『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第3節 カンマの有無を契機とする「制限的修飾」と「非制限的修飾」


〔注1−22〕

   日本の学校英文法の世界では、分詞句については、第一章第2節で述べたように、「同一の語群からなる分詞句が、カンマの有無を契機として、時に形容詞要素的(名詞修飾的)な機能を発揮し、時に副詞要素的な機能を発揮すると機械的に判断されている」ように見える。

   更に、次のような区別が語られることもある(以下の区別が合理的なものであるとは私は考えていない)。

He sat in a corner watching everything but saying nothing.
(彼は隅に座ったまま、すべてを見ていたが、一言も口出しすることはなかった)[主語の様態の記述]
He sat in a corner, watching everything but saying nothing.
(彼は、すべてを見ていながら、しかし一言も口出しすることなく、隅に座っていた)[分詞構文、watchingの前のコンマに注意]。
(安井稔編『コンサイス英文法辞典』, participle(分詞)の項)(下線は引用者)
(この二文例については第七章第1節参照)
   しかし、関係詞節の場合は事情が異なる。日本の学校英文法の世界でも、関係詞節による修飾の在り方については、「制限的」と「非制限的」の区別は機械的になされるわけではなく、関係詞の先行詞については既にその指示内容が特定されていると受け手が判断し得るか否かに応じて、先行詞に続く関係詞節の在り方を判断することもある。
コンマはあくまでも表記上の1つの目安に過ぎないものであり、制限的あるいは非制限的修飾の区別は、最終的には意味に基づいて決定されねばならない」(荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』、restrictive modification(制限的修飾)の項)
   のである。以下の文例中の関係副詞節(下線部)については、カンマが必要である(誤植あるいは話者の不注意によってカンマが落ちているのだろう)、という判断がなされるはずだ。
Nourjits's attackers then tied his body to a car and drove it through the streets to the center of town where it was set on fire. (カンマがないのは原文通り)(太字体と下線は引用者)
〈ヌルジッツに襲いかかった者たちは更に彼の死体を車に結びつけ、幾つもの通りを抜けてその死体を引きずり回した末、町の中心部に至り、そこで死体は火を放たれた。〉
(注) Nourjits : パレスチナ人群集のリンチで殺されたと伝えられているイスラエル軍兵士の一人。
(注) "the center of town"とは、イスラエル占領下にあるパレスチナの町ラマラ[Ramallah]の中心部。
(A Hope for Peace Dies With an Israeli Brother, Sharon Waxman, Washington Post Staff Writer, Washington Post.com, Saturday, October 14, 2000; Page A1)
   Fowlerは、「限定的節」と「非限定的節」に関する句読法を語る中で、あるべきでないカンマを伴った関係詞節を含む文例と、あるべきカンマが欠けている関係詞節を含む文例を引用している(The King's English, p.252)。

   あるべきでないカンマを伴った関係詞節を含む文例としては、

Those, who are urging with most ardour what are called the greatest benefits of mankind, are narrow, self-pleasing, conceited men. -- EMERSON.
   あるべきカンマが欠けている関係詞節を含む文例としては、
The Marshall Islands will pass from the control of the Jaluit Company under that of the German colonial authorities who will bear the cost of administration and will therefore collect all taxes. -- Times. (斜体は原文通り)
   Fowlerの説く表記規則の中には、今では当てはまらないもの(例えば、等位接続詞forの前にカンマを置くことはそれだけで「書き手に教育のないことのしるし」とされる(p.264))もあるが、関係詞節の前にカンマを置くべきか否かに関する判断基準は、現在も有効である。

(〔注1−22〕 了)

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