next  back  modoru  home


――――そのころ――――

 「……今回の事件で使われた方法。これは推測の域を出ないのではありますが、恐らく、公安側の措置を逆手に取った可能性が高いです」

 ここは神奈川県警本部の会議室。朝から本部長を前に説明会が行われていた。100人以上収容可能な大会議室にたったの6人。その6人が6人とも愛煙家で、6人が集まった辺りはたき火のようにもくもくと煙が立ち上がっている。
 6人には広すぎるこの会議室に、もし一番後ろに人が立ったなら、ホワイトボードに書かれた議題の文字が霞んで見えたことだろう。
 その議題とは、一見しただけでは何の事か分からない、
 「Qの件」
 というシンプルなものだった。
 本来は「一部報道機関が報じた最近のロボキュー連続誘拐と思われる連続失踪事件の件」としたかったのを縮めて付けられたものだった。「Q」とはロボキューのQ。ロボキューの正式名「ROBO−Q」から一文字だけ取られた。
 この事件、最初は単なる失踪事件と予想されていたのが続発し、にわかに連続犯罪の様相を呈してきていた。しかも新聞の記事にまでされては何らかの対策を講じなければならないという本部長の判断があった。
 本部長自らが号令をかけ、この会議が開かれていた。

 本部長をはじめとして長の付く面々がしかめっ面でにらみつける中、壇上では佐々木捜査課長が矢面に立っていた。本部長の「ロボキューを少しも騒がせずに誘拐することは可能なのか」という質問に答えているところだった。


