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Singularity Sky

  • 著者:チャールズ・ストロス
  • 発行:2004/Ace Science Fiction $7.99
  • 352ページ
  • 2005年10月現在、本邦未訳
    2006年邦訳:シンギュラリティ・スカイ(早川書房)
  • ボキャブラ度:★★★★★+
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 シンギュラリティ・シリーズ第1巻。

  チャールズ・ストロスは、スペオペ・ハードSFの復権で注目される英国のSF作家の一人です。ラヴクラフト風ホラーや異世界のスパイ物など、幅広いジャンルを手がけており、今後が楽しみな作家です。

 タイトルの singularity (シンギュラリティ)ですが、ヴァーナー・ヴィンジが提唱したもので、ITが高度化するとある日突然、人間の理解を超える知性が誕生するかも、というアイディアです。

 本シリーズでは、21世紀末にシンギュラリティが発生。誕生した超知性は自らエシャトンと名乗り、人類の90%を 消滅させたうえ、どこかへと去ってしまいます。実は消えた人類は、数千光年かなたまでの恒星系にばら撒かれており、その結果、宇宙はそれぞれ奇妙な文化を発展させた星々で満ち ることになります。数百年後、超光速船(FTL 船)を開発し再接触を果たした人類は、宇宙でも文化衝突や政治軋轢を引き起こし始めます。

  しかし、エシャトンは「因果律に違反してはならない」との警告を残していました。破った場合恒星系の消滅など、恐ろしい制裁が下されます。やっかいなこと に超光速飛行は実質的なタイムトラベルであり、使い方によっては因果律が破られます。そのため、地球の国連(NPOみたいに変貌)は、 因果律違反を阻止する工作員を密かに星々に派遣していますーー


 この設定だけで面白さは保障されたようなものですが、本書の真骨頂は世界観に頼らず、陰謀、フリーク、ミリタリー、アクションなどをこれでもかと詰め込んだサービス精神にあります。21世紀に蘇っ た「ファウンデーション」といえるでしょう。シリーズ第2巻・Iron Sunriseも楽しみです。

 なお、単語はかなりの高レベル(というより説明がない)で、構文も挿入句がやたらに多く洋書初心者にはかなり辛いです。どこか翻訳出版してくれないかなあ。

 【追記】

・シリーズ第2巻 Iron Sunrise 読了

・2006年6月ハヤカワ文庫から邦訳が出ました。こういうSFが翻訳で読めるのはうれしい限りです。続刊もぜひ。

●ストーリー●

  圧制にあえぐ農奴の惑星ロヒャルツ・ワールドに、ある日軌道上から無数の携帯電話が降り注ぐ。電話はそれを拾った人々に「楽しませてくれたら何でも願いを かなえよう。」とささやく。やがて、自転車、食料、武器、家、若さ…、住民も支配者も、それぞれが勝手に自分の願いをかなえはじめる。たちまち惑星の経済 体制は崩壊する。この混乱を招いたのは数千光年のかなたから訪れた「フェスティバル」と名乗る、謎の存在だった。

  ロヒャルツ・ワールドの宗主国の惑星「新共和国」は、住民の技術レベルを19世紀末に制限し、古きよき東欧の帝国を模した独裁国家を築いている。皇帝は フェスティバルの行動を侵略とみなし、宇宙艦隊をロヒャルツ・ワールドに発進させる。しかし、その作戦はエシャトンのいましめである因果律違反を犯しかね ないものだった。

 この事態に偶然居合わせた地球人がいた。一人は、国連の女性外交官レイチェル。レイチェルの真の姿は、因果律違反を阻止する任務を持った工作員だった。そして今まさにその危機が訪れようとしていた。彼女は国連の監視員として、宇宙戦艦ロードバネク号に同乗する。

 もう一人は、新共和国が買い入れたロードバネク号のサービスエンジニア・マーティン。二人は恋に落ち、レイチェルの任務を共に担うことを誓う。

 しかし、単なる技術者に見えたマーティンには、レイチェルにも告げられない秘密があった。

 二人は、軍の陰謀を回避して、戒律違反を阻止できるのか。そして、謎のフェスティバルの招待とは?21世紀に蘇ったニュー・スペースオペラを心ゆくまで堪能しよう!



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