コラム:ダイビングの事故多発を心配する


海上保安庁に届けられた事故事例以外に、個人のできるレベルにすぎませんが、全国の行政機関などの記録に残されたダイビング事故記録を調べて統合する作業を始めて10年がたちました。
そして海上保安庁の記録に依る平成元年から平成10年までと、11年からそれに筆者の独自の調査結果を加味して統計を出し、それが10年経過した平成20年の事故遭遇者数は、平成に入ってからの20年間で3番目の多さでした。
この事実は、本当は業界挙げて「大変だ!」と大騒ぎし、どうしたら商品スポーツとしてダイビングビジネスが発展すべきかなどの、喧々諤々の議論になるべき重大な事態だと思うのですが、いかがでしょうか。

自然相手のスポーツなら、その実行者は死亡事故も受け入れるべきという意見もありますが、安全で楽しくを謳って販売されている商品スポーツでの「死」や「重度の傷害」に至る、いわゆる手抜きのように感じることや、役務遂行能力の欠陥による重大事故や死は、どうあっても受け入れ難いことではないでしょうか。自然相手のスポーツでの「死」や「重度の傷害」の受け入れの覚悟は、「冒険家」「挑戦者」「開拓者」の方々の矜持のみとすべきです。
なお、事故の原因には、業者側の品質の欠陥(手抜きや技量の未熟など)もありますが、ダイバー自身の無謀、危険情報への無関心、良質な業者や一般ダイバーからの安全のための助言の無視や軽視もあります。また良質なプロからしっかりとした講習を受け、それもちゃんとマスターしていながら、その後、慎重さに欠ける行動で自分が事故に遭う、あるいはバディとしての役割を十分に果たさないことでの相手の事故を防いだり重大化にならないようにできなかったということもあります。さらに日常からの健康管理の問題や自分の健康状態の把握がうまくできていなかったことも事故の原因となり得ます。
ダイビングは大変楽しいけれど、その中に相当の危険も含んでいることは、ダイバーは忘れてはならないし、インストラクターの方々は、それを忘れないダイバーを育成し、ガイド時には危険への対処を思い出させる情報提供や危険への警鐘を行ってください。
事故は起きない、自分には関係ない、事故なんて怖くない、という気持ちの再検討を願うものです。

ダイビングだけでなく、全体としての「商品スポーツ」の成熟にともなう品質向上は、我々の文化を高めるものとして、公的に、強く求めていくべきものではないかと思います。
そして何より必要なことは、今現在まで、独自の努力で品質向上の実現を目指している、社会的には目立たないけれど確実に存在する、良質の商品スポーツのプロの方々に社会や国民が積極的に目を向け、その努力と成果を称賛し、彼らが誇りを持てるような社会を実現することではないでしょうか。
商品スポーツとしてのダイビングのビジネスで、安全より利益優先との印象を受ける側が常に脚光を浴び続けてより一層の利益を手にする状況が続くようであれば、それはまじめな良質なプロの方々の努力の心をくじいてしまいます。それは結局、消費者である、商品スポーツを楽しむ人々の苦難として返ってくるのではないのかと思います。

偉そうなことを言ってすみません。商品スポーツで不断の努力を続けていらっしゃる方々の中で不快のお気持ちを持たれた方々に、深くお詫びいたします。


平成21年7月21日
      7月25日一部編集

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