 佐々木の説明は続いた。
 「――まず略取、すなわち暴力的な誘拐だと仮定して、仮想犯人がロボキューの拉致行為に及んだ場合、ロボキューの示す反応や対応は、人間とまったく同じと言っていいでしょう。抵抗もするし悲鳴だって上げます。したがって、このような方法では、人目を引く結果になることは火を見るより明らかです。
 「それでは詐欺的な、言葉巧みに誘い出す様な誘拐はどうかを考えますと、ロボキューの知能は、そのユーモラスな外見から受ける印象以上に高く、そういった幼児誘拐的方法での誘い出しは不可能とさえ言えます。
 「さらに、ロボキューの体格は普通の大人といっしょ。犯行に気づく時間も与えず物を奪うようにひったくる、などということも物理的に無理でしょう。このように、ロボキューを『さらう』というのは、人間を誘拐する事以上にずっと難しい作業と言えます」
 「結局、ロボキューを騒がせずに誘拐するのは難しいと言うんだね」
 「はい、そうです。ただし、普通の方法では……です」
 「普通では……か。それで『公安の逆手を取った方法』がある、という訳か?」
 「そうなんです。実は、ロボキューには……一般には公表されていないのですが……特殊な装置が仕込まれてあることが判明いたしました。ロボキュー販売を認可する条件として、その装備が義務づけられている事実が判明しました」
 「それは初耳だ。その装備とは一体なんだね?」
 「その装備とは……」佐々木は、列席者の顔をぐるりと見回した。「……ところでもし、電気で動くおもちゃをスイッチを切って止めるように、ロボキューにもそんなスイッチがあったとしたら、誘拐を企てる者にとってどれだけ便利なことでしょう。ロボキューを少しも騒がせない……それにはスイッチを切って止めるだけ。まさに打ってつけです。……そう、義務づけられた装備とは、そんなスイッチのような装置だったのです」
 「ほう」という本部長の感嘆とともに会議室がざわめいた。
 「この事実を知っているのは警察庁の附属機関、科学警察研究所だけであり、我が県警がこれを知ることができたのは、ロボキューのメーカー、即ちミシビツから聞き出した情報が元になっています。事実関係確認のため、警察庁次長への宛発文書で問い合わせたところ、昨日正式な回答が得られました。まったく、遠回りさせられました。警察の組織とは厄介なものです」
 「おいおい、君もその組織の人間なのだから、言葉は慎みたまえ」
 「はっ、本部長、申しわけありません」
 佐々木はポケットからハンカチを出して額の汗を拭った。
 「まあいい、続けて……」
 「はい。それで、科学警察研究所からの回答なのですが、その装置とは、ええーっと……ある特定の周波数、ある特定のコードを持った電波を発信させると、それを受信したロボキューは、その個体のクロックパルスを停止させる装置……となっています」
 「むむ……クロックパルス?」本部長は頭を抱えた。
 「はい、ご説明します。クロックパルスというのは、ロボットの活動の元になるリズム、とでも言いましょうか……オーケストラで言う指揮者の役割を果たしています。指揮者がいなければ演奏が始まらないように、このクロックパルスがなければロボキューは歩くことも出来ません。このクロックパルスを止めるという事は、すなわちロボキューの動きを全て停止させることになるのです。ただしそのパルスは、指揮者が振る棒のような、目に見えるような早さではなく、とてつもなく早い『メガヘルツ』の単位で表されます。
 「そのパルスを外部から電波信号で止めてしまう、それでロボキューのスイッチが切れて止まってしまう……なぜそんな仕掛けが組み込まれたか……それは、ロボキューが何らかの理由で暴走した場合の、市民に及ぼす危険性が考慮されたからなのだそうです。今では家族のように扱われるロボキューも、元々は人間の作った機械。国連や通産省の厳しい安全検査にパスしていたとしても、決して完璧ではないはず。何かの拍子に突然人間に襲いかかる状況が絶対起こらないとは言い切れない。……そんな心配から、当時、まだロボキューの実績が無かったこともあり、いざという時にロボットの動きを外部から止めるこの方法が、公安からメーカーへ要請されたのが理由です。ご存じの通りロボキューは、自分の判断と自分の意志で行動します。リモートコントロールされているわけではありません。しかしこの装置さえ仕組んでおけば、例えロボキューが集団で暴動を起こしたって電波信号一つで制圧する事が出来ます」
 「警察庁だけの秘密にするわけだ。それが漏れたら、世界中が大騒ぎになるぞ」
 「いいえ、この装置は今のところ日本国内向けのロボキューだけに限定され、海外へ輸出されるものに関しては対象外となっているようです。海外の機関からはこのような要請はされなかったというのがメーカーサイトの話です。
 「ロボキュー誘拐の実行犯はこのコード信号を入手しているのではないかと思われるフシがあります。なぜそう言えるかは、今回の事件の特徴として、目撃情報がまったく得られない事が上げられます。ロボキューを静かに、穏やかに、音も立てずに誘拐する……それを可能にするため、この日本向けロボキューの機能を悪用された可能性が高いのです」
 「しかし新聞が書いたとおり、単なる電池切れという可能性だって、まだ否定できないだろう?」
 「それなんですが……」口ごもる佐々木。「ついに目撃者が現れたのです」
 「なに!」
 「それとなく現場近辺の聞き込みを行ってはみたんですが、有力な目撃情報が集まらず、捜査は困難を極めておりました。しかしたった1件、現場でロボキューが連れ去れれる所を目撃したという証言が得られたのです」
 「ほほう」
 「ところがこの証言には、困った問題がありまして……」
 「困った?」
 「はい、証言者は、その証言をそのまますんなり聞くわけに行かない人物、と言うか、その……」
 「ロボキューか!」
 「そうなんです。唯一の証言がたまたま現場に居合わせた別のロボキューのものなのです……」佐々木は困惑気味に顔を曇らせた。
 「確かにそれは困った問題だ。ロボキューでは法律上の……証拠能力がないぞ」
 「はい、おっしゃるとおりです。しかもロボキューの証言を裏付けとして捜査を進めること自体が、国家公安委員会からの通達で禁止されています。それで、この会議を極秘扱いにしてもらったのもそれが理由なのですが……しかし他に有力な情報もないことからとりあえず、そのロボキューから目撃情報を取ってあります」
 「うむ、聞かせてくれ」
 「はい」と言った後、佐々木は「ごほん」と大きく咳払いをした。

