Review/レビュー
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The Trials  (The Red trilogy 2)

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Going Dark (The Red trilogy 3)

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  • 著者:リンダ・ナガタ
        ( Linda Nagata ) →著者ブログ
  • 発行:2015 / Saga Press
  • 2016年1月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★☆☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

 リンダ・ナガタの"The Red" 三部作が、第2巻・第3巻で完結しました。

 核爆弾テロが続発し世界が崩壊に向かう中、サイバー化兵士の主人公が、巨大な陰謀の阻止に立ち向かいます。


  →レビュー:第1巻・First Light


 第1巻では主人公が超人的な能力を身に付けてしまい、単なる近未来ミリタリー物になるのかと懸念したのですが、最後はまっとうなサイバーSFとして着地してくれました。


 さらに、本シリーズは、アクション小説としても作者の成長がみられます。新たな敵が次々に現れる盛りだくさんの展開は、"24"や"LOST"など上質のアメリカTVドラマを彷彿とさせ、三巻にわたり読者を引っ張ります。近未来の戦闘シーンもビジュアルでスピード感があり、作者が女性であることを感じさせません。連続ドラマやミリタリー小説などのエンターテイメントを、よく研究しているであろうことが想像できます。

 また、主人公のシェリーはネット依存症で社会適応に悩む青年ですが、国家に裏切られながらもテロに立ち向かう孤高のコマンドーに成長していく姿が、今のアメリカの空気を捕え、読者の共感を得ているようです。

 いずれかのSF賞へのノミネートは間違いないところでしょう。


 アメリカン・ローカルな読者層を意識した構成は、日本人としてはあざとさを感じるところはありますが、エンターテイメントSFとしては水準以上の出来だと思います。ぜひ翻訳で読みたいところです。


 なお、第1巻First Lightは、自費出版本として初のネビュラ賞ノミネート作となりました。2・3巻の出版にあたっては高い評価を背景に、Saga Press社と有利な契約が結べたそうです。今後は、こういう出版形態が流行るかもしれません。


  → The Red 著者インタビュー・"Mission Complete"


●ストーリー● (以下、ネタバレあり。ご注意を。)

○Vol.2:THE TRAIALS


 核爆弾テロの首謀者セルマを捕らえた「黙示録分隊」は、作戦の動画がネット上に流出し、一躍ヒーローに祭り上げられる。しかし、彼らは軍機違反に問われ、軍法会議で裁かれる。シェリーを救い続けてきた存在は、ネット上に生まれたAI・「レッド」であることが明らかになるが、事件以降は接触がなくなり、正体は謎のままだった。


 シェリーは、世論の支持で無罪を勝ち取るものの、軍を追放されニューヨークの父の家に戻る。普通の暮らしに適応できず悩むシェリーを、セルマの夫カール・ヴァンダの組織が襲い、テロを引き起こす。かろうじてマンハッタンを脱出したシェリーは、軍の有志が秘密裏に組織した「秘密の矢」分隊に、かつての部下と共に加わる。


 彼らは、襲撃してきたカール・ヴァンダを逆に捕らえ、数基の小型核爆弾がテロリストや狂信的な富豪「ドラゴン」の手に渡っていることを知る。シェリーは、再び、世界を救うための作戦に身を投じる……。


○ Vol.3:GOING DARK


 シェリーは最後のミッションから生還するが、仲間と音信を絶ち、新たな秘密分隊7-1に加わる。7-1分隊は全員が脳にスカルネットを装備し、レッドの指示でテロの芽を摘む作戦に従事していた。しかし、シェリーは徐々に戦いのありかたに疑いを抱く。

 「俺たちは非線形の戦争の中にいる。味方も、敵も、戦場も、安定したものは何もない。」


 レッドから、北極海にある石油採掘プラットホームで不審な生物研究が行われているという情報を得て、7-1分隊は調査ミッションに向かう。しかし、レッドが周到に準備したはずの情報に致命的な誤りがあり、分隊は全滅の危機にさらされ、彼らのミッションが国家間の戦争の引き金を引いてしまう。シェリーは、レッドの指示に矛盾を感じる。

 「レッドは、一体ではないのか?」


 次々と襲いかかる危機の中で、シェリーは「非線形の戦争」の真の姿を見ることになる……。


●覚えたい単語● Kindleのハイライト記録から

He frisks me. ボディチェックする、concussion 脳震盪,衝撃、incarcerated 監禁する、compromise 損なう,立場を危うくする、cinch (腹帯を)締める





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