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Ultima

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:2014/Gollancz \1,685(kindle)
  • 560ページ
  • 2015年3月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 バクスターのProximaシリーズ(全2巻)の完結篇です。


 前巻、Proximaでは、国連と中国が謎のエネルギー資源をめぐって全面戦争を引き起こし、人類は絶滅しました。本巻 Ultimaでは、生き残った男女と人工知能が、異なる歴史の並行宇宙を遍歴し、知的生命の進化を操る謎の存在を追います。
 宇宙に進出したローマ帝国や、コンピューターを持たない恒星間文明など、バクスターお得意の奇抜な設定の緻密な描写は相変わらず楽しめます。


 しかし、このシリーズ、残念ながらコアなバクスターファン以外にはお勧めしにくい出来になりました。バクスターは、新たなTime's Eyeシリーズを目指したようですが、アイディアの大風呂敷が広げきれず、伏線の回収も中途半端のまま打ち切ってしまった印象です。登場人物の扱いもこれまでになくぞんざいで、次々と使い捨てられ、下巻では主人公が誰か最後まで定まりません。構成の失敗に途中で気が付いたのでしょうか、早く終わらせようと焦ったのでは、などと勘ぐってしまいます。


 ここ数年のバクスターは、宇宙開発物、ローマ物、アンチアイス物など、これまでの執筆で獲得した知識を組み合わせて作品を仕上げる傾向が顕著です。バクスターのハードSFの魅力は、余計な夾雑物のないストレートなハードさだったのですが、そのピュアさがそろそろ限界に達しつつあるのかもしれません。
 とはいえ惚れた弱み、私は最後までお付き合いしようと覚悟しております。はい。

●ストーリー●

 国連と中国の全面戦争は、水星で発見されたエネルギー資源・カーネルの暴走を招き、太陽系の人類は滅亡した。
 ユーリとステファニーは謎のスターゲート「ハッチ」を通って、水星から4光年かなたの植民惑星アルドアに逃れた。しかし、ハッチを出た彼らを待っていたのは、ローマ帝国の宇宙植民軍だった。
 一方、人工知能アースシャインは、ユーリの娘・ベスと数人の男女を連れ、間一髪、高速宇宙船で脱出に成功する。しかし、停止したとき、彼らもローマ帝国が支配する並行宇宙に転移しており、イギリスに当たる「ブリカンティ」と呼ばれる国の戦艦に捕獲される。連行された彼らが見たのは、野放図なカーネルの使用で環境が破壊され尽くした地球の姿だった。
 この歴史線では、ローマ帝国が滅亡せず中国と覇を競っていた。カーネルが早くから使われ恒星への進出は元の歴史より進んでいたが、コンピューターは発明されず、巨大な宇宙船が力任せに「目測」で飛行するなど、恐ろしく粗野な宇宙文明が開花していた。最大の謎は、ローマ人たちが、構造も原理も理解しないまま次々と植民惑星に「ハッチ」を建造していることだった。


 ベスたちが連行されたブリカンティは、ローマ・中国のはざまで辛うじて自治を保っており、彼女らはブリカンティ人に科学知識を教えることを許されて、つかの間平穏な生活を手に入れる。しかし、数十年後、火星に起きた異変が、ベスたちを再び過酷な試練へと駆り立てることになる……。

●覚えたい単語●

 centurion ローマ軍の百人隊長、optio ローマ軍の副官、trierachus ガレー船の船長、capacocha インカの子供の生贄、make foray 進出する、spanning ... 〜におよぶ

 



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