 「証言者は、家人の夕食の材料を買い出しに来ていたロボキュー……ロボットに『証言者』という表現はおかしいかも知れませんが、この際ご了承下さい。
 「証言者はこの誘拐されたロボキューと顔見知りであり、見かけたついでにちょっと挨拶しようとしてこの事件を目の当たりにしたと言っております。まったく良くできたもので、近所のロボキュー同士では井戸端会議のようにコミニュケーションを行います。
 「その証言によれば、犯行は白昼堂々実行された上に、犯行に要した時間はほんの数秒であった、との事です。犯行に使われた車に関しては『白いワゴン車』と言うだけで、プレートのナンバー等は得られておりません。
 「犯行の状況ですが、そのワゴン車は標的となるロボキューに後ろからゆっくりと近づき、ぴったりと並んだ時点で、スライド式のサイドドアーを開け、車内から手を伸ばしてロボキューを抱き上げた、といいます。その際、車内からピストル状の物がロボキューに対して向けられていたという物騒な状況も目撃されております。
 「さて、ロボキューを銃で脅して黙らせることがはたして可能かは一概に言えませんが、ミシビツにこういった場合のロボキューの対応を問い合わせたところ、逆に『あなたならどうしますかと』問い返されました。即ち、ロボキューの対応も人間的であり、どちらとも言えないとの回答です。
 「犯行時に銃声などは起こらず、また『まるでマネキンのようだった』という証言から、これは犯人が用意した例の電波発信器ではないかと推定しております。
 「その後のワゴン車は、急発進するわけでもなく、ゆっくりとその場を去ったといいます。犯行の前後を通し、荒々しい場面が一切無く、まさに『何事もなかったかのように』という表現が当てはまるような出来事だったといいます。
 「証言としては以上ですが、さて傍証として、これは海外での事例になりますが、同じようなロボキューの盗難の事例や変質者的なレイプ事件が無いことはなく、しかしどの場合も未遂に終わっています。これは全ての場合において、ロボキューが大声を出すなど激しく抵抗したためとされ……これを元に日本向けロボキューだけのこの装置が悪用されたと判断するのは尚早かもしれませんが……逆に海外ではこういった失踪の事例が報告されていないというミシビツから得た情報もまた事実です。
 「ロボキューの証言は状況的にも一応信用するに足ると判断出来るのですが、この唯一の証言のみを頼りに公開捜査や記者会見も出来ず、とりあえず現在、交通課の協力を得て白いワゴン車を非公開で捜査中です。」

 本部長は、根元まで灰になったタバコに気づいて、そっと灰皿へ持っていった。
 「このロボキューの情報が本当なら、ほとんどと言っていいほど目撃情報がないこの事件にも納得がいくな。あまりに何事もなく連れ去られる犯行状況に、もしその状況を見たとしても誰も誘拐だとは気づかなかった可能性がある。だから、唯一の情報が、その不自然さに気づくことのできたロボキューからのものだけだった、とは言えるかな」
 「はい。おっしゃる通りです」と佐々木が答えた。
 「……しかし秘密のコードを使ったと仮定すると内部犯行も頭に入れる必要があるな。その点はどうしている?」
 「それはほとんど調査が済んでおります。ただし有力な人物は浮かび上がっておりません。内部となると、この事実を知っているのはごく限られた関係者のみとなり特定はたやすく……公安の担当官とミシビツの開発者のみです。しかも、ミシビツ側にはその秘密コードを知らせていませんし、公安側はそのメカニズムそのものを知りません。両方を知る人物ならもっと容易に絞り込むことが出来ました。しかし、そのいずれにも該当者無しと結論が出ています。
 「現在、犯人を技術的なマニアにまで広げて調査中なのですが、その割り出し作業はかなり難しくなっています。電子回路にそれなりの知識があればこの仕組みの解析は可能です。どこまで捜査の範囲を広げるかの線引きも難しく……上は大学教授から下は中学生の電子工作マニアまで……しかも何しろ大ヒット商品です。この秘密装置を知るためにロボキューが分解されたことを想定したとして、販売ルートからの追求はその数から言って不可能と判断します……」
 「犯人に結びつく決め手がないな」
 「とにかく、犯人追及の足がかりとして、今回の一連の概況と、犯人の足取りを洗い直しました。かき集めた捜査資料をまとめたものをOHP(オーバーヘッドプロジェクター)で用意してあります」

