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 45歳からのペーパーバック
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<<註>> ボキャブラ度は、個人的に感じた英単語の難しさです。最高★5つ

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TRACES

スティーヴン・バクスター
(1999)Voyager
£6.99(ペーパーバック)
ボキャブラ度:★★★★☆

2005年10月現在、本邦未訳。
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 バクスターが1987年-1995年に発表した22作品を収録した短編集です。ジーリーやその他のシリーズとは繋がりがなく、テーマ分けもされていないので、本としてのまとまりがない感があります。しかし、その分、バクスターのいろいろな側面が日替わりで楽しめます。

 また、後の作品に繋がるアイディアの萌芽が散見され、バクスターファンとしては、興味深い1冊です。

 初期の作品は、90年代としてもやや古臭い感じもしますが、私のような年代の読者にとっては、SFの王道ここにありという感じで、安心して読めました。お勧めです。

 ただ、一般の小説と違い、一編ごとに異なるとんでもない異世界が舞台ですから、導入部分は辞書を使ってじっくり読み込まないと、なんのことだか分からなくなります。本稿のあらすじなどもご参考に。(間違ってたりして (^_~;)

 収録作品のテーマを勝手に分類すると、宇宙開発、異世界・遠未来、多元宇宙の3つに分けられます。

 多元宇宙を扱った作品では、タイムシップで明確になったバクスターの歴史趣味が色濃く出ています。ヒトラーの側近・ゲーリングの若き日を描く No Longer Touch The Earth 、大日本帝国とドイツ帝国が戦争を始める Mittelwelt 、19世紀に惑星間飛行船が飛ぶ A jorney to the King Planet などは宮崎アニメを思わせます。

 バクスターが描く宇宙開発物は、暗い情熱と陰鬱さが特徴ですが、本書でもガガーリンが実は灼熱の金星への片道飛行で死んでいたという Zemlya、月面で多元宇宙に放り込まれるアポロ宇宙飛行士の悲劇 Moon Sixなど、やっぱり暗いです。

 作品の出来とは別の意味で気に入ったのは、50億年後の未来の草原にキツネザルとして再生した男達の物語 George and the Comet。なぜか、私も毛皮がほしくなりました。

 なお、巻末のあとがきで、バクスター自身が各作品についてコメントを付けているのですが、作者がどういう所からインスピレーションを得るのかが窺い知れて楽しめます。

 

●ストーリー●

※邦題は勝手に付けました。ネタバレがありますので、原著を読もうという方はご注意ください(^ ^;)>

 

Traces [痕跡] / 1991
  私は、GUT船(大統一理論船)の雇われパイロットとして、オールトの雲の中の彗星へ向かっていた。この船は、全キリスト第一教会が有り余る資金を注ぎ込んだミッションで、教会の敬虔な牧師で科学者でもあるディラードが乗り込んでいた。彼は、太陽系形成以来そのままの彗星の物質の電子を調べることで、過去の宇宙のイメージを掘り出そうとしていたのだ。それによって「宇宙は人間のためにデザインされた」という教会の理念が証明されるはずだった。
  だが、彗星の物質から抽出されたイメージは、数十億年前にスーパーノバによって滅亡した、高度な文明の姿だった。

Darkness  [暗闇] / 1995
  女性刑事フィルマスは、カリフォルニア・スタンフォード大学の学生ヒレガスと共に、1816年のレマン湖のほとりの別荘に居た。ここはシュミレーションの中であり、彼女はヒレガスが、大学の研究を利用して違法に作った人工意識の現場検証を行っているのだ。そして、別荘の一室で彼女らの前にいる人工意識は詩人バイロン。
  学生ヒレガスは、バイロンの詩「暗闇」が、環境破壊の未来を予知したのではないかと考え、違法を承知で、人工バイロンを作り出し真実を聞こうとしたのだ。

The Droplet [しずく] / 1989
  会計士のピーターは、ロンドンから、兄ジョージが勤務するスタンフォード大学の素粒子研究所にやってきた。ジョージの妻のマリーから、様子がおかしいジョージに会ってくれるよう依頼をうけたのだ。ジョージは、ビッグバンから1秒後の状態を加速器で作り出そうと、不眠不休で研究を続けていた。しかし、その加速器は間もなく閉鎖される予定だという。
  しかし、ピーターは、マリーもジョージの同僚も、なぜかピラミッド型のアクセサリーを付けていることに気づく。

