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競技かるたとコンピュータ
5.読手の支援・養成

 競技者人口の増加によってますます活気づく競技会であるが、運営的には会場、読手、審判などやりくりが大変になる。ここでは多くの負担を強いられている読手の負担を和らげるため、読手の労力の削減や読手の養成をコンピュータ応用によって図ることを考えていく。

 読手は競技会において札を読む人であるが、専任読手は4段以上、A級公認読手は3段以上、B級公認読手は初段以上という競技者として有段者である条件が選定基準に入っている。つまり競技者もしくは競技者からの転向者が読手になるということであり、読手のみに徹して読手になることは認められていないということである。

 これは競技者の取りやすい読みがどのようなものか経験的に知っているというメリットはあるが、では競技者として知っているから正しく読めるかというと、これははなはだ疑わしい。また競技会で読手をするために競技者として参加できないことに対する心情的側面もある。第20回全国高校総合文化祭(1996年)において読手コンクール優秀読手となった近藤佳奈さん(筑紫女学園3年)は競技者としてではなく初めから読手として育てられた経緯を持ち、読手として非常に高い実力を持っていると聞くことからも競技経験は特になくとも読手は可能と考える。

 この読手の有段者資格について緩和措置がとられ、読手としての実力があれば誰でも読手ができる(機械的手段を含む)ことを前提として話を進めていく。そのためにまず、どのような観点から判断するかを「読み方の基本」に示す。

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読み方の基本
(1) 発声している音が明瞭であること
(2) 句の読みやイントネーションが正しいこと
(3) リズムや音の間が正確であること
(4) 会場に響きわたるだけの十分な声量があること
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5.1.読手の労力削減
 朗々と会場に響きわたる読手の吟は競技者がとりやすいように神経を集中して読まれ、体力的にも精神的にも非常に労力が必要である。競技者人口の増加により競技会のトーナメント戦の試合数も増加をたどり、複数の会場にまたがったり、回戦数も増え、読手の負担は大きくなっている。

 そうした負担を減らすため、読手の吟を肉声でなくマイクを使用してやったら、少しは体力的負担が楽になるのではないかという見方もあろう。しかし、マイクを使用した場合、息つぎの音や発声時の息が変に強調されてしまって、競技において好ましくない。またこの方法では読手の負担をあまり軽減しているとは言い難い。

 「これまでのコンピュータ応用」でも触れたが、読手の代替としてのコンピュータ応用は「読み方の基本」を高いレベルで実現できるといっていい。音質面をさらに向上させることで競技会においても実用に十分通用すると思われる。そのためには読みの第1音が弱いのを改善すること、大音量で再生してもぼやけないように高音質で読みを録音すること、会場の音響機器として大出力に余裕のある高音質のアンプやスピーカーを使用すること、パソコンの放熱ファンなどの雑音を抑える工夫をすることなどが課題となろうが、こうした機器を使用することで誰でも簡単に読手の代わりとなれることから、読手の負担を軽減する方法として効果は非常に高いと考える。

 ではそういうものが実現したとき、読手は不要になるのだろうか。それは絶対にそうはならない。まず音響機器が使用できないところで競技する場合は読手が必要である。しかし何より大切なのは読手がかるたの読みという文化の継承者である点である。1枚のCDにかるたの読みが記録されたとしてもそれは単にある音声のパターンを再生するに過ぎない。競技をしているとかるたの読みという非常に制限された中で読手の個性のようなものが伝わってくる。読手の力強い読みでがんばろうという気になったり、なんとなく次の札を予感めいたりする。観戦しているときなどはその声に聴きほれてしまうこともある。それゆえ、かるたの読みもライブがいい。読手のかるたの読みは、音の羅列だけではなく人にエネルギーを与えている。これはひとつの文化といっていいと筆者は考えている。

5.2.読手の養成支援
 読手は競技会において欠くことのできない存在であり、またかるたの読みという文化の担い手である。読手となるには「読み方の基本」を身につけることが必要である。この「読み方の基本」を身につける方法を考えていく。

 「門前の小僧習わぬ経を読む」ということわざもあるように、それほど意識して学ぼうと思わなくても繰り返し何度も聞いて自然と覚えてしまっているという経験は誰しもあろう。まず大切なのは正しい読みを繰り返し何度も聞くことである。読みを吹き込んだテープを繰り返し聞くのもよいが、歌の順番が同じだったり、下の句と上の句の間にばらつきがあったり、だんだんテープが伸びたりと、正しい読みの基準としては少々頼りない部分もある。ここでもコンピュータによる読みが使用できる。これを何度も聞くことで句の切れ目やイントネーション、リズム、音の間を耳で覚えることができる。

 次に正しい発声法を身につけて、声帯に無理をかけずに会場に響くような十分な声を出せるようにしたい。そのためには正しい姿勢をとり、腹式呼吸法で発声するのがいいだろう。発声法については多くの書籍が出版されており、詳しく参照することができるので、それをあたっていただきたい。

 正しく発声ができるようになったら歌を読む練習である。正しく歌が読めたかどうかは一度カセットテープレコーダーなどで録音した後、再生して確認する必要がある。これは発声時に自分で聞こえている声と他人に聞こえている声は声の伝達経路の違いから異なって聞こえるためで、自分の読みが他人にどのように聞こえているかを確認するために必要である。違いのわかる耳になっていれば、この自分の読みを聞いてどこを直せばよいかわかり、そうした繰り返しの練習を積むことで正しい読みができるようになるだろう。このときコンピュータに読みを録音すると、音の間を測定して数値表示させることや即座に録音した読みを再生することが可能になる。1枚ごとに音の間を測定しながら読みを行うことで音の間の感じをつかみ、必要に応じて録音した読みを再生して聞き直すことで、読みの効果的な練習ができる。

 そして、実際に練習会で読むことで競技者からいろいろな意見をうかがい、何度も繰り返し読んで場慣れすることが大切である。