Last and First Contacts
2000年以降に発表された短編10編を収録した、バクスターの自選短編集です。テーマは、ファーストコンタクト、並行世界、宇宙の終末、人工知性とバラエティに富んでいます。バクスターは1999年にも自選短編集"Traces"を出しているので、その続編にあたるといえるかもしれません。
バクスターの最近の作品は、"Traces"の時期と比べるとアイディア一本勝負の影が薄れ、余韻が残るものが多く作風の成熟が見て取れます。それでも科学的なアイディアだけで、これだけ作品にもっともらしいリアリティを与えることができるのは、バクスターを置いて他にないでしょう。
お勧めは、ナチスドイツがファーストコンタクトを果たす巻頭作と、作者がネビル・シュート「渚にて」にトリビュートしたという、宇宙の終末を描く巻末作です。
●ストーリー●
【注意】以下、ネタバレがあります。原著を読もうという方はご注意を(^ ^;)
○Erstkontakt [第一接触] (2012/本短編集のための描き下ろし)
1942年のドイツ、V2号を開発する秘密研究所で秘書官を務めていたドロテアは、ある日フォン・ブラウン直々の呼び出しを受ける。ブラウンは、彼女が趣味の天体観測中に発見した彗星の報告書を手にしていた。その彗星は地球に向かいながら減速していたのだ。
○In the Abyss of Time [時の深淵] (初出:2006/Asimov's)
敏腕記者スージーは、さまざまな冒険に私財を投じてきた富豪・ジョン・エルステッドから同行取材のオファーを受ける。今回は「天文学的タイムマシン」による探検を行うという。彼が指定した出発地点は、ロサンゼルス北方のモハーヴィ砂漠の地下だった。
○Halo Gohsts [ハロの幽霊] (2000/Roaddworks)
ビードと私は、人類初の有人による彗星の核の探査に赴く。目的は、彗星を形作る原初の物質を量子的に解析して、太陽系形成前の宇宙の映像を取り出すことだった。しかし、謎の妨害信号により、宇宙船が彗星に接触し、生命維持装置が破壊されてしまう。
○Tempest 43 [テンペスト43] (2000/Daw books)
23世紀、気象操作衛星が誤作動を起こし、発生したタイフーンにより北米に死者を出す災害が起きる。歴史学者フレディは、国連事務官のアントニーの依頼を受け、問題の衛星テンペスト43の調査に同行する。しかし、無人のはず衛星で二人を待ち受けていたのは・・
○The Children of time [時の子ら] (2005/Asimov's)
現代文明が滅びた後も、人類は地球で生き延びていた。1億年後も10億年後も進化せずに。そしていつの時代も11歳の子供は、世界を変える冒険に挑もうとする。しかし、母親たちは・・
○The Pacific Mystery [太平洋の謎] (2006/The Mammoth book of Extreme SF)
有史以来、太平洋を横断した人間はいない。それは、アメリカが第二次世界大戦に参戦しなかった遠因でもある。戦後の1950年、女性ジャーナリスト・ブリスは、戦勝国ナチスドイツの建造した空中戦艦ゲーリングによる人類初の太平洋横断飛行に同乗する。
○No More Stories [もうお話はない] (2007/Fast Forward val.1)
私は金魚の遺伝子改良で生計を立てる技術者。ガンに侵された80歳の母親を見舞うため、久しぶりにロンドン郊外の実家に帰省する。さびれた故郷の町は私の心を暗くした。しかし、実家には見知らぬ神父が出入りし、私は度々奇妙な幻影を見るようになった。
○Dreamers' Lake [夢見るものの湖] (2006/Forbidden Planet)
地球から200光年離れた小さな惑星が、放浪惑星の衝突によりあと2日で滅びようとしている。私たちは、ドリーマーズ・レイクと名付けた湿地で、意識を持つと思われる藻類を調査していた。
○The Long Load [長い道] (2006/Postscript No.6)
後にイギリスと呼ばれる場所で、ローマ人は石でまっすぐな道路を作った。ローマ人が去った後も、石の道は利用されたが、時代と共に、鉄道、次にアスファルトの道路がそれに取って代わった。やがて、道路はさらに想像もしなかった異様なものへと変化していく。
○Last Contact [最後の接触] (2007/The Solaris Book of New Science Fiction)
3月、モーリーンは夫の残した庭の手入れを最後まで続けようと決めた。次の春は永遠に来ないのは分かっていたけれども。物理学者たちが、今年10月全宇宙は「ビッグ・リップ」により終末を迎えることを発見したのだ。一方、最近、宇宙のあちこちから謎の電波が届きはじめたという。