No Longer Touch The Earth [触れえぬ地球]
  ヘルマン・ゲーリング中尉は、南極の極まで200キロの補給所で、フォッカー三葉機に最後の給油を受けた。極からは、巨大で透明な軸が天空へ伸びており、天星儀と同じように地球はその軸で回転していることが、アムンゼンやスコットにより確認されていた。彼は、世界で初めて、空中からその軸に到達しようというのだ。
  しかし、彼が軸に到着したとき、そこにはアメリカの撃墜王リッケンバッカーの複葉機が、一足早く到着していた。ゲーリングは、激しい怒りに駆られた。

Mittelwelt  [中間世界]
  第1次大戦に勝利したドイツ帝国は、ヨーロッパ全体を手中に収めていたが、「東亜新秩序」を掲げアジア・オセアニアに勢力を拡大する日本と緊張が高まっていた。会社からドイツに派遣されていたアメリカ人技術者のマイケル・キルダフは、図らずも有人弾道ロケット・ヴェルデの初飛行に搭乗することになってしまう。しかし、初飛行の本当の目的は、東京爆撃だった。
  題名のMittelweltは字義どおりなら「中間世界」ということになりますが、Mittel-Europaは「中欧」を意味するらしいし、なんかネタがあるのかもしれません。ネット検索したら、パンゾフィ : 白魔術と黒魔術の歴史研究のパラケルススの哲学の章に、1.マクロコスモス、2.ミクロコスモス、3.中間世界( Mittelwelt)ってのがあるそうです。

A Jorney to the King Planet [惑星王への旅]
  長編「アンチ・アイス」(1993刊)の世界を描く短編。
  19世紀、南極で通常物質と反応して巨大なエネルギーを放出する「アンチ・アイス」が発見される。大英帝国は、これを独占し、1882年、アンチアイスを動力源とした、最初の惑星間飛行船オーストラリア号が建造される。
  フランス人のコンセィエ教授と英国の記者・ホールデンは、試験飛行に招待される。
  しかし、発射予定の5日前二人が見学をしていたとき、無人のはずのオーストラリア号が突然発進し、宇宙空間に飛び出してしまう。

The Jonah Man [不吉な人]
  タウ・セチV行きの宇宙船が、赤い恒星おうし座Tの近くで遭難し、船医のムーアは、船の技術者のパックと船客ウィンドルの3人で、救命ポッドで脱出する。しかし、ポッドの燃料は2人分しかない。ウィンドルはさえない中年男で、パックは割り込んできたウィンドルを邪魔者扱いし、折りあらば始末しかねない。
  そのとき、ウィンドルが、恒星Tの周りをまわる塵の輪の中に、生命体のようなものを発見する。
  [ ヨナ(Jonah)は、旧約聖書で巨大な魚に飲み込まれた小預言者。不吉な人の意味もある。]

Downstream [下流]
  ストーンの世界は、大気が超流体とともに上流から下流へ、常にすさまじい勢いで流れつづける、流れる世界だった。人間は「底」にしがみついて、「蜘蛛」の卵や「幼生」の体液を食べて暮らしていた。いったん底から引き剥がされれば、下流へ押し流され、二度と仲間に会うことはできない。上流からは、ときどき人間とは思えない異形の死体が流されてくるが、上流も、下流も全く情報のない未知の世界だった。
  ストーンはある日流れに巻き込まれ、妹フラワーとともに「下流」へ流されてしまう。

The Blood of Angels [天使の血]
  地球は、「衝突」により、全てが凍りつく、氷の惑星となっている。人類は自らに遺伝子改良をほどこし、海中での生き残りを図った。しかし、長い時を経て、人類は似ても似つかぬ4つの種に分化し、お互いに狩猟しあうようになってていた。
  冬眠から覚めた、「真人」のクレーヴァーと妻ハンターは、獰猛な種族バスカーの襲撃を受け、仲間の半分以上を喰われてしまう。理性を持たない共生種族の「天使」が、いたずらで彼らの武器を隠したためだった。ハンターは、種族の生き残りのため、ある決意をする。

Brigantia's Angels [戦いの天使]
  1895年、ロンドンにあこがれる炭鉱夫の息子ジミーは、嵐の夜、近くに住む変わり者の大工・ビルに、力を貸して欲しいと頼まれる。荒野に行ってみると、そこには手作りの人力飛行機があった。
  仲間となったジミーは、ビルとともに飛行機の製作を手伝うことになる。そして、ジミーが乗り込んだ人力飛行機はついに初飛行の日を迎えた。

