『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その七 「相[aspect]」の曖昧さ


〔注7−81〕

   荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』では、「(2)二つの動詞の表す動作に時系列を見て取れる場合」と「(3)第二の動作が、第一の動作の一部を構成する、あるいは第一の動作の結果である場合」を「継起」に一括している。

(b)継起。連続的に起こる複数の出来事を表現するときに分詞構文が用いられる。主節と分詞構文が表す出来事の間の関係は、一方が他方の出来事の一部を成すか、あるいはその結果であることが多い。時間的に前に起こった出来事を表す節の方が先に来る。(participial construction[分詞構文]の項)
   同辞典では更に、「(a)同時発生」と「(b)継起」は「付帯状況」に一括される。
(a)同時発生。分詞構文は、主節の表す意味内容を付帯的にさらに詳しく述べたり、その意味内容を補足的に追加説明し、主節の表す出来事と同時発生的な出来事を表すことによって、主節に対し言わば「背景」の役割を果たす。この機能は、次の継起とともに伝統的に「付帯状況」を表す分詞構文の名で呼ばれてきた。(ibid)
(「付帯状況」については更に[1−4]参照)
   安井稔『改訂版 英文法総覧』はPEGの上記三分類(1)〜(3)のすべてを「付帯状況」に一括している。
付帯状況を表す表現 主節によって表される状況に対して補足的状況を示したり、同時的に生ずる状況を示したりする表現を付帯状況を表す表現といい、様々な種類のものがある。
(安井稔『改訂版 英文法総覧』35.10)

分詞構文 付帯状況を表す場合
 Walking on tiptoe, I approached the little window.
 〈つま立ちしながら、その小さな窓に近づいた。〉
 At intervals he had a rest, sitting on the ground.
 〈彼はときどき休息をとった。大地に腰をおろして。〉
 We went on, filled with wonder in these new and strange facts.
 〈これらの新しい不思議な事実に対する驚きでいっぱいになりながら、我々は進んでいった。〉
 We left London in the morning, arriving at Rome airport about noon.
 〈我々はロンドンを朝発ち、ローマ飛行場に昼ごろ着いた。〉
     (ibid, 35.10.1.)

付帯状況を表す場合
 "Hello," said Bob, smiling.
 〈「こんにちは」とボッブはにこにこしながら言った.〉
 The bus starts soon, arriving (= and arrives) in Paris at ten.
 〈バスは間もなく出発し、10時にパリに着きます.〉
 The girl, closing her eyes, (=The girl closed her eyes and) listened to the music.
 〈その少女は、目をとじて、音楽に耳をかたむけた.〉
     (ibid, 18.3.1.3.)

〔類例〕
 Whistling merrily, he was driving his new car.
〈楽しそうに口笛を吹き彼は新車を走らせていた.〉
 The girls dashed out, shouting at the top of their voices.
〈少女たちは金切り声をあげながら飛び出してきた.〉
 0ne cannot get to know a country as a tourist, living in hotels, traveling in trains, seeing too much in too little time among too many other sightseers.
 〈観光客として、ただホテルに泊り、汽軍で旅行し、あまりにも多くの他の観光客にまじりながら、あまりにも短時間に、あまりにも多くのものを見るだけで、ある国を本当に知るようになるということはできない.〉
     (ibid, 18.3.1.3.)

   ところで分詞句"living in hotels, traveling ......"の暗黙の主辞は何か、即ちどんな人物についてなら、「ホテルで暮らし、汽軍で移動し……」と語り得るのか。"0ne"についてそうは語り得ぬことは明らかである。"0ne"と"as a tourist"を結び付けて始めて、即ち「観光客としての人(観光客である人一般」についてならそう語り得るであろう。このとき「人[0ne]」は不特定の一個人ではなく、特定の状況下にある人一般、特定の行動様式をとる人一般である。"0ne cannot get to know a country as a tourist"は、「 "0ne"という語の充当可能性[applicability]を、人という集合全体の内の一つの特定的[particular]部分集合へと制限する[restricts]。つまり、"0ne cannot get to know a country as a tourist"は、観光客ではない人々を除外することによって、この文で言及されている人を特別化し[specializes]限定する[defines]。」 (第一章第4節、特に同節冒頭のJespersen, The Philosophy of Grammarからの引用参照)

   『現代英文法辞典』(participial construction[分詞構文]の項)では、"The girl, closing her eyes, listened to the music."は「(a)同時発生」に分類され、"The bus starts soon, arriving (= and arrives) in Paris at ten."に類似した"The train left Tokyo at seven, arriving at Nagoya at nine.(列車は東京を7時に出て9時に名古屋に着いた)"は「(b)継起」に分類されている。

(〔注7−81〕 了)

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