『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第3節 カンマの有無を契機とする「制限的修飾」と「非制限的修飾」


〔注1-21〕

   知人から"What is 'Twice Shy'?"という返信が届くかもしれない。ただ、そのような場合でも、その知人への返信の中で"Twice Shy"とは何であるかを説明すれば済むことであり、私は知人の知識の範囲を正確に見積もっていなかったというだけのことである。

   話者が、受け手にとってJoanは「既知」であると思いなして実現した発話"Joan finds seafood indigestible."の場合と同じことである。

もし聞き手が「ジョーンというのは誰のことですか」と尋ねざるを得ない場合、話者は、自分が「最も既知である」と見なしていたことについてさえその判断が誤っていたと知ることになる。(CGEL, 18.08)(更に[1−40]参照)
   ところで、固有名詞を使用するに当っては多少の約束事がある([1−18]参照)。
固有名詞が対話者に《何かのことを思わせる》と考えられ、それゆえ対話者がその名の持ち主について何らかの知識をもつとみなされるのでなければ、固有名詞を使用するのは変則だということである。
(『言語理論小事典』【指向】の項p.395)(同書の索引によれば「対話者」とは"interlocuteur"、即ち、「聞き手・受け手」である。)
   とは言え、話者にとっての固有名詞が、受け手にとっては固有名詞であるとは感じられないこととがあっても不思議ではない。話者は相手の知識の範囲を常に正確に見積もった上で発話を実現するわけではないのである。
固有名詞と普通名詞の間にそれらを截然と区別する線を引くことは不可能であり、その相違は種類の相違というよりむしろ程度の相違である。(Jespersen, The Philosophy of Grammar, pp.70-71)

(〔注1-21〕 了)

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