PADIとNAUIにおける免責同意書・確認書の扱いと、ダイビング事業組合が勧める免責同意書の内容

  1. 業界最大手PADI(パディ)における免責同意書の扱い

  2. PADIに次ぐ大手NAUI(ナウイ)における確認書の扱い

  3. ダイビング事業組合が勧める免責同意書の内容

  4. 無制限な免責を容認しない、各国消費者契約に関する法制度


。業界最大手PADIにおける免責同意書の扱い
(この内容はスポーツダイビング業界における「免責同意書」の実態の一部と重複します)

 なお、ここでPADIについて数多く言及していますが、これはPADIの講習のカリキュラムが優秀であることを否定するものではありません。この素晴らしいものが、実際の現場で生かされていないと、私自身の個人的体験という事実を出発点として感じているから言及が多くなっています。また、PADI関係のショップでも、その、なんとかスターのランクに拘わりなく、責任感が強く、かつ優秀なスタッフを揃えているところが多くあることを否定するものではありません。それらの人々の名誉のためにここではっきりとお断りしておきます。

「The Law and the Daiving Professional」の研究
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 PADIという世界最大の商業ダイビング組織(会社)が自社の配下のダイビングショッブやインストラクター向けに出版した、一般の書籍ルートに流通していない本についての記述からの研究です。


 この本は、PADIが組織内部の構成団体・員に対して、事故が発生した時、どのような場合ならその責任を回避でき、あるいはダメなのか、そして、責任の回避が困難な時はどうすればその責任の割合を低下させ得るか、について詳しく書いてあるものです。原文はアメリカのものですが、日本版の翻訳は、日本の弁護士の方がしています。
 まず、ダイビング中の義務と法的関係の項で、インストラクターには「注意義務」があるとしています、そしてその注意義務を守らなかった場合には「重大な法的結果が引き起こされるかも知れない」と注意を喚起しています。そして、「免責証書(同意書のこと)はインストラクターの法的地位を良くするよう意図されているが、インストラクターは、免責証書が自己の注意義務を縮小したり、責任を回避したりするものと思ってはならない」としています。これはまさしく「内向き」の注意ですが、この本には「外向き」用に次の文が入っています、「インストラクターは免責の法的影響及び緒果を決して説明しようとしてはならない
 相手に「知らせない」ことによって何を得ようとしているかは、免責同意書の文面を素直に読めばそこにはっきりと表現されています。
 では、PADI型ではなぜそこまで「責任回避」にこだわるか、というとそれはPADIのインストラクターの資格が「金で買える」と言っている人さえいる(PADIのインストラクター自身が匿名を条件に指摘している)ことに起因していると思います。つまり、

  1. インストラクター試験を受けるほとんど全てが、人名を預かるインストラクターに簡単になれてしまう事実。
  2. ダイビング講習生やファンダイバーが事故にあった際に、例えば海辺から浜にタンクや重りなどの器材を身につけたダイバーを引きずり上げるだけの体力が、どう見てもないような小柄な女性(女性であることを言っているのではない)でも簡単にとれてしまう事実。

 ダイビングで長年商売をして、数多くの事故を見聞きしている彼らがこの危険性を知らないはずはないので、この高すぎる、自ら生み出すリスクの責任の転嫁を目的として、リスクマネジメントを一方的な免責を目的とした同意書にのみ依存しているのだと思います。
 さて、私が行った、ダイビング指導団体へのアンケートによると、各団体は「免責同意書」をダイバーに強制的に記入させる時、本音のところでは、その内容が法的に効果のあるものではないことを承知しています。それは、ダイビングが巷で彼らが宣伝しているような完全に安全なものではなく、実際には死亡事故が多発しているのを知っている事から来ていることによりますが、しかし、そこから生じる責任問題にいちいち誠実に対応していたら組織の保存と利益の確保に重大な支障をきたすという認識が染み付いているため、「一方的な免責のみを承認する書類としての免責同意書」の強制的な記入、という「伝統的」な責任回避の手法にすがっているものと思われます。
 現在はリスクマネジメントとしての手法は保険をはじめとして他にもあると思いますが、業界側は「自己責任に於いてダイビングを行う」という「常識」を拡大解釈することによって「自己の責任」をも相手側に押しつけるという単一的な手法から抜け出せないでいるのです。そのために事故の正確な情報を公開できないでいるとも思われます。
 これは実際にダイビング業界で働いているプロのインストラクター達の中の良心的な人々も大きく問題視している事項で、彼らに言わせると、「一部の、昔からダイビングをやっている少数の人たちがこの業界を支配している構造があるためにその古い体質から抜け出せないのだ」だそうです。なお、この、プロのダイバー達からの見解は、太田出版から出版した私の「誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュァル」という本に対する感想の手紙や、バソコン通信のダイビングフォーラムを通じて知り合った方々との通信・面談による取材の内容とも合致します。出版された本の内容は、論文ではなく、一般の実用書として、私の実際の体験や海上保安庁によるダイビング事故の統計的数宇などが紹介されていますので、ご興昧のある方はそちらをご参照下さい。


2.PADIに次ぐ大手NAUI(ナウイ)における確認書の扱い(資料提供NAUI本部)

