不遇な環境に育った少女時代から文学を精神的の支えとして生きてきた著者が、芹沢氏の作品に出会い、無謀にも手紙と作品を送りつけます。それに対し芹沢氏は、大人に対するように真摯に応えた返事を書きました。そこから始まる二人の長い交流を、著者の思いと共に綴った書簡集、沼津への不思議探しの旅と題されたルポルタージュ、作品論の三部構成になっています。

芹沢光治良の世界 管理人はこの本によって、実に様々な芹沢光治良という作家の側面を教えて頂きました。芹沢文学をただ文学としてだけ読まれている方は別かもしれませんが、芹沢氏の人間性を愛される多くの読者の方々には、ぜひとも読んでほしい一冊となっています。

第1章は書簡集ですが、芹沢氏が原稿を持ち込む弟子に、どのように接していたかがわかります。芹沢氏の生の声が聞けるのは勿論嬉しいのですが、著者(梶川氏)自身の自伝にもなっていて、そちらも大変たのしめる内容です。こんな書き方をすると、著者には怒られるかもしれませんが。

第2章では、「不思議探しの旅」と題して、芹沢氏の生まれ故郷である沼津を訪ねたり、兄弟縁者を頼って話を伺うなどされています。十人十色と言いいますが、兄弟の方々の話は実に様々で、作品でしか芹沢氏を知らない者には驚きの連続でした。この章から、著者は明らかに母としての目で芹沢氏を見ており、とても新鮮で興味深く拝読させて頂きました。余談ですが、「芹沢氏が3歳の時、大溝に落ちて――という話は作品には出てこない」と著者は書いていますが、愛読者ならご存じの通り、『小さい運命』に子守女から聞かされる話として登場しています。

第3章は、神シリーズの作品論となっています。クリスチャンでありながら、自由な信仰観を持つ著者の作品論は、神シリーズ8冊を一挙に追うような意味でも、かなり読み応えあがあります。この世界はなにが正しいということはありませんから、ぜひご自分の神シリーズ論と比べてごらんになってはいかがでしょうか。

――最後までお読みいただき、ありがとうございました――

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