商品スポーツの事故と責任 
シリーズ1 
スカイダイビング死亡事故判決


私が昨年出版させていただいた「商品スポーツ事故の法的責任」(信山社)でも、その事故に触れ、また警察の捜査の状況を報告したタンデムスカイダイビングで女性客が死亡した事件の民事判決が6月に出され、7月に確定しました。

この事故は2004年1月、体験タンデムスカイダイビングでの落下中、パラシュートが開かずにインストラクターと女性客が死亡した事故でした。その後、女性の両親が主催者会社などに損害賠償を求めていた事件です。

判決では、被告会社に計約1億800万円の支払いを命じました。

この裁判では、原告側弁護人が、スカイダイビングという「商品スポーツ」には、業者が安全に客を社会に戻すという義務があることを主張し、被告側はこれに反する主張を行いましたが、裁判所は原告側の主張を認めました。
以下に、裁判所の判断から、「商品スポーツ」の性質を示す部分の一部を紹介します。
なお、「商品スポーツ」の概念やその責任がどのようなものかは、拙著「商品スポーツ事故の法的責任」(2008年 信山社)のFと2ページ他を参照してください。

■判決文の判決理由から(Aとは※被告となった企画会社名)
 
「タンデムスカイダイビングは,」「一般向けのレジャーとして提供していたもの」
「体験タンデムスカイダイビングの参加者を募集するに当たって」は「その安全性が確保されていることを黙示的に表示している」
「Aによる体験タンデムスカイダイビングに係る役務の提供にあたっては,少なくとも死亡等の重大事故につながるような墜落事故を発生させることなく安全のうちにタンデムスカイダイビングを終了させることが約束され,これが本件契約の内容として含まれていた」
「Aは,」「安全のうちにタンデムスカイダイビングを終了させる債務を負っていた」

これは、私がこれまで長い間主張していた「商品スポーツ」に関する考えと同じものです。私はこの判決が出るまで、この裁判が行われていることを知らず、かつここでどのような主張がされていたかを知りませんでした。そして判決が出たことを知り、その内容に大変興味を持ち、その判決を読ませていただき、判決にある「商品スポーツ」に関する考え(業者の免責を求める誓約書、免責同意書なども含めて)と評価が、自分のこれまでの主張や提唱と同じであることに驚きました。
この判決に至るまでは、弁護側代理人の方々の大変な努力があったものと拝察されます。そして今回のこの判決は、今後の同様の裁判で、「商品スポーツ」の責任について法廷で説明するのに大変な苦労を重ねていた弁護人の方々、ひいては被害者となった方々の苦痛や苦労の時間を少しでも短くできるようになるのではと思います。また、この判決を受け入れた被告側も、被害者やそのご遺族を悼む気持ちがあったからこそ控訴を行わなかったのではと思ってます。それらが、今後の業者と客の安全確保のために、こういった願いと意思が同じ方向で融合するきっかけになればと切に願います。

機会があれば、この判決について学会の場ででも専門家の皆様に紹介できればと思っています。
そして現場で働くインストラクターやガイドの方々、また「商品スポーツ」を企画販売する会社の方々も、事故の危険をきちんと予見して、その対策を抜かりなく行くことは、すなわち客の安全を確保し、現場のインストラクターやガイドが「事件」の容疑者・犯人となる可能性をなくし、会社の危機を回避できることにつながることになることの理解に結びついていければと願っております。

著名な法学者の千葉正士博士は、スポーツ実行者のための「予防法学を成熟させる」ためには、

「予防しきれなかった事故・紛争の処理を担当する法解釈学に十分の情報を提供しておくことも必要であるが、より根本的な目標は、意思ある者のすべてがスポーツを安全かつ公正に享受できることに奉仕する総合的かつ実践的な法学、具体的には事の危険の可能性および事故の現実性を観察・分析しこれらに対する実践的対策を提供する法学、言ってみれば応用法学を樹立することである。」(「スポーツ法学から応用法学へ−新世紀の法学のために−」2002年 東海法学第28号1頁)

とされております。
この判決が、博士の提唱の実現となっていくことを願います。

このスカイダイビングの事故に遭われた方々に心からお悔やみを申し上げます。そしてその尊い犠牲が、きっと後世の誰かの命を救うことに貢献できるものと思っております。

 

参考文献です(いずれも拙著)
「忘れてはいけない ダイビング セーフティ ブック」 
「商品スポーツ事故の法的責任」
「ダイビングの事故・法的責任と問題」
「ダイビング事故とリスクマネジメント」
 


平成21年7月18日

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「ダイビングの事故・法的責任と問題」
 「ダイビング事故とリスクマネジメント」