日本のダイビング業界で2〜3番手の規模といわれているNAUI(ナウイ)という指導団体の、ダイバーに免責を求める書類について紹介します。
ここは以前は、本部と登録インストラクター・ショップのオーナーと組合法式を取っていたのですが、最近は、本部は会社組織ですが、実際の配下フランチャイズの運営・指導については別組織が行っています。基本的に、NAUI本部とフランチャイズを運営する組織に所属する登録インストラクター・ショップのオーナーとは直接関係を持たなくなりました。
ここではPADIで「免責同意書」のことを「確認書」と言っています。

NAUIダイビングコース了解事項
受講生誓約文
私はこのダイビングコースを受構するにあたって、必要な事項をすべて確認し、十分な説明を受けかつ了解しました。つまりダイビングを行なうのに適した健康状態であり、このスポーツの持つ潜在的な危険性についてもよく理解した上で参加意思を表明するものです。また出席と金銭支払いの義務、キャンセルの場合の規定、必要な個人用具の購入、さらに自分の努力により、一定の水準に達しなければ認定されないことについても納得しています。受講期間及び認定手続きには一定の期限があり、それを守らなけれぱならないことも了解しました。海洋実習を受けなければならない理由についても説明を受け、参加することを誓約します。

上記の内容は、講習を申し込む際の了解事項ですが、これはしごくもっともなものです。以下のものは講習を申し込んできた人に対して要求する「全面的免責」を求める内容の「確認書」からの一部引用紹介です。重要な部分を一部引用します。

確認書(コース用)

署名、記人前に熟読してください。
私_____(氏名)は、19______(開始日時)から始まる
_________(都、道、府、県、市)での
_________1(会社、SHOP、インストラクター)により開催される
_________2(スキン、スクーパダイビングの講習会名)やこれに伴う活動に下記の点を良く検討熟膚、の上同意し参加いたします。

◎中略

講習中は、自分自身で危険を避ける努力をし、仮に事故が発生して傷害等を負っても自分の責任であることを了解します。(フォントの強調はホームぺージ作者)

また、この確認書に署名することで、私は、NAUIや上記1の関係者に対して、私が被るかもしれない傷害や損害、最悪の事態に関して私と私と関係のあるいかなる者も訴訟の提起及びあらゆる要求を放棄することに同意いたします。(フォントの色付けはホームぺージ作者)

◎中略

受講者氏名

◎以下略

なお、ツアー参加者に対しても、赤で強調した部分の文言は同じです。

でも、不思議ですね、初めてダイビングの講習を受ける人に対して、「講習中は、自分自身で危険を避ける努力をし、仮に事故が発生して傷害等を負っても自分の責任であることを了解します。」とは。これができないから、お金を払って講習を受けるのに。これでは教えることの責任の放棄ではないでしょうか?
次に、赤で強調した部分は、現在法的には「公序良俗に反する」として無効という見解がはっきりしている、署名者に自らの基本的人権の放棄を求めているものと同じことですね。


ダイビング事業組合が勧める免責同意書の内容

ダイビング事業組合では、その最大の影響力を誇る会員がPADIであり、PADIという一企業の意志が、業界の意志として受け取れると言ってもそう外れていないと思います。
その組合では、ダイビングの講習やツアーのダイビングを行う前に、「免責同意書」と書かせるように強く勧めていますが、使用を勧めている「免責同意書」のモデルはPADIの「免責同意書」と全く同じ物です。
それでは、以下に、スクーバダイビング事業組合が作成した、「レジャーダイビングビジネス・ガイドライン」の中の「免責同意書」、ここではサンプルとして、「ファンダイビング参加申込書」の中の「誓約事項」(つまりは免責を求める文言)について問題の部分を引用してみます。

◎前略

このファンダイビング参加に関連して生じ得る死亡、傷害、損害等の全てのリスクを認識した上で、参加を希望するものであり、同時に、それらのリスクを私自身の責任として、私自身が引き受けるものであることをここに確認し、私の家族・相続人を含むすべての関係者に対する全ての損失・損害の責任からガイドを担当するスタッフと  (ショップ名)   及びファンダイビング開催に協力する全ての個人、法人を免責することに同意するものであります。(フォントの強調と赤色強調はホームぺージ作者)

◎後略

これは講習を受ける人に対しても基本的に同じ内容になっています。そして、「死亡、傷害、損害等の全てのリスクを認識」とありますが、多くのショップではここのところを認識させることに力を注いでいません。そんなことをしたら、講習の学科の部分で怖がって客が逃げてしまうからです。次に赤で強調したところは、一切の前提条件を排除して、一方的にダイバーの基本的人権の重要な構成要素である請求権を事前に放棄させることを意図しており、はなはだ「公序良俗に反する」文言になっているものであります。

もし本当にここまでしないと、ダイビングビジネスが成り立たない、というのであれば、このビジネスの存在そのものに対する再検討が提議されるべきと思います。

ちなみに、国際スキー連盟が、スキーの事故を前提として用意した「免責同意書」には、この基本的人権の重要な構成要素である請求権を事前に放棄させる文言はすでに削除されています。つまり、一方的に片方に有利な内容ではなくなっています。私はこういうアタリマエの常識をダイビング業界の指導的立場にいる方々に持っていただきたいと思います。


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