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The January Dancer

  • 著者:マイクル・フリン
        ( Micheal Flynn )
  • 発行:2011 / $7.99 (TOR)
  • 2012年6月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★★★
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 傑作「Eifelheim」(邦訳:異星人の郷)で注目を集めた、マイクル・フリンの新シリーズ第1巻。今回は全く趣を変え銀河を舞台にしたスペオペですが、さすがフリンというべきか、いろんな意味で一筋縄ではいかない作品となっています。


 読み始めて、まず戸惑うのは徹底的に作りこまれた世界観です。読みやすさを重視した昨今のゲーム風スペオペとは一線を画した難解さです。しかも舞台設定は物語の中で少しずつ明かされてくるため、なかなか全体像が掴めず苦労しました。

 フリンは故意に曖昧さを残し、読者に謎解きを楽しませようとしている節がありますが、今後読む人(と自分のメモ)のため、とりあえず一巻目で分かった設定を整理しておきましょう。

 遠い未来。銀河形成時にできたと思われる、恒星間を繋ぐ「超光速回廊」が発見され、人類は回廊を通って銀河内に植民を始める。人類の版図は、太陽系のあるオリオン肢からペルセウス腕にまで広がり、星間連邦として繁栄する。しかし、「大浄化」と呼ばれる伝説に残る災厄によって、星間文明は完全に失われてしまう。


 長い暗黒の時代の後、再び播種がはじまる。数千年後ペルセウス腕の宙域では「辺縁同盟(ULP)」が結成されるまでに復興するが、連邦時代の技術や知識の多くはいまだ闇の中にある。しかし、再開拓が進むにつれ、古代の技術や謎のエイリアンの遺跡が発見され、高値で取引されることもある。

 ペルセウス腕内のテラフォーミングや再開拓は、主に星間運送会社:ICCによって行われている。ICCなども軍事力を持つ中、辺縁同盟は緩い連携に過ぎないため、その統制は盤石ではない。星々の孤立が続いた数千年の間に言葉も大きく隔たり、封建制度に後退した星もある。辺境の蛮族による略奪艦隊の襲来、海賊の跋扈も続いている。一方、虚空をはさんだオリオン肢、地球を中心とした宙域には、大浄化を引き起こした勢力の末裔が「中央世界連盟(CCW)」を形成し、「シャドウ」と呼ばれるスパイを辺縁同盟に送り込んで破壊活動を行うなど冷戦状態にある。


 このため辺縁同盟は、超保安官「ハウンド」の機関を作り、治安維持とCCWへの謀略に当たらせている。ハウンドたちは独立して行動し、必要があれば惑星の統治者や暗殺者にもなる高度な知力と行動力を合わせ持ち、人々の畏怖の対象となっている。


 超光速回廊の出入り口や分岐点は整備管理が進んでいるが、船乗りの間では、忘れ去られたり未発見の回廊があるとうわさされている。アインシュタインやシュレジンガーは宇宙を作った神々として、神話に語り継がれている。

 「テラン」と呼ばれ、地球からの避難者の子孫を自認する人々がいる。彼らは賎民として忌避されながら、多くの星の都市の片隅にゲットー「コーナー」を作り、結束して汚れ仕事で生き延びている。

 ・星間運送会社:ICC: The Intersteller Cargo Company

 ・辺縁同盟:  ULP:United League of the Periphery

 ・中央世界連盟:CCW: Confederation of Central Worlds


 次に読者を混乱させるのは、登場人物がいくつもの名前を持っていることです。

 例えば、メインキャラクターであるヒューは、Little Hugh O'Carroll / The Ghost of Andow / a.k.a Ringbao della Costa / Esp'ranzo の4つの名前を持っています。フリンもさすがにやりすぎと思ったのか、第2巻ではひとつだけ使うように落ち着いているようです。


 もうひとつは、ときどき出てくる言葉のなまり表記が難しいことです。例示すると、

 “Cain’t fer th’ life O’ me see why they bothered,” ←発音のなまり。

 “Doest thou truly reject Those of Name?” ←古語(Do you 〜)

 発音のなまりはネイティヴにとっても、読みにくいみたいですね。


 このように、非ネイティヴにとってはさまざまなハードルがある作品ですが、私ははまってしまいました。欧米での毀誉褒貶も、フリンの練り込みを「作品の奥行」と感じるか、読み難さととらえるかの違いのようです。

 また、「頻繁になじみのない世界を説明がされるのがうざい」という批判もみかけますが、本来、見たことのない世界を体験させてくれるのがSFの原点ではなかったでしょうか。その意味で、この作品はあえて読者に読解力を高く求め、現代においてSFの原点回帰を目指した「銀河旅行記」ともいえるかもしれません。

 流し読みのできるライト・スペオペに食傷した方なら、ぜひ挑戦してもらいたいシリーズです。


 ps: シリーズ2巻目 Up Jim River レビューはこちら

●ストーリー●

 惑星エホバの場末の酒場をねぐらにする「顔に傷のある男」を、一人のハープ弾きの娘が訪れる。彼女は曲の題材のためにと「踊る石」の話を求め、男は嘘とも真ともつかぬ長い逸話を語り始める。


  20年前のこと、独立商船の船長・ジャニュアリーは、砂漠の惑星で鉱物採掘中に「前人類」の遺跡を掘り当てる。遺跡から形を変える「踊る石」を持ち出すことに成功した船長は、ICC:星間運送会社に売り渡そうとする。

 踊る石にさそわれるように、さまざまな人間が宇宙のあちこちで蠢き始める。

 ジャニュアリー船長が取引のため停泊していた惑星・ニュー・エイレアンで、圧政に対して反乱が起きる。投資者であるICCから鎮圧軍が派遣されるが、混乱に乗じて略奪遠征に来た蛮族シンシアンの艦隊の急襲に会い、鎮圧軍は壊滅する。この混乱の中、踊る石はICC鎮圧軍司令の手からシンシアンの艦長の手に渡る。

 惑星で略奪の限りを尽くしたシンシアンだが、帰路に待ち構えていた同盟軍の艦隊と激突、全滅し、踊る石は再び行方不明となる。

 その頃、大物ハウンドのグレイストロークは、辺縁同盟内に侵入したとみられるCCWのスパイの存在を追っていた。しかし、その男はドノバンという名前だけを残したまま、彼らの追跡の手をかいくぐり続けていた。

 さまざまな動乱のさなか、ニュー・エイレアン反乱軍の指導者・ヒューと、グレイストローク、その配下のフューデァ、3人の男たちが、踊る石の存在に引き付けられるように出会う。彼らは、石を所有する者は宇宙の運命を支配するという伝説を知る。

 一方、女性ハウンドのブリジット・バンは、シンシアン艦隊がなぜ誰にも知られずニュー・エイレアンを襲えたのかを調査する中、踊る石の存在に気づく。やがてブリジットはヒューら3人とともに、石の謎を追うこととなる。

 本当に踊る石は、本当に宇宙の運命を変える力があるのか。そしてRiftのかなたに潜むのは何者なのか。全てが謎を抱えたまま、壮大な銀河の物語の幕が上がる。




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