抒情は昭和二十二年の秋から年の暮まで、中部日本新聞と北海道新聞に連載せられた小説である。その頃の小説は、敗戦後のたいはいした世相を反映して、一般に肉体を描くことが流行していた。人間の解放が肉体の解放と混同せられて、肉体が思想するというような訳のわからないことを、新しい倫理のように説くものもあるほどで、小説は好色本に堕しかねない状態であった。人間の解放は精神の解放であり、敗戦によって得たものは精神の自由であり、長い苦難の戦の間に、われわれが発見したものも魂であったことを、ややもすれば忘れがちな時であった。こうした時流に反発して、抒情は書かれたものである(あとがきより)。また『女の海』は太平洋戦争前にドイツ語に翻訳されたとあります。

抒情
全230頁
1948年5月5日 発行
定価 80円
高島屋出版部
絶版



【 掲載作品 】

抒情  女の海