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LANDFALL

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2015/ Roadswell ¥358
  • 190ページ
  • 2015年3月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 Floodシリーズの番外編です。短編3編を収録しています。

 

 シリーズ第一巻のFloodでは、地球規模の海面上昇が起こり、人類の苦闘もむなしく、海が全大陸と文明を呑み込みました。続編のArkでは、急造の殖民宇宙船で滅びゆく地球を脱出した若者たちが2つの恒星にたどり着き、かすかな希望が残されました。

 本書では、異形の惑星に植民を果たした人類の「その後」が描かれます。

 

 相変わらずのバクスター節バリバリですが、名人の古典落語を聞くようにゆったりと楽しめました。ファンとしては二重丸です。

 

 なお、本書はちょっと変わった出版形態を経ています。元々は、2013年に99ドル(!)で発売されたバクスターのサイン入り豪華本「Universes」の一部だったのですが、それが3つに分割されバラ売りされたのです。Kindle版とはいえ、わずか1年で90ドルも値下げしたことになりますが、これからはこういう売り方が流行るんでしょうか?

 本書収録の2編はアシモフ誌に掲載の再録で、最後の「アースT」は書き下しです。

 

●ストーリー●

 

アースU  (初出 Asimov's 2009年7月号)

 殖民船アークが最初に辿り着いた惑星「アースU」の400年後。人類はかろうじて命脈を保っているものの、鉱物がほとんど存在しない厳しい自然環境のため、文明は中世レベルまで後退していた。

 その中で、島国家ジーランドは盟主の妻・ザイアの指揮のもと、武力による領地拡大を続けていた。敵対する島々の討伐に勝利したザイアは、その勢いを駆って不毛の大陸・ベルトの奥深くにあるという「死者の都市」の探検を思い立つ。しかし、ザイアは、過酷な大陸縦断の旅の末にこの惑星に深く隠された歴史を垣間見ることとなる。

 

アースV  (初出 Asimov's 2010年6月号)

 人類が植民した2つめの惑星「アースV」は、回転軸が永遠に太陽を向いた惑星だった。人々は、この世界がコンピュータの中のシュミレーションであるという宗教を信じて暮らしている。太陽の真下にある北極点には、人類の到着以前に作られたと思われる「眼」と呼ばれる太古の塔があったが、今では彼らの信仰の象徴となっていた。

 盟主エリオスの娘ヴァラは、生涯を巫女として過ごさねばならない掟だった。自らの運命を嫌ったヴィラは、「眼」で行われた祭典にまぎれて、自治都市出身の青年ブラッドと出奔する。父エリオスは息子キリと共に、討伐軍を編成して二人を追う。しかし、エリオスの真の目的は、これを好機に反目する自治都市を征服することだった。

 逃げ場を失ったヴィラとブロッドは、旧知の鉱山都市の指導者・トリップに助けを求める。トリップは、二人を連れて惑星の反対側にある永遠の夜の南極点を目指す。最初の植民者が書いたという、古文書に記されたわずかな希望にすがって・・・

 

アースT  (書き下し)

 さらに時は過ぎ、最初の殖民から約8000年が経過した。

 アースU・アースVの人類は一時期の衰退を乗り越えて星間移民を再開し、徐々に居住惑星を増やしつつあった。しかし、宗教的な混乱を経る中、地球に関わる記録はほとんど失われていた。

 惑星アーセンでは、人類の起源を探る機運が高まり、新たな恒星間宇宙船が建設される。計画を主導したピロ教授とその子供たちが乗り組み、人類の拡大してきたルートを逆にたどる旅が始まる。わずかに残った痕跡を元に、ついに一面海で覆われた惑星を持つ星系が発見される。しかし、数十年をかけてその惑星に降り立った彼らを待っていたものとは・・

 

●覚えたい単語●

 landfall 陸地初見、spring equinox 春分、summer solstice 夏至、crustacean 甲殻類、hail from 〜の出身である、punitive 苛烈な、guffaw 馬鹿笑いする、inexorably 容赦なく

 



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