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人己腹心氣(人己心腹氣)

以前、ノーベル賞物理学者ファインマンさんが宝石と呼んだ「オイラーの等式」が
競技かるたを表現しているように見えると書きました。

かるたとテクノロジー/オイラーの公式と競技かるた

オイラーの等式


1) e: 相手(Enemy)。 形が払い手をしているようにも見えます。
2) i: 自分(I)。 形が札に手を伸ばしているようにも見えます。
3) π: 読手。 形が読手の使う読み台にも見え、またπと乱数は関係が深いです。
4) 1枚1枚取っていって、最後は0枚にします。
5) eがiより大きな文字はかるた道の精神が表現されているように感じます。


たぶんその発想の原点は子どもの頃から家に飾ってあった下記の額だと思います。
特に親からこれについて何かを言われたことはないですが(一度だけ私からどう読むか尋ねた
記憶はありますが)、知らず知らず意識下に入っていたのでしょう。今はすっかり、額がちょっと
落ちてしまった時に装飾が一部損傷したり、色もだいぶ変色していますね。

人己腹心氣(人己心腹氣)



額の「人己心腹氣」は誰の言葉だろうと思って調べてみると、下記のブログに新井石禅とありました。
新井石禅(あらい せきぜん)は曹洞宗の僧です。

心の栄養 身体の食べ物/「人己腹心気」新井石禅 から引用:
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「人は大きく先にして
己(おのれ)は小さく後にして
腹はたてずに横にして
心は丸く気は長く」
(これを、人の字は大きく書き、己の字は小さく、腹の字は横に、心の字は丸く丸く、
気の字は思い切り長めに書くと出来上がり。)

時々、短冊に書かれた「人己腹心気」を見かけることがあるが、横浜市鶴見区にある
総持寺第5世管首だった新井石禅(1864-1927年)が、地元のつるかめ屋(お菓子屋)の
初代主人に商売繁盛のコツを求められて贈った言葉だそうだ。
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新井石禅「人己腹心気」は達磨大師の「氣は長く心は丸く腹は立てずに人は大きく吾は小さく」の言葉を
もとにしているように思いますが、腹を「横にして」の言葉からはヨコシマを正す意とツキを上向ける意を
感じます。
このブログで背景を知って額を見ると、「大人気が長く続いて米飯(メシ)がずっと食えますように」 という
商売繁盛の願いがそこに感じられます。なかなかうまいなあと思いました。

競技かるたは、読手が4-3-1-5方式の決まったリズムで読む中で、札と音に集中し出札を取る競技です。
雑念を捨てて音を感じるままに自然に出札のほうに手が動いて札を取るのが理想じゃないかと考えます。
競技かるたはどこか禅の無の境地に通ずるものがあるかもしれません。無は調和した状態であって空っぽ
とは異なりますが、音に同化して無意識的に自然に札を取るのが無の境地で、音に反応しない抜け札は
頭が空っぽということに対比できるように思います。

オイラーの等式の右辺の0(ゼロ)は自然対数の底e(= 2.718…)、円周率π(= 3.14…)の2つの無理数、
虚数単位i(= √-1)、自然数1とが調和して作り出した状態で、まるで無の境地を表現しているようです。
無の境地で競技かるたができたらいいなあと思いつつなかなか難しいですが、心構えの一つとして
「人己腹心氣(人己心腹氣)」は大切ではないかと思います。


◎タイトルについて
「人己腹心気」と額「人己心腹氣」の心の順序の違いについて、七五調の語呂的には心と気とで一つの
句を構成しているのがよい流れですし、絵としてはお腹の上に心があるのが自然に感じます。
表現方法はその表現方法にあった形の自然体でいいのかなあと思います。
さらによく見ると中心に、「人己腹心気」は「腹心」(どんなことでも打ち明けて相談できること。深く信頼
できること。また、そのような人) を置いて腹心の大切さを、「人己心腹氣」 は「心」を置いて腹より心が
先だという心持ちを示唆しているかのようです。
また「人己腹心気」は、【人と己】→【己の腹】→【腹心】→【腹心の気】 と連なっているように捉えられ、
一字一字のミクロと全体のマクロをよくよく考え抜かれ磨かれた言葉だと感じます。
タイトルは額からとっていますが額にはレ点が入るものと考えて、「人己腹心氣(人己心腹氣)」 と
しました。


■参考URL
Wikipedia 新井石禅
Wikipedia 曹洞宗
Wikipedia 禅
Wikipedia 阿波研造
うつくしま電子事典 新井石禅
天空仙人の神社仏閣めぐり/京都 法輪寺(達磨寺)
禅僧からのメッセージ/心の健康
禅宗お坊さんのブログ布教/無ってなんだろう?
FREEMANのHeart Cocktail/−禅− [無と空の境地に遊ぶ悟りの世界]
洋彰庵のまほろば館/阿波研造とヘリゲルと禅の発想
無心の境地研究会/弓と禅
語源由来辞典/腹心


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