『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第5節 「脈絡内照応性」と「カンマ」の関係


〔注1−52〕

   関係詞節による修飾の二通りの在り方は様々に語られる([1−18]参照)。ここでは、非制限的関係詞節が与える印象について語られている記述を紹介しておく。

連続的関係詞節[continuative relative clauses]は、構造が類似する名詞修飾的節[attributive clauses]とは違って、実際には主節の内容に従属していない。連続的関係詞節は、先行詞[leading noun]についての、論理的観点からは[from a logical point of view]独立文に含まれていてもいいような情報をむしろ与えているのである。
(KRUISINGA & ERADES, ibid, 135-2) (下線は引用者)
制限的節[restrictive clause]を伴う文には単一の陳述が含まれており、連続節[continuative clause]を伴う文には二つの陳述が含まれている、ということもまた指摘されよう。(Zandvoort, ibid, 462)(下線は引用者)
叙述的関係詞節[descriptive relative clause]は形態の上では従属的[dependent]節である。しかし、先行詞の充当性[application]を制限することは決してない。従って、論理的には独立の[independent]節である。(CURME, Syntax, 23-II-6) (下線は引用者)
それ(従位節subordinate clause)は、ある独立の陳述[statement]を別のある陳述に結びつける簡便な手段として用いられるに過ぎないことがよくある。例えば、
I handed it to John, who (= and he) passed it on to James.(CURME, Syntax, 20-1)
"Tom has found the key that you lost yesterday."に見られるような制限的節の場合、制限節はthe keyという語句に必要な限定を与え、the keyという語句はそうした方法によってより正確になる。他方、非制限的(すなわち、緩やかな)節[non-restrictive (or loose) clause]は、その節が結び付けられている語の正確な意味を損なうことなく除外されよう。"The Prince of Wales, who happened to be there, felt sorry for the prisoners."の場合のように。(Jespersen, Essentials of English Grammar, 34-1-1)
   こうして非制限的関係詞節に感じ取られるのが主節からの相対的独立性である一方、制限的関係詞節とその先行詞は一体となってそこに「一つの複合的名辞([1−50]参照)」を出現させる。

   関係詞節の二通りの在り方の相違を考える上で、(1−8)と(1−9)を目の前にしたときに受け手に生じる心的映像を検討するのも一つの方法である。(1−8)を"They pointed to the dog, who was looking at him hopelessly."と書き換えて検討してみるが、受け手には二つの心的映像が連続的に生じることになろう。そこでは、対象との距離や対象を捉える角度の切り替えを体験できる。最初の映像には「彼らが指差すさま」と「彼らが指差す先にいる犬」が含まれる。二番目の映像には「絶望的な様子を浮かべている犬の表情」と「犬の視線が向かう先にいる彼」が含まれる。この二番目の映像には「犬の絶望的様子」の在り処であるはずの「犬の表情」が不可欠である。このことは翻って、最初の映像には「犬の微細な表情」が含まれていてはならないということである。「彼ら」については、犬を指差している様子を見て取れれば、「彼」については、犬の視線の先にその姿がありさえすれば、「彼(ら)」の身体のどの部分がどんな角度から映像に捉えられているかは重要なことではない。

   (1−9)(They pointed to a dog who was looking at him hopelessly. )の場合、受け手に生じる心的映像は一つである。「彼らは、絶望的な様子で彼を見つめている一匹の犬を指差した」という一場面全体を捉えた映像である。一つの映像に「犬を指差す彼ら」「絶望的な様子を浮かべている犬の表情」「犬の視線が向かう先にいる彼」のすべてが捉えられていることが必要である。

(〔注1−52〕 了)

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