『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第二章 個々の読解の在り方を吟味する

第5節 【読解  その5】について


〔注2−16〕

   記述がより詳細な『現代英文法辞典』では混乱はより深まっている。

(e)名詞句修飾。
分詞構文が表現する多様な意味関係は、すでに述べたように、節が等位接続された場合や、さらに非制限的関係詞節(NON-RESTRICTIVE RELATIVE CLAUSE)とも平行的であるが、分詞構文が時間的・論理的関係を明瞭には引き出すことができず,ただ主節の名詞句を叙述的に修飾するだけであると見なすのがよい場合がある。修飾する名詞句の直後に置かれるのが普通で、特に主節主語の後ろに来ることが多い。この場合、非制限的関係詞節の縮約形との区別は困難である。また、文頭にも現れる
Tom, horrified at what he had done, could at first say nothing.
(自分のしたことに恐ろしくなってトムは初め口がきけなかった)
Scheduled to open formally this coming September, it will be the main stadium of the Seoul 0lympic Games and hold the opening and closing ceremonies, and track and field, football and other events. ---The Japan Times
(競技場は公式にはこの9月にオープンするがソウルオリンピックのメイン会場になり開会式と閉会式そして陸上競技、サッカーなどが行われることになっている)。
(荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』participial construction[分詞構文]の項)(下線は引用者)
   それでは、ある分詞句が何らかの「時間的・論理的関係」を湛えているのか、それとも名詞句修飾要素なのかを、一体どのような基準に則って判定したらいいのか。同辞典の記述はその判定基準としてどの程度有効たりうるのか。同辞典が示す判定基準(「分詞構文が時間的・論理的関係を明瞭には引き出すことができず、ただ主節の名詞句を叙述的に修飾するだけであると見なすのがよい場合」)に依拠した場合、例えば、"This method, properly systematized, could become the basis of a new kind of textbook."(ibid)中の分詞句の働きをどの程度《明確に》判定し得るのか。そこに潜んでいるかもしれない「時間的・論理的関係」をどのように見極めればいいのか。例えば、この分詞句を「ただ主節の名詞句を叙述的に修飾するだけであると見なすのがよい場合」であると判定し、「名詞句修飾」(「この方法は適切に組織化されており、新しい種類の教科書の墓礎となり得るであろう」)とする判断に不手際があるとは思えない。ところが、同辞典によればこの分詞句にはある「論理的関係」が潜んでいると判定され、「この方法は適切に組織化すれば新しい種類の教科書の墓礎となり得るであろう」(ibid)と解読されることになる。同辞典が"properly systematized"に「適切に組織化すれば」という「論理的関係」を見て取ったのは果たしていかなる根拠に基いてのことなのか。私には分からない("properly systematized"をどう読むかについては第七章第6節「その三」参照)。

   また、文頭の分詞句については、『現代英文法辞典』はCGELとその見解を異にしている。CGELは"This substance, discovered almost by accident, has revolutionized medicine. [1]" (CGEL, 15.61)中の「分詞節」(下線部)について次のように述べている。

あるいはまた、それ(文例[1]中の分詞節)は主辞のない補足節と等価であるかもしれない。
Discovered almost by accident, this substance has revolutionized medicine.(ibid)(下線は引用者)
   つまり、文頭の分詞句"Discovered almost by accident"については、CGELは副詞要素と判断する(CGELによれば「主辞のない補足節」は副詞要素である)が、『現代英文法辞典』は文頭の分詞句もまた、「主節の名詞句を叙述的に修飾する」ことがあると判断する(上記の"Scheduled to open formally this coming September, ……"参照)

   ただし、混乱に見舞われているのは同辞典だけではない。大塚高信編『新英文法辞典』(Participle-clause(分詞節)の項)では、「(1)関係詞節に相当するもの」を「(a)制限的(restrictive)な場合」と「(b)連続的(continuative)な場合」に分け、後者の例を4例載せている。

I pursued my walk to an arched door, opening to the interior of the abbey.
Here he saw a pretty young woman, cleaning a stove.
Drawn up in front was a sofa, covered with red rep.
The Prince of Wales, given over by all the doctors (i.e. although given over by all the doctors), recovered.
(Participle-clause(分詞節)の項)(太字体と下線は引用者)
   「(b)連続的(continuative)な場合」の十分な説明が欲しいところだが、残念なことに見当たらない。同辞典は「(1)関係詞節に相当するもの」に加え、「(2)副詞節に相当するもの」と「(3)叙述連体詞的付加詞(PREDICATIVE ADNOMINAL ADJUNCT)に相当するもの」を列挙し、(3)の例として以下のような例を挙げている(6例あるが2例だけ引用する)。
George, fidgeting in his chair, said nothing.
The little ones came running out to tell us that the squire was come.(ibid)
(太字体と下線は引用者)
   ちなみに、同辞典の「Participial construction(分詞構文)」の項には以下のような文例も挙げられている(同辞典による分詞構文の定義は「分詞を主要素とする語群のうち、主文の『主語+述語』全体を修飾する働きをするものをいう。」)。
This book, (being) written in simple English, is suitable for beginners. (=As this book is written in simple English, it is suitable for beginners)
(下線は引用者)(この文例については[2−3]参照)
   "George, fidgeting in his chair, said nothing."中の分詞句は「(3)叙述連体詞的付加詞に相当するもの」に分類され、"This book, (being) written in simple English, is suitable for beginners." 中の分詞句は《分詞構文》に分類される。こうした分類に整合性を見出すことは私にはできない。

   Collins COBUILD on CD-ROMは、分詞句の名詞修飾的機能に「制限的」と「非制限的」の区別を明白に認めている。

この項で吟味される非定動詞節[non-finite clauses]は「関係詞節」と同じように機能する。そして、関係詞節と同様、限定的[defining]ないし非限定的機能[non-defining function]を果たす。(Collins COBUILD on CD-ROM, 8.118 kinds of non-finite clause)
   次のような具体例が示されている。
例えば、`Give it to the man who is wearing the bowler hat'と言う代わりに、`Give it to the man wearing the bowler hat'と言える。同様にして、`The bride, who was smiling happily, chatted to the guests'と言う代わりに、`The bride, smiling happily, chatted to the guests'.と言える。(ibid, 8.88 non-finite clauses)(下線は引用者)

(〔注2−16〕 了)

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