アナログレコードをハイレゾで楽む~悩ましいOPAMPのDC出力電圧
2020.04.24
今回のRIAAフォノイコライザーは、DCアンプ動作が基本となるので、無音状態のカートリッジを接続しても、DC出力電圧が発生してします。好ましくないため、LT1028Aおよび、LME49710の選別で、ある程度低減できましたが、電源投入後のふらつきと、MM/MCの切替で変わってしまうなど、問題が残ります。

今回使用したLT1028Aデータシート中の応用回路例では、DCカットコンデンサー入っていませんでしたので安心していましたが、気になったのでデータシートを調べてみると、LT1028Aはバイアス電流が、±30nA(Typ.)と思ったより少ない値でした。ところがLT1028Aの入力段トランジスタのバイアス電流は、雑音特性を良くするため、なんと4.5uA必要になっているようです。さらに調べてみると内部バイアス電流補償回路で、±30nA(Typ.)に抑え込んでいました。

ここで、30nAでもMMカートリッジでは、500Ω程度の直流抵抗があるため、15uVのオフセット入力電圧を発生させてしまい、MMでは、1,000倍の直流ゲインがあるため、15mVのDC出力電圧を発生させてしまいます。MCでは、10Ω程度の直流抵抗があるため、影響は少なくなります。いずれにしても、カートリッジに直流電流が流れることになるので、好ましいわけではありません。

FET入力OPAMPに乗せ換えると、バイアス電流が減りMMカートリッジでは、出力電圧の問題はありませんが、MCカートリッジの雑音特性が犠牲になります。悩ましいことです。

そこで、外部バイアス補償回路を考えてみることにしました。MMカートリッジを接続していない状態で、入力端子のオフセット電圧を測定すると、-0.8mV~-1.1mV(47KΩに発生するバイアス電圧)でした。この値であると、20nA程度のバイアス電流の吸い込みがあることが計算で求まります。具体的な外部バイアス補償回路は、入力抵抗47kΩのGND側にわずかな補正電圧をかけ、バイアス電流を相殺させることにしました。±50nA程度までトリマで調整できるようにしたところ、±0.1mV以下に追い込むことができましたので、2nA以下にできたことになります。補正電流の生成には、雑音源となる可能性があるツェナーダイオードではなくJFETによる定電流源を用い、さらに分流させて100Ωのトリマ抵抗に流し込みました。

さて、入力側でOPAMPのバイアス電流に注目しましたが、同じように出力側でよく問題になるのは、入力オフセット電圧です。これは、電源電圧・温度・個体差によってかなり変化します。今回のイコライザーは、高いゲインのDCアンプ構成ですのでなおさらです。オフセット電圧が小さい個体を選びましたが、オフセット電圧は、ふらつきが大きく、数10mVをうろうろしていました。これまた出力にDCカットコンデンサーを入れている例がありますが、音質に影響が出る可能性がありますので。DCサーボ回路を追加して、抑え込むことにしました。DCサーボといっても、OPAMP、抵抗、コンデンサーが必要で、オーディオ信号が積分されるため、歪源になりかねませんので、
①比較的低オフセット電圧で、オーデイォ用のOPAMPを使用する
②コンデンサーは、オーデイォ用を使用する
③ノイズ混入を避けるためフィードバックポイントは2段目のOPAMPの入力にし、ゲインを0.2倍程度に設定する(補正電圧範囲は±20%で、応答時間が5倍になる)

これで、雑音特性を犠牲にせず、数mVのオフセット出力電圧に抑え込めました。これで入力・出力コンデンサを不要にできました。下記が最終回路になります。


当初は、MMCF10基板のみで実現する予定でしたが、想定より多くの追加回路が必要になり、2つの外部基板を追加しました。スペースが限られているため、ユニバーサル面実装基板を用いました。全回路を1枚の基板にできたらいいのにとも思いました。

下記は、少し混雑ぎみのケース内部です。


PCで、192KHz24bitサンプリングを行い、用意しておいた「メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲」とGrado Blue2で周波数スペクトル分析すると、Grado Blue2は、スペック通り、結構高い周波数まで伸びていました。ただ、PCによるサンプリングでは、PCが発生する雑音が回り込み、評価しにくいことがわかりました。

そこで、準備しておいた格安の中古TASCAM DV-RA1000HDを登場させることにしました。
デジタルサンプリング後、周波数分析ソフトウェア「WaveSpectra」で目視確認しました。
ピーク表示機能を使うと、周波数特性がきれいに出せます。

問題なくデジタルサンプリングできることがわかりましたので、SN比を計測してみることにしました。ターンテーブルにカートリッジを装着し、モーター駆動なしで電源を入れた無信号状態の信号を30秒間サンプリングしました。

下記は、MMカートリッジの場合です。


下記は、MCカートリッジの場合です。


外来ノイズ込みで、MMカートリッジの場合、-112dB@1KHz、MCカートリッジの場合、-98dB@1KHzでした。特定のノイズピークもなく、きれいな特性ではないでしょうか。

イコライザーの標準最大出力電圧を-6dB@1KHzに設定していますので、MMカートリッジの場合、SN比106dB@1KHz、MCカートリッジの場合、SN比92dB@1KHzとなります。当初の目標を十分クリアできているのではないかと思います。
アナログレコードをハイレゾで楽む~MM/MC フォノイコライザーの設計・製作
2020.04.23
アナログレコードを聞くためには、フォノイコライザーが必須です。性能が良いMM/MC対応RIAAイコライザーは、価格が高いので、自作することにしました。

