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Proxima

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2013/Gollancz \1,773(kindle)
  • 464ページ
  • 2013年10月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 バクスターの新たな宇宙SFシリーズの第1巻。

 恒星間植民に乗り出した人類は、知的生命同士が過酷な生存競争を行う、闘技場としての宇宙に直面します。


 バクスターは、日本ではジーリークロニクルしか知られておらず、スケール感とアイディア勝負の作家と思われています。しかし、未訳の歴史物含めて、彼の一貫したテーマは、ずばり「サバイバル」です。

 生き物は環境の激変に対して死の間際まであがき、生き残ろうと全力を尽くします。バクスターの視点では、その点でバクテリアも人間も、神のような知性体さえも、同じです。彼の作品の登場人物・生命は、これでもかという過酷な試練に耐え忍んだ挙句、非業の死に至ります。「宇宙SM作家」の称号を贈りたいです。それでも読後に心地よさを感じるのは、作者が、生き残ろうとあがく命へ深い共感を込めているからなのだと思います。もちろん、本書でもバクスターのSっぷりは健在です。


 一方、登場する道具立ては、囚人を使った強制植民、太陽系形成時に何者かが水星に埋め込んだ「ハッチ」、脳を生体分解して作られた人工知能など、盛りだくさんです。多少の既視感は否めないものの、ファンならお馴染みの宇宙中連れ回されるライド感を十分楽めるでしょう。

 2014年7月に刊行が予定されている第2巻Ultimaは、バックグラウンドがさらに宇宙規模に広がっていくもようです。


 ちなみに惑星ペル・アルドア 、宇宙船アド・アストラ の名は、英国空軍の標語 「Per ardua Ad astra:苦難を越え星までも」からの引用です。

●ストーリー●

 19歳の少年ユーリは、火星のコロニーで規則違反を犯し、冷凍され地球へ強制送還された。 しかし、彼が目を覚ました場所は地球ではなく、4光年彼方の恒星プロキシマに向かう植民宇宙船の中だった。

 23世紀、中国と国連は宇宙開発で敵対しており、劣勢に立たされた国連は、挽回を図るため200人の囚人を強制的な恒星間植民に送り出したのだ。8年後、プロキシマに到着したユーリたちは、最低限の機材とともに惑星ペル・アルドアに放り出される。アルドアは地球型ではあったが、永遠に片面だけをプロキシマに向けて公転し、奇妙な生命体が支配する異形の惑星だった。護送隊が去ると、囚人の男たちは女を取り合って殺し合いを始める。ユーリの果てしないサバイバルが始まる。


 その頃太陽系では、中国が月面、火星、小惑星の資源の大部分を支配していた。しかし、国連が唯一橋頭堡を築いていた水星で、奇妙なエネルギー物質を発見したことからパワーバランスが崩れつつあった。「カーネル」と名付けられたその物質は、微少なレーザーを照射するだけで莫大なエネルギーを引き出せるのだ。 国連はカーネル採掘を独占し、高速宇宙船を建造して失地回復を進めていた。ユーリたちの宇宙船もその一隻だったのだ。

 やがて、水星の地下数百キロで、国連と中国の緊張を決定的にするものが発見される。 太陽系形成時に何者かが埋め込んだと思われる「ハッチ」だ。


 一方、惑星アルドアで苦闘するユーリたちは、移動する湖を追って放浪し、やがて固定された太陽の直下にあたるポイントに到達する。そこで彼らが見たものは・・・

●覚えたい単語●

 inmate 収監者、sapling 若木、fret いらだつ、ferret out 狩り出す、quasi 疑似の

 


PS) シリーズ完結編・Ultimaのレビューはこちら



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