Weep for the moon [月にむせび泣く]
  1944年、"キャプテン"グレン・ミラーは、アメリカ軍慰問演奏のため、パリへ向かう軍用機に乗り込んで出発を待っていた。(史実では、彼を乗せた飛行機は英仏海峡で行方不明となっている)
  そこへどこからともなく、アメリカにいるはずの兄ハーブが現れ、今すぐ飛行機を降りろという。ハーブは、未来のアメリカは「ヴィジター」に破壊され尽くしており、それを救うことができるのは、グレンの音楽だけだという。

Good News [グッド・ニュース]
  ファルコは、自分の新聞社の部下の正体が「彼」であることを、当局に通報した。「彼」は逮捕されたとき、お馴染みの青と赤のコスチュームにマントを着ていた。「彼」はその超越的な力で、アメリカと地球の多くの危機を救ってきたにもかかわらず、その細胞の秘密を調べる研究を妨害した件で、起訴されたのだ。

Something for Nothing [棚ボタ]
  言語学者である私は、宇宙飛行士のジョージとハリスとともに核融合ロケットに乗り込み、地球近傍を飛行していた異星人の宇宙船に接触を果たした。異星の宇宙船は無人で、20億年以上飛行を続けており、たまたま銀河系を通過していたことが分かる。遥かな過去、クェーサーを調査するために発射され、飛行を続けているものと思われた。ハリスは宇宙船の部品を外して持ち帰ろうと言い出す。

In the Manner of Trees [木々のやりかた]
  宇宙船ファインマン号は、調査のため、数百年前に連絡を絶った殖民地惑星 ワッタ・プレース(何て素敵な場所)に到着した。調査員たちは、果物を実らせた潅木が点在する草原の世界で、裸で暮らす4〜5歳の幼児たちを発見する。彼らは言葉を話せない状態に退化し、幼児の一人は妊娠していた。殖民者たちに何が起こったのか。幼児の一人が死んだとき、恐るべき進化の事実が判明する。

Pilgrim [放浪者]
  1962年10月、シラーがジェミニ宇宙船で打ち上げられた日、世界はキューバ危機が引き金となって、全面核戦争に突入してしまう。シラーは、軌道上から、地球が滅びていく様子を目の当たりにする。
  しかし、そのとき彼は宇宙空間に浮かぶ光の枠「ドア」に遭遇する。ジェミニが「ドア」をくぐりぬけたとき、ケープ司令センターから、何事もなかったかのような通信が入る。シラーが見た地球は、大陸がひとつしかない異様な世界に変貌していた。

Zemlya [大地]
  人類最初の宇宙飛行から3年後、1964年、ガガーリンは、秘密裏に人類最初の惑星間宇宙船ゼムリャに乗り、単身金星への片道飛行に飛び立った。金星には空気とジャングルや石油の海があるはずであり、次の宇宙船が向かうまで、ガガーリンは金星で待つことになるはずだった。
  しかし、ガガーリンが着陸した金星は、灼熱・高圧の地獄の惑星だった。

Moon Six  [月その6]
 バドは、アポロの着陸船で月に降り立ち、調査を開始するが、着陸船もろとも同僚の宙飛行士が掻き消えてしまう。代わって、彼の前に存在するはずのない宇宙飛行士たちが現れる。計画イメージでしか見たことの無いNASAの月面飛行体、ソ連の一人乗り着陸船、そして大英帝国の奇妙な宇宙船。
  バドは、平行世界の乱流に巻き込まれてしまったのだ。

George and the Comet [ジョージと彗星]
 ベアードが目覚めると、目の前に、ジョージと名乗る英語を話すキツネザルのような生き物がおり、彼自身もサルの体になっていた。そして、空には50億年後の赤く膨れ上がった太陽と、巨大な彗星があった。

Inherit the Earth [地球の遺産]
  ルークは、4つの口と多脚と触手を持つ生き物だが、棲み慣れた海底で死を迎えようとしていた。神父が古いラテン語で、カトリックの祈りををささげている。彼は瀕死の力を振り絞って、彼らが信じるカトリックを50億年前に伝えたという「人類」や、キリストはほんとうに存在したのかを知るための、巡礼の旅に出る。

In the MSOB  [管制センター]
  年老いた元宇宙飛行士が、身よりも無く、老人ホームで残された日々を送っている。彼は、老人ホームから抜け出そうとするが、鎮静剤を打たれ連れ戻される。

 目を覚ましたとき、彼は有人宇宙飛行管制センターで、打ち上げの準備をしていた。

 

 

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 ■収録作品

※邦題は勝手に付けました。ネタバレあり注意