設計目標は、
①MC/MM対応とする
 SWで、入力インピーダンス(100Ω~47KΩ)・アンプゲイン(60dB~40dB@1KHz)を切り替える
②電源ノイズを最小限にするため、電池駆動とする
 006P型リチウムイオン電池を2個搭載し、電源電圧を±7.4V(公称)とする
③電池電圧が限られているなかで、十分なダイナミックレンジを確保する
 CR型であると、初段アンプの出力電圧が確保できないためNF型にする
③入手可能なRIAAイコライザ基板を活用する
 eBayからMMCF10という1回路OPAMPを4個使用したNF型基板が見つかったので、採用する
④RIAAの偏差を入手可能なCR部品でDC~100KHzで±0.2dB偏差で回路設計する
 RIAAネットワークに若松通商から、27KΩ(F)、3.9KΩ(F)、0.027uF(G)、0.082uF(F)を採用する
⑤MCカートリッジ用として、SL-10の仕様S/N比70dB@1KHz以上を目標とする
 低ノイズOPAMPの中から等価入力ノイズ電圧0.1uVを達成できる、LT1115または、LT1028Aを採用し、MCカートリッジ出力電圧に対するS/N比72dBを確保する
⑥念のため、サブソニックフィルターを使用できる

下記は、オリジナルのMMCF10基板です。


参考までに、オリジナルのMMCF10イコライザー部回路ですが、MM専用です。。


MMCF10基板は、RIAAイコライザーとAC整流+3端子レギュレーターから成る電源部分からできていますが、今回は、リチウムイオン電池を使用するので、不要な電源部分をカットします。また、NFフィードバック回路が異なるため、箔カットとドリル穴開けを追加します。これくらいの改造で済むのはありがたいことです。

LTSpiceでシミュレーションを行い、下記のようなRIAA EQ回路としました。


さらに、次の電源回路(リチウムイオン電池の充電回路)ユニバーサル基板で組み立てました。


次に、006P型リチウムイオン電池2個、トグルスイッチ(MM/MC切替、サブソニックフィルター切替、充電+電源)、RCAジャック、ACアダプター用DCジャック、GND端子、LEDなどの部品を格納できるケースを選定します。できるだけ小型にまとめるため、タカチのMB型アルミケース【MB11-3-14】(旧型番:MB-52)高さ:30mm・幅:110mm・奥行:140mmを選定しました。

電源スイッチには、トグルスイッチ 4極 ON-OFF-ON【MS500RB】を使用しました。ONポジションでイコライザーに電源を供給し、片側のみのONポジションで、充電回路を接続する構成にしました。MM/MC切替、サブソニックフィルター切替には、トグルスイッチ 4極 ON-ON【MS500PB】を使用しました。スイッチの使用感を合わせるために、サブソニックフィルター切替は、2回路のみの使用としました。

下記は、その外観です。

アナログレコードをハイレゾで楽む~Technics SL-7、Kenwood KP-727の整備
2020.04.22
まず、Technics SL-7の補修です。
まずオーナーマニュアルとサービスマニュアルを探しダウンロードしました。動作状態は、例のごとくアームドライブのゴムベルトが硬化してスリップ状態でしたので、千石電商から1.2mm□、25φのゴムベルトを入手し、交換しました。次は、ビスに付属のゴムワッシャーの交換です。パソコンHDD用のゴム付インチビスのゴムを流用しました。さらに、内部基板類をチェックし、電解コンデンサーの液漏れ等がないことを確認し、問題があれば交換します。幸い、問題ありませんでした。

最後は、内部清掃と汚れ・擦り傷落としです。マジックリンの雑巾で内部清掃を行います。次にキャビネット・コードの汚れ・擦り傷をマジックリン・レクトラクリーン・プラスティックコンパウンドできれいにし、黒マジックでタッチペイントして終了です。

次は、Kenwood KP-727の補修です。
残念ながら、オーナーマニュアルとサービスマニュアルは、見つかりませんでした。動作状態は、同じくアームドライブのゴムベルトが硬化してスリップ状態でしたので、千石電商から0.95mm□、25φのゴムベルトを入手し、交換しました。
次に、補修が必要な部分は、ゴム足です。ゴム足がひび割れ、高さがつぶれ気味の足もありました。補修は、まず、靴底補修接着剤(シューズドクターN)をひび割れ部分に精密ドラーバーや楊枝で塗り込みます。これで全体的に強度が戻ります。高さがつぶれた足には、1mm厚のゴムをリング状に切って、同じ接着剤でカサ上げをし、4本の足の高さを調整します。さらに、内部基板類をチェックし、電解コンデンサーの液漏れ等がないことを確認し、問題があれば交換します。幸い、問題ありませんでした。

最後は、内部清掃と汚れ・擦り傷落としです。マジックリンの雑巾で内部清掃を行います。次にキャビネット・コードの汚れ・擦り傷をマジックリン・レクトラクリーン・プラスティックコンパウンドできれいにし、黒マジックでタッチペイントして終了です。

両者ともに、レコード針は、古くなっていたり、針が折れていたので、eBayで、互換針を発注しました。

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