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MOONSEED

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:1999/Harper Prism $7.99(マスマーケット版)
  • ページ:662p
  • 2005年11月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 本書は、バクスターのこれまでの作風とは趣を変え、地球規模の大災害をリアルに描き出しています。実現しませんでしたが、発表当時、大災害物として映画化の話もあったそうです。


 最初の読み所は、スコットランドに端を発した火山活動が広がり国土が崩壊していくシーンで、我が小松左京の日本沈没を彷彿とさせます。バクスターは、1997年に来日したときに、阪神・淡路大震災や雲仙普賢岳の火砕流なども調査したようで、ニュースなどで見覚えのあるシーンがあちこちに出てきます。重要なキャラクターである日本人の老火山学者イシグロは、阪神・淡路大震災で家族を失い、自然災害に対して憤りと諦観を併せ持つ人物として描かれます。本書は、日本を襲った災害のすさまじさにインスパイアされた作品ともいえそうです。

 後半は、得意分野の宇宙技術をベースとした、泥縄の宇宙飛行がリアルに描かれます。急造の月着陸船に「手でつかまって」、宇宙服むき出しのまま月面に降下していく描写は秀逸です。


 ネタバレになりますが、バクスターは本作でも登場人物を次々に殺しまくり、最後に地球まで滅ぼしてしまいます。しかし、前作"Titan"(1997)よりは現実的な希望を残したエンディングで、シリーズ化を考えていないだけ作品としてはまとまっており、日本でもそこそこ売れそうな気がします。このレベルの作品が翻訳されていれば、日本でもバクスターの宇宙開発SF・絶滅SFのファンが生まれていたのでは、と惜しまれます。


 なお、本書はNASAを舞台にしているため、"Voyage"、"Titan"とともに「NASA三部作」と呼ばれますが、三作品は全く独立した物語です。

 

●ストーリー●
 NASAの地質学者、ヘンリー・ミーチャーは、月の南極の地下に彗星由来の大量の水が眠っているという仮説を証明するために、月面の無人探査計画を進めていた。しかし、財政難でプロジェクトは中止され、宇宙飛行士の妻ジーナとも離婚するはめになる。居場所をなくした彼は、つてを辿ってスコットランドの研究所に移り、アポロが持ち帰った月の石の研究に参加する。

 しかし、そのとき人類は、驚異の現象を目撃する。金星が燃え上がり、塵となって消滅したのだ。全世界の科学者が調査に当たるが、原因の手がかりすらつかめない。


 ある日、ヘンリーの助手の一人が、研究所から月の石の一部を無断で持ち出し、エジンバラ市内の公園に撒き散らしてしまう。その場所から、公園内の古い岩盤が銀色に変色し始める。ヘンリーが調査した結果、微小な構造体が岩を分子以下のレベルで変化させている事が分かる。やがて強固だったエジンバラの地盤は沈下し、地下にあった死火山が噴火を始め、イギリス全土に非常事態が告げられる。

 しかし、時すでに遅く「ムーンシード」と名付けられた岩を喰う月の粉は火山灰に乗って全世界に広がり、地球を蝕み始めていた。先日の金星の消滅が1970年代の金星探査機に付着していたムーンシードが原因だとすると、地球の消滅まではあと30年しかないことになる。


 ヘンリーは、ムーンシードの元凶である月面を調査するため、手持ちの機材を流用した月飛行計画をNASAに認めさせる。2か月後、ヘンリーと元妻ジーナはつぎはぎだらけのソユーズに乗り込み、月面へと向かった。

 ムーンシードの謎は解けるのか。人類は生き残ることができるのか……

 



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