首

2025/07/13 敗者の品格

7月9日からドラマ「ちはやふる-めぐり-」が始まって、その第1話「第一首
めぐりあひて」を見ました。いろいろと懐かしく感じました。

No. 作者 コメント
57紫式部めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に
雲隠れにし夜半の月かな
[みかきもり]
瑞沢高校 月浦凪(原菜乃華)は、ポジティブで真っ直ぐな性格をしていて、かるたを取るときに
左耳にかかった髪をあげたしぐさは、綾瀬千早(広瀬すず)を感じました。
ドラマの主人公である梅園高校 藍沢めぐる(當真あみ)は、なかなか個性的(笑)ですが、
左利きでかるたを取っているのを見て、左利きの若宮詩暢がイメージされ、綾瀬千早-若宮詩暢
の関係が思い浮かびます。
名前も、月(太陽の光で輝く)と藍(海の色⇒地球)、凪とめぐる(静と動)で対比していたり、
沢は日本テレビの裏のNHK大河ドラマ「光る君へ」で登場した紫式部(まひろ)の女友達「さわ」
を感じます。

主人公の藍沢めぐるは、極端なタイパ重視で空き時間と思ったらバイト先や古文の授業時間でも
スマホで株式取引をします。高校生にも関わらず経済的自立を達成して早期退職するFIREを
目指しており、学校のクラスでカラオケに誘われても断ってその分のお金を投資に回すという
徹底ぶりです。愛読書は長期積み立てを説く「敗者の品格」で、「敗者の品格」はインデックス
投資の名著「敗者のゲーム」が元になっていると思いますが、付箋が数多く貼られていて、
この本から多くのことを学んでいることがうかがえます。
古文の非常勤講師で競技かるた部顧問の大江奏(上白石萌音)から反省文を書かされますが、
その最中にも「敗者の品格」を大江奏に薦めます。
しかし、バイト先や古文の授業時間で株式取引しているスマホ画面を見ると、実際は個別株で
タイミング投資をしています。なんとなく○○ショックで暴落したら投げ売りするカモになる
予感がします。

競技かるたはどこかインデックス投資に似ています。
-実力を向上させるために、長期間にわたる練習の積み重ねが大切です。
-1つの試合の中では1枚1枚の取りの積み重ねが大切ですが、1枚をねらい過ぎると他の札
 が取れなくなるので、広く分散して多くの札にアンテナを張ることが必要になります。
-試合の流れには追い風や逆風があって山あり谷ありで、お手つきをすると焦ってさらなる
 お手つきを繰り返したりすることもあります。平常心を保つこと、気持ちを切り替えること
 というメンタルも大切です。
-1つの試合で負けても、次につながるように振り返ることも大切です。

競技かるたの大会は多くの場合トーナメント戦ですので、優勝者以外は必ず敗者になります。
そういう意味では敗者のゲームといってもよいでしょう。「敗者の品格」の言葉を通して、
どのような分野であっても向上心を持って心技体運を磨くこと、負けても次にポジティブに
つなげていける心のあり方の大切さを感じます。
月浦凪に敗者意識を感じている藍沢めぐるですが、「逢ひ見ての」の歌で予感する、これからの
変化・成長が楽しみです。

23大江千里月見れば千々に物こそ悲しけれ
わが身ひとつの秋にはあらねど
43藤原敦忠逢ひ見ての後の心にくらぶれば
昔は物を思はざりけり

[2025/7/26]
大阪暁会練習帰りに本屋へ寄ったところ、平積みされていた次のNHKテキストが
目に入りました。
NHKテキスト 2025年8月 100分de名著 サン=テグジュペリ『人間の大地』

NHKドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』において、
玄武書房でファッション誌の編集部から辞書『大渡海』を編集する辞書編集部に
異動した主人公 岸辺みどり(池田エライザ)は、第2話(6/24)で取引先の製紙会社
営業担当の宮本慎一郎(矢本悠馬)の言葉で『星の王子さま』に興味を持ちます。
宮本は、辞書編集部主任 馬締光也(野田洋次郎)が楽しそうに仕事をしているのを
見て、『星の王子さま』で「君がそれを好きなのはそれのために時間を使ったから
だよ」のようなことが書かれていて、本当に「時間を使ったから好きになる」かを
やってみようと思っていることを岸辺に話します。
岸辺は家にあったはずと探してもらい、第6話(7/22)で母親から『星の王子さま』を
送った旨のLINEが来ます。
同じく第6話で、辞書編集部は新社長の五十嵐十三(堤真一)から辞書『大渡海』に
ついてその意義は認めつつも紙はやめてデジタル一本で行くべきと迫られます。
紙の辞書を作る説得材料を検討するために、学位論文『なぜ、デジタル時代に
「紙の辞書」なのか?~辞書の役割と可能性を考察~』を取り寄せて、それを
見ている中で、「セレンディピティ効果」の言葉が大きく映されます。

このドラマとリンクしているなあと思いながら、この100分de名著のテキストを
購入しました。このテキストの中の『人間の大地』の文章をいくつか引用します。
-------------
ひとは障害物に立ち向かうとき、自己を発見する。
-------------
ある職業の偉大さとはおそらく、何よりもまず、人々を結びつけることにある。
真の贅沢は一つしかない。それは人間関係の贅沢だ。
物質的利益のためだけに働くならば、自分の監獄を築くことになる。われわれは
孤独の内に閉じ込められ、手にしたお金は灰でしかなく、生きるに値するような
ものは何も買うことができない。
思い出の中にいつまでも味わいの変わらないものを探すとき、そして大切な時間の
決算書を作ろうとするとき、わたしがきっと見出すのは、どれほどの財産があっても
買えない時間である。メルモーズのような人物の友情、一緒に経験した試練によって
永遠に結びつけられている仲間の友情は、お金では買えない。
-------------
自分の外側にある、共通の目標で仲間と結ばれたとき、われわれは初めて呼吸する
ことができる。経験は教えてくれる。愛するとは互いを見つめあうことではなく、
ともに同じ方向を見つめることなのだと。
-------------

『人間の大地』のこれらの文章を見て、『舟を編む ~私、辞書つくります~』
『ちはやふる-めぐり-』のドラマとオーバーラップしていると感じました。

<星の王子さま(新潮文庫)>
いちばんたいせつなことは、目に見えない
きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした
時間だったんだ


■参考文献
・百人一首 全訳注       有吉 保   (講談社学術文庫)
・星の王子さま サン=テグジュペリ(著)、河野万里子(訳) (新潮文庫)
・NHKテキスト 2025年8月 100分de名著 サン=テグジュペリ『人間の大地』

■参考URL
・Wikipedia ちはやふる日本テレビ/ちはやふる-めぐり-Amazon/敗者のゲーム チャールズ・エリス(著)


トップ  [目次]  [前に進む]