 佐々木がデスクのスイッチを操作すると電動式のカーテンが窓を覆い、室内の照明が落ちて暗くなった。OHPに灯が入り、漂うタバコの煙が光線の照射する形を明確にする。ホワイトボードに投影された地図には赤いバツ印が所々に記入されていた。

 「今回の連続誘拐と思われる事件を発生順に番号を振ってあります」
 その説明に本部長が身を乗り出して画面に食い入った。
 「発生順番を追って矢印で線を引いてみましたが……」佐々木は「パラッ」と音を立て、OHPシートをもう一枚重ねた。「ご覧になって一目瞭然、発生順は全くのランダムとしか思えません」
 画面上にプロットされた線は、幼児が初めて描いた絵のようなギザギザを描いていた。
 「――が、発生場所が川崎から鎌倉北部にかけてと、全てが神奈川県下で発生しており、このデータは犯人のアジトの場所特定に何らかの役に立つのではないかと期待しています。
 「一連の最初と思われる事件……この丸で囲った1番の場所です……は、先々月の5日に起こっており、大船のサラリーマン宅のロボキューが行方不明となっています。これはミシビツのサービスセンターから得た情報で、警察への通報等の処置は行われておりませんでした。実は最近の頻発する状況で掘り起こされ、今回の連続誘拐に該当するものと判断しました。その2週間後にも町田で同様の事件があったものの、推移はほぼいっしょで、被害者は、これもメーカー側への問い合わせに留まっています。
 「その後、ほぼ2週間に1回の割合でロボキューが行方不明になる事件が続き、先月末の時点で5件が数えられています。ただしそのうち警察に直接通報されたものは一つもありません。事件が一般に広まるまでは、この被害者達はロボキューの迷子か、何らかの機械的トラブルが起こったものと思っていたようです。現実に、人間的に作られたロボキューは、迷子になって家族を心配させる事例もあり、そういった事の一つと片づけられたのが通報のなかった理由のようです。
 「ところが今月に入ってからは、1週間に1回ないしは2回と、その発生頻度が急激に上がっており、これに関しては全件が警察へ通報されています。ただしこれは、マスコミの報道が流れ始めたことにより、被害者の意識が変わったためと思われる事後通報です。
 「以上が現在までの捜査概要ですが……これは蛇足になるかも知れませんが、この事件に関しての特徴は、被害者のダメージが想像以上に大きい、ということが言えます。ロボキューはご存じの通り家事用のロボットですが、その高機能な性能故に人間的な受け答えが可能です。各家庭においては、まるで家族の一員のように扱われ、それは従来のペットのような接し方とはまた異質の、家族の一員として新たな位置づけを確保しているようです。
 「最も悲惨だったのは野毛山に住むE氏の家庭のケースで、親子二人の父子家庭、6才になる坊やが『お母さんを返して』と涙ながらに捜査員にすがりつく場面もありました。それほどまで愛されるのかと、改めてロボキューのヒットの理由をかいま見た気がします。もっとも、ミシビツとのメンテナンス契約を結んでいた家庭では、業者が控えていたバックアップデータのおかげで全く同等の代替ロボキューが貸し出される対応が行われ、先の6才の坊やもこれで救われたことを申し添えておきます。この事件は立ち直りも早いのも特徴のようです。
 「……その他、被害者の中にはこの事件が単なる窃盗に留まることに腹を立て、誘拐罪に値するんじゃないかと言って、『総理大臣に陳情する』とまで憤慨する者もおりました。実は私事ながら、我が家庭においても一体のロボキューを所有し、これがもし同様の事件に巻き込まれたことを想定すると、この意見には大いに賛成であると、同感の念を禁じ得ません……」

