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バクスターの十八番は宇宙物ですが、本作は地球規模の大災害をリアルに描こうとしており、これまでの作風とは一味違います。コアなSF読み以外の読者も狙ったのかもしれません。発表当時、大災害物として映画化の話もあったようです。
日本人としての読みどころは、スコットランドに端を発した火山活動が広がり国土が崩壊していく様で、我が小松左京の日本沈没を思い起こしました。
バクスターは阪神・淡路大震災(1995)の避難所の状況や雲仙普賢岳の火砕流(1991)なども調査したらしく、思いあたるシーンがあちこちに出てきます。重要なキャラクターとして登場する日本人の老火山学者イシグロは、阪神・淡路大震災で家族を失い、自然災害に対して憤りと諦観を併せ持つ日本を象徴した人物として描かれます。バクスターは1997年5月に来日しており、日本を襲った災害のすさまじさにインスパイアされたのでしょうか。
後半は、お得意の宇宙技術の綿密なリサーチをベースとして、泥縄の宇宙飛行をリアルに描きます。個人的には、急造の月着陸船に「手でつかまって」宇宙服むき出しのまま月面に降下していく描写には萌え(?)ました。このあたりは、Voyage(1996)、Titan(1997)に続く架空宇宙開発シリーズのひとつといってもいいでしょう。
バクスターは本作でも登場人物をばんばん殺して地球まで滅ぼしてしまいますが、前作Titan よりは現実的な希望を残してくれます。一般小説と比べると登場人物の描写はまだ疑問符が付きますが、シリーズ化を考えていないだけ作品としてのまとまっており、日本でもそこそこ売れそうな気がします。邦訳されないのが不思議です。
一方、映画化されなかったのは納得できます。世界沈没とアポロ13とスタートレックを1作に詰め込むのは金かかりすぎますもん。
662ページはさすがに疲れますが、単語も地質学用語以外は比較的易しく、バクスターとしては読みやすい1冊です。
●ストーリー●
NASAの地質学者、ヘンリー・ミーチャーは、月の南極の地下に彗星由来の大量の水が眠っているという仮説を証明するために月面の無人探査計画を進めていた。しかし、財政難でプロジェクトは中止され、宇宙飛行士の妻ジーナとも離婚するはめになる。居場所をなくした彼は、止む無くスコットランドの研究所に移り、アポロが持ち帰った月の石の研究に参加することを決める。
しかし、そのとき人類は、驚異の現象を目撃する。金星が燃え上がり塵となって消滅したのだ。世界中の科学者が調査に当たるが、原因の手がかりすらつかめない。
ヘンリーが務める研究所があるエジンバラは、太古の死火山の上に築かれた歴史ある都市だった。ある日、ヘンリーの助手・マイクは無断で研究所から月の石の一部を持ち出し、誤って、アーサー・シート公園に撒き散らしてしまう。その場所から、公園の古い岩盤が銀色に変色し始める。ヘンリーが調査した結果、微小な構造体が岩を分子以下のレベルで変化させている事が分かる。やがて強固だったエジンバラの地盤が沈下し、町の基礎を成す死火山が噴火を始め、イギリス全土に非常事態が告げられる。
しかし、時すでに遅く、「ムーンシード」と名付けられた岩を喰う月の粉は火山灰に乗って全世界に広がり、地球を蝕み始めていた。ここに至って、金星の消滅は、1970年代に送り込んだ金星探査機に付着していたムーンシードが原因である可能性が指摘される。だとすると、地球の消滅まであと30年しかないのだ。
ヘンリーは、NASAにムーンシードの根源である月の緊急探査を提案する。ヘンリーの元妻ジーナが中心となり、手持ちの機材を使った有人月面探査計画が突貫工事で進められ、2か月後、ヘンリーとジーナはつぎはぎだらけのソユーズに乗り込み、月に向かった。
ムーンシードの謎は解けるのか。人類は生き残ることができるのか。
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