 しばらく押し黙ったようになる会議室に、佐々木は一礼をし、用意した資料ファイルをパタンと閉じた。
 「ううむ……よく分かった。他に有力な説明が見つかるまでは、そのロボキューの証言を元に捜査を進めることを許可しよう」
 「はい、ありがとうございます」
 「ただし内外共に極秘のままだ。Qの件……即ちロボキュー誘拐は、今月に入ってこれで7件目だ。犯行の正確な手口は不明、唯一の目撃は白いワゴン車が走り去ったということだけ。糸口のつかめん事件だが、被害者の心情を察し、鋭意捜査を進めてくれたまえ」
 「はい、分かりました」

 佐々木が壇上を降りようとしたとき、本部長はアゴに手を当て、何か合点がいかない様子なのに気が付いた。
 「あと……何か?」
 「いやな、ふと思ったんだが、今回のこの事件、あの4年前のロボット誘拐事件との関連はないのかな? ロボットを連れ去る、と言う点で一致しているのだが?」
 「はっきり言って、可能性があるのか無いのか、断言出来るほど証拠が集まっていません。しかしその線での追求は一つの方向性として考えておりました」
 「そうすると既に何か手を打ってあるのかね?」
 「はい、今回のこの事件……ロボットがらみの事件なら当時の担当者が適任と考え、既に配置に付かせております」


 「よお、おはよう」
 「おはようございます、野上さん」
 事務の子は、振り返らなくてもその声の主がすぐに分かった。特徴的なその「だみ声」は野上警部である。
 「聞きましたよ、ロボキュー誘拐事件の担当になったんですって?」
 「ああ、そうさ。だけどあんまり言いふらすなよ。秘密扱いなんだとさ」
 「あら、どうしてですか?」
 「ちょっと訳ありなんだよ」
 「そんな事件に野上さんが?」
 「……4年前にもロボットがらみの事件があってな、その時に指揮を執った俺が適任なんだとさ。だが、その事件はお蔵入りだ」
 「へえーっ。そのお蔵入りって、どんな事件だったんです?」
 「ああ、それが……ロボキューが売り出される前の話さ。お嬢さんもまだ学生の頃だろうな。
 開発途中のプロトタイプロボットを連れ出した奴がいてな、うまいことたぶらかしてそのロボットをいつのまにか味方にしちまいやがった。その男のことは何の手がかりもないままだ」
 「まあ、それでそのロボットはどうなったんです?」
 「なんとか救い出すことは出来たんだが、肝心のそのロボットから情報が得られずじまいだった。こいつの口がまさにロボットで、堅かった。そして今、そのロボットは行方不明ときた。ロボットなんかの証言を取りに行く俺達の図も間抜けだったが、そのロボットが家出していたなんて前代未聞だよ。まったくやっかいな事件さ。その事件と何らかの関連があるんじゃないかと今回掘り起こされてな」
 「ロボット相手だなんて映画の『ブレード・ランナー』みたいでかっこいいですね」
 「お嬢さん、古い映画なんでしょうが無いが、あのハリソン・フォードの相手はロボットじゃなくてレプリカントというミュータントだよ。……でも確かに、そのプロトタイプのロボットは、まるで人間だった。ありゃあロボキューとは比較にならないほど人間そのものだったな。なんと名前が『ロボ子』という、かわいい女の子だったんだ……まるでお嬢さんのように」
 「まあ、野上さんったら、お上手ですね。でもその話、マンガか小説みたい」
 「そう言われてもしょうがない……ふざけた事件さ。でもまあ、今回の事件にしたって俺の役回りは脇役だよ。……俺は思うんだが、今度の犯人は奴じゃない、と感じている。だってそうだろ? ロボットまで味方にしちまうようなヤツが、今更誘拐して何をしようってんだ。無理にさらって奪う必要はないんだよ。ヤツにしてみりゃあ、おいでおいでと、ちょっと手招きすりゃいいだけさ」

next